企業インタビュー(12) freee株式会社様

通称「五反田バレー」地区をベースに、STI(科学技術イノベーション)の力でSDGs(2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標)などの社会課題に挑戦する、素敵な企業をご紹介するシリーズ。

第十二弾は、「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに掲げ、「アイデアやパッションやスキルがあればだれでも、ビジネスを強くスマートに育てられるプラットフォーム」を提供する、freee株式会社様です。

2020年1月30日、西五反田の五反田ファーストビル9階にあるfreee株式会社様におじゃまして、経営管理本部カルチャー推進部部長の辻本祐佳様にお話をうかがいました。今回は「次世代レポーター」として立正大学品川キャンパスの大学院生も取材に参加しました!

freee株式会社 経営管理本部カルチャー推進部部長 辻本 祐佳 氏

ーー2019年12月17日に東証マザーズに新規上場したばかりのfreeeのオフィスは、活気に満ちていました!

スモールビジネスを強く、スマートに

ーーさっそくですが、辻本さん、freeeとは、どんな会社なのでしょうか?

「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションとして掲げ、スモールビジネスの会計業務、人事労務業務などバックオフィス業務の課題を、テクノロジーで解決するサービスを提供しています。「アイデアやパッションやスキルがあればだれでも、ビジネスを強くスマートに育てられるプラットフォーム」というビジョンを目指しています。会計や人事労務は、ビジネスをやっていく上では必要不可欠な業務ですが、専門知識も必要で、リソースを割かないとできない、スモールビジネスにとっては、かなり荷が重いというのが従来でした。そこをサービスで手助けすることによって、例えば、「アクセサリー屋さんをやりたい!」と思った時に、やりたいと思うパッション、作るというスキル、こうしたらもっとみんなに楽しんでもらえるのではないかというアイデアがあるだけで、やりたいことを形にしていけるようなサービスを提供する会社です。

ーー今、世界には、SDGsに掲げられているような様々な課題があります。freeeが重視するグローバルな課題とは?

feeeはもともと、国内企業の90%以上を占めるスモールビジネスと言われる中小企業が、もっとテクノロジーを活用して生産性を上げていくことができれば、日本全体の国力、経済力がもっと上がっていくはずだし、そこに対して、今まだ日本全体でテクノロジーを充分活用しきれていないという課題意識から、2012年に設立されました。経済力向上と格差改善のためのテクノロジー活用が、freeeとしては関心の強い分野だと思います。

テクノロジー活用でスモールビジネスの生産性アップ

ーーそういった社会課題に挑戦するfreeeの取り組みや、課題解決につながる技術についてお聞かせください。

大きいプロダクトは会計業務の「会計freee」、人事労務関連業務の「人事労務freee」などがありますが、「会計freee」を例に説明します。従来の会計ソフトだと、バックオフィス業務というのは絶対にやらないといけないという前提があり、負担を減らすには、その入力を楽にしよう、というような発想だったのです。「会計freee」には、「実際、それは本当にやらなくてはいけないことなのか。本業のビジネスを営むことと別にやらなくてはいけないことなのか。あるいは、本業のビジネスをやっていく中で自然にそこもこなしていけるようになれば、そのために使っていた時間も、もっと本業のために使えるのではないか」という発想があります。限られた時間の中で、配分を変えられる、ということです。パン屋さんはパンを作りたかったのであって、会計をやりたかったのではないですよね。もしパン屋さんで日々、販売を入力するだけで、それがそのまま記帳や会計情報になっていくとなれば、別個にレジ締めなどをやらなくていいわけです。そうなったら、その分、早く寝て翌日の仕事に備えるなり、新しい製品を考えるなり、そういったことに時間をもっと使ってもらえる、それが基本的なコンセプトです。

freee株式会社の「マジ価値2原則」と「マジ価値指針」

弊社には創業の時からずっと強く浸透している「マジ価値」という概念があります。「マジ価値」とは、「ユーザーにとって本質的な価値があると自信を持って言えること」です。パン屋さんにとっての本質的な価値は、記帳業務が楽になることではなく、そのために使っていた時間を、もっと自分が本当にやりたかったことに使えることであるはずで、それをどうやって実現すればいいのだろうか、という考え方です。社員は皆、「マジ価値」という言葉が大好きで、社内でもいろいろなミーティングで使っています。社内に「マジ価値KPI」というのがあって、例えば、プロダクトを使ってくださるお客様が、手作業をどれぐらいしているか、というのをKPI化しています。手作業が減ると、それだけ間違いも減るし、その人たちが使える時間も増えるので、そういうことをKPIで追って、マジ価値を「届けきる」ために役立てています。

「マジ価値」を届けきるために

「届ける」ではなくて「届けきる」。マジ価値というのは、ともすればただの独善的な考え方になってしまいます。これがマジ価値だと考えていても、それが誰にも届いていなかったら、ただの独りよがりです。だから、「マジ価値というのは、届いて初めてマジ価値なんだよ」というのを社内でも言っています。一人ひとりがマジ価値に対して向き合い、組織として、作っているマジ価値、売っているマジ価値、売った後にユーザーが使いこなせるようになるマジ価値、というのをちゃんとつないでいかないと、どこかで切れてしまって、作ったけど知られていない、買ってもらったけど使われていない、となってしまったら意味がありません。だから会社の中でリリース情報をちゃんと共有したり、使ってもらえるための説明をお互いに協力してやっていこう、という想いを込めて、「届けきる」なのです。

「マジ価値」を熱く語る、辻本氏

ーーfreeeでは、イノベーティブなアイデアの創出や、イノベーティブ人財の育成について、どのような仕組みづくりや工夫をしていますか?辻本さんの率いる「カルチャー推進部」とは、どういう部署なのでしょうか?

カルチャー推進部は、立ち上がって1年半ぐらいになる部署ですが、一般的な会社で言うと人事と総務の機能を持っているチームだと思います。まさに人財育成のための制度やトレーニングや、新しい人が早く成果を出せるためのオンボーディングなどもします。そういう人事的機能もあれば、オフィスのマネジメントや、社内でのコミュニケーションの企画、福利厚生なども考えている部署です。なぜそれでカルチャー推進部かというと、まさに「マジ価値」を中心に置く考え方をする人たちが集まることによって、freeeという会社のカルチャーができていくのですが、そのカルチャーの構築に大きく関わる仕事を集約して、あえて人事総務部という名前ではなく、カルチャー推進部という名前にしています。

コミュニケーションに投資

オフィスづくりでも、コミュニケーションを意識しています。プロダクトのところでお伝えしたように、弊社は生産性向上や効率化を目指しているのですが、効率化した結果、というか、プロダクトで効率化するからこそ、その分の時間というのを、より実りあるところに投資してほしいという発想があります。それは社員との関係についても同じで、効率を求める会社だと思われがちですが、人とのコミュニケーションにはかなり投資をしています。オフィスのつくりとしても、例えば、全部の階にカウンターがあって、そこに飲み物を取りに行ったり、9階には軽食があって、そこに取りに行く。そこで誰かと会って、「あ、そういえばこの間どうでした?」という会話が生まれたり、コミュニケーションができるような仕掛けになっています。

freeeは今、500人ぐらいの規模ですが、週1回の全社会議をしています。情報を伝えるという観点だけなら、ドキュメントをシェアする方が効率的ですが、弊社には「あえ共」(あえて共有)という、大事な考え方があります。必要なことを伝えるのは当然で、その上でいろいろなことを伝えていくことによって、よりお互いにオープンにフィードバックし合うことで、ビジネスのスピードも上がり、他部署との連携も進む、という考え方なのです。ですから週に1回みんなで集まって、例えば「プロダクトを最近こういう方向で進化させようとしています」とか、「どこどこ部署の誰々さんってこういうことをしてすごいんです」とか、そういうことを共有し合っています。規模が大きくなったから遠くなるのではなく、お互いが何をやっているかわかるように、コミュニケーションにはかなり会社として投資していると思います。お客様から、freeeのそういう雰囲気が好きだ、と言っていただくこともあります。

freee株式会社 経営管理本部カルチャー推進部部長 辻本 祐佳 氏

世界を変える若い人たちへ

ーー小中学生、高校生、大学生など若い世代に伝えたいメッセージをおねがいします。

大人が若い人たちに「これはやったほうがいい」と言うことは、その人たちの制約になってしまいそうな気がします。若い人たちの方が世界をどんどん変えていって、十年前と今では全然違うように、ここからの十年間はもっと変わると思っています。だから今の中高生、大学生には、今あるものが当然だとか、それを前提に考えないでほしい、ということだけを伝えたいですね。「これをやっておいた方がいいよ」なんて大人が言うより、そんなことをもっと軽々と越えていった方がいいと思います。

自分が高校生ぐらいの時に先生に言われていたのですが、自分が勉強していることというのは、過去のいろいろな偉い人たちの叡智の頂点であると。だからその最新情報を吸収できるというのは、私の世代より今の世代の方が、たぶんより効率的だし、より最先端だし、間違いも正されているはずで、それはそれですごく価値あるものとして享受したらいいのではないかとも思います。

弊社には新卒の社員もいますが、若い人から教えられることばかりですね。単純な知識より、ものの考え方の方がずっと大事だと思いますが、その点では、新しい人たちから刺激を受けることばかりだと思っています。

そういう若い人のアイデアがプロダクトにも反映されています。弊社は、マジ価値を「届けきる」というのが本当に会社の中心にあるので、だからフラットでオープンなのが当然なのです。社長が言っているからとか、マネージャーが言っているから、それを鵜呑みにしてやりました、というのは全然推奨されず、社長であっても、新卒であっても、マジ価値というものに対して一人と一人として、本当にガチで向き合ってください、というメッセージも「届けきる」に込められています。だから先輩と後輩でも、それぞれの視点が違うというだけで、先輩ならではの視点と、後輩ならではの視点、どちらが本当にマジ価値かというのを同じ土俵で戦わせています。

freee株式会社 ロゴマーク

社名・ロゴに込められた思い

freee の社名には、まず、スモールビジネスをより自由にするという意味があります。e が3つあるのは、最初にfreeeを作った人が3人だからです。そしてツバメなのですが、滑空ではなくて羽ばたきで飛ぶ鳥では、ヒメアマツバメが最速らしいのです。「最速でスモールビジネスを自由にしていく」ということを意味して、この社名になりました。社員は皆、このツバメが大好きで、ぬいぐるみを作ったりしている人もいます。

ーーfreeeをはじめ、テクノロジーで社会課題に挑戦するイノベーティブな企業が集まる、通称「五反田バレー」地区の魅力や、企業と地域の関わりについて、教えて下さい。

私自身も実は五反田にもう4年ぐらい住んでいるのですが、弊社には、この地域に住んでいる人がたくさんいます。近隣に住んだ人には一定の手当を出しているのですが、職住近接によって、例えば、電車通勤によるストレスが軽減する等のメリットはかなり大きいと思います。最初は麻布で創業したのですが、社員数が増えるにつれて、家族で近くに住んでもらえるということを考えたら、近くに住めるような地域で、かつ、コミュニケーションのために、できれば会社周辺でみんなでご飯を食べられるような地域を探しました。五反田にはいろいろな飲食店があって、昼にランチに出かけたり、夜ちょっと飲んだり、選択の幅が広い街だと思います。みんな大好きですね、五反田。

ーー地域貢献ということでは、子どものためのプログラミング道場「CoderDojo 五反田@freee」に、会場提供をしていますね?

CoderDojo 五反田@freeeには、近隣に限らず社員の子どもたちも来ています。子どもたちがfreeeのエンジニアにプログラミングを教えてもらったりして、CoderDojoというイベントを通して、社員どうしも知り合いになれるし、会社でふだんの業務とは違う関係性を深められるというのも、いいなと思います。

ーーお話をうかがって、freeeは「スモールビジネスを、世界の主役に。」することを目指す、ムーブメント(社会運動)だ、という思いを抱きました。

freeeが目指す世界の方向性に共感する仲間が集まってきて、自律的にアクションを起こす、それが原動力となって、世界は変わるのではないか、と。

ありがたいことに、freeeがやろうとしていることを理解していただき、従来にはなかった発想に共鳴して、使ってくださるユーザーもいます。会計士さん・税理士さんのコミュニティもあって、それをまさに「マジ価値コミュニティ」と呼んでいるのですが、皆さん顧問の先を持っていらっしゃるので、その人たちが、より自分たちが本当にやりたかったことに注力できるために、freeeの発想がとても大事だと考えて広めてくださっています。ですから、まだまだ届ける先はたくさんあるのですが、ありがたいことにそうやって共感してくださっている方々もたくさんいるので、少しずつがんばっています。

ーーSDGsで起きていることと、シンクロしている気がします。大企業は昨今、ESG投資の観点から、SDGsに取り組まざるを得なくなっています。一方、日本企業の90%以上を占めるスモールビジネスが本気で取り組まなければ、実現は不可能だし、ベンチャーだからこそ起こせるイノベーションがあります。

そういう全国の中小企業やスタートアップが産官学民の国際連携できて、金融支援も受けられる、SDGs Innovation HUBを構築する動きが出てきています。

今回のシリーズでインタビューさせていただいた、五反田バレーの中小企業・IT企業の方々と、ぜひこれから連携していけたらと思います。

聞き手:木村京子(エシカルコンシェルジュ)

freee株式会社様へ
「次世代レポーター」からの取材感想

「マジ価値」という言葉を大切にしている姿が印象的でした。“何が本質的で価値があるのか”とことん追求し、今(従来)の考え方に囚われず、学生から教わることが多いといった謙虚な姿勢を持ち合わせているからこそ、ここまで会社として成長を遂げているのだと思いました。この「マジ価値」という考えが日本に広まった場合、大きなムーブメントが起きるのではないでしょうか。それはSDGsにおいても言えることで、何が本質的で価値があるのかを追求していけば、必然的にSDGsの目標に辿り着くと思います。freee株式会社のような会社が増えていけば日本も変わるのでは?と思わないわけにはいきませんでした。(立正大学大学院臨床心理学専攻修士課程1年 田崎 正和)

企業インタビュー(11) 株式会社XSHELL様

株式会社XSHELL 取締役 Chief Product Officer 杉田 知至 氏

通称「五反田バレー」地区をベースに、STI(科学技術イノベーション)の力でSDGs(2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標)などの社会課題に挑戦する、素敵な企業をご紹介するシリーズ。

第十一弾は、日経新聞にも紹介された「IoTエンジニア養成キット」を提供し、テクノロジーの力で、人をより自由にする、株式会社XSHELL様です。

2020年1月21日、西五反田の五反田サンハイツ3階にある株式会社XSHELL様におじゃまして、取締役Chief Product Officerの杉田知至様にお話をうかがいました。

株式会社XSHELL 取締役 Chief Product Officer 杉田 知至 氏

ーーXSHELLのオフィスに一歩入ると、様々なパーツや工具が目に入り、ものづくりファンにはワクワクする空間です!

ものを生み出す本物の技術、学ぶ喜び

ーーさっそくですが、杉田さん、XSHELLとは、どんな会社なのでしょうか?

本質的な知識を得る喜びを感じる人々に対して、ものを生み出す本物の技術を与える事業を行っています。本来、人は誰でも学ぶことが大好きです。新しいことを身につけて、それが使えるようになるということに対して、知的な喜びを得る生き物なのです。でも、だんだん大人になるにつれて、仕事が忙しくなったり、仕事に関係ないことはあまりやらなくなったりすることが多くあります。学ぶって、けっこう時間がかかって大変なので。それに対して弊社が提供するのは、世の中にある新しいものを大人でも楽しく学べる教材とサービスです。

ーー今、世界には、SDGsに掲げられているような様々な課題があります。XSHELLが重視するグローバルな課題とは?

急激なテクノロジーの進化によって、すべての仕事のやり方が変わりつつあります。具体例を一つ挙げると、AIです。AIの登場で、旧来のシステムの作り方、進め方ががらっと変わり、また一から覚えないといけないというのが、今、世の中で起きている状況です。

ーーそういった社会課題に挑戦するXSHELLの取り組みや、課題解決につながる技術についてお聞かせください。

弊社が提供する「IoTエンジニア養成キット」と、もう一つ、2020年1月、toC向けにリリースして、2020年2月、toBにリリースする、「作って学ぶ人工知能」という、2つの商品がメインです。教材が届いて、自宅やオフィスにいながら、組み立て、開発を行い、実際にシステムをどうやって作るかを学べる、という商品です。日本全国、場所を選ばずに、どこかに来て学ぶのではなく、自分の好きな環境で、好きな時間に、IoTやAIの最新技術を勉強できる、というソリューションを提供しています。英語にしていけば世界にも展開できるものです。

AI、IoTの最先端技術を誰でも、いつでも、どこでも学べる

「IoTエンジニア養成キット」は2018年8月にスタートして、最初は企業のエンジニア向けに出したのですが、実はこれが一般の方にもすごくニーズがあるというのがわかり、デアゴスティーニと提携してtoCに出したところ、思いの外、反響があり、仕事でなくても、一般の人も最近こういう最新のものを、どういうものか学びたいという欲求がたくさんあるということがわかりました。

教材キットの説明をする株式会社XSHELL 取締役 Chief Product Officer 杉田 知至 氏

ーーどのような方が学んでいるのですか?

現状では、40〜50代の男性がボリューム層です。IoTという名前は聞くけれども中身はどんなものかよくわからないし、スマートフォンもどうやって作ったらいいかわからない。それで、子どもも大きくなってきて時間もできたし、また新しいことを学びたいという、そういう欲求の高い方たちなのかなと思います。生涯現役の世界になってきたので、その人たちが次のキャリアとして、確実に活かせます。若い世代は、どちらかというと企業の方ですね。すでに現場で働いている方が多いので、企業の研修として受けられています。

AIの方は出たばかりで、こちらは最初にデアゴスティーニと提携して一般向けに出したので、企業研修としての活用事例をこれから作ろうとしているところです。

ーー具体的に、どういったことが学べるのでしょうか?

例えば、IoTでは、いわゆるスマート・ホームを作りましょう、ということができるようになるための知識を教えています。ポイントは、物やサービスを作れる本物の技術を教えるというところです。何か一領域をやったらできるのではなく、サービスを作るために必要なことを全部やるので、電子回路、デバイス的なところもあり、プログラミングもあり、サービスを作るというところではクラウドも使い、本当にたくさんの領域を学ぶのです。まだ入り口ですが、奥は深いですね。まずはスタートラインに立つために、最低限必要なことというのが、本当にたくさんあります。

ーー受講者の地域的な分布はどうでしょうか?

東京と愛知が多いですね。東京はIT関係、愛知は製造業が多いです。今まで学ぶ機会があまりなかった過疎地域などにも広めていきたいですね。今はインターネットさえつながっていれば、どこでも仕事できますので。

出たばかりですが、AIはかなりニーズがあるだろうと思っています。日本のIT企業の75%が、AIの人財が足りないと言っている状況で、AIの学習を自分で行って、私もこれを実際に使ったのでわかるのですが、本当にAIを作れるようになるのですよ。ですから、地方であまり仕事のない人も、これでスキルを身につけて、リモートでAIの開発をします、と言ったら、その人は東京並みの単価で仕事ができるわけです。子育て中の女性などにもぜひ勧めたいですね。

大学生向けパッケージも、まだ先の構想ですが出していきたいと思っています。大学生がこれから社会に入っていく上で、絶対にAIの知識が必要になるので、そこに提供したいという思いがあります。今あるコンテンツでも、大学生が充分できます。自分で作りたいものを作るというものなので、公教育の中でもアクティブ・ラーニングをやっている学校なら可能性あるかもしれません。中学生・高校生でも起業してしまうような方もいますので、そういう方々には、いいと思います。

ただ、今はビジネスの現場で圧倒的に困っているので、まずそこからです。次のステップとして、将来の人財を育てるところへ、です。

IoTコースで30万円/6ヶ月、AIコースで32万円/4ヶ月。意外と高いと思うかもしれませんが、実は、この金額って英会話と一緒なのですよね。6ヶ月かけて英会話をやるという選択肢の中に、6ヶ月かけてIoTを学ぶとか、AIを学ぶ、というのが普通に並ぶ時代になってきたのだな、と考えています。

個人のレベルに合わせた学習環境を目指す

eラーニングに関して、今、構想としては、個人のレベルに合わせて自動的にコンテンツを出して、ちゃんとレベルアップするというところを目指して、システム開発しているところです。現在は、その部分を、弊社のエンジニアがテクニカルサポートをして、受講者のレベルに合ったサポートを行っています。

通信モジュールはwi-fiです。どんな通信環境であれ、どういうふうにシステムを作るというのは大きくは変わらないので、まずはベースのところですね。

ーーXSHELLでは、イノベーティブなアイデアの創出や、イノベーティブ人財の育成について、どのような仕組みづくりや工夫をしていますか?

弊社は、経営陣のほ全員が元エンジニアという組織で、ものを作れることが当たり前の人たちなのです。ですから、「AIなんて、やったらできるよね」「IoTだって、やったらできるじゃん」とみんな思っていたのですが、どうやら世の中はそうではない、とわかってきました。そこで、私たちが考える、ものを作る時、どうやって本質的な技術を見抜いたらいいのか、というようなことをエッセンスにして、キット化して出していったら、これが社会のニーズに合ったのです。私たちは当たり前だと思ってしまっているのですが、あらためて言語化すると、とにかく作ることですね。実践あるのみです。作って初めて理解するので。弊社のエンジニアですと、営業に行く前に、先にプロトタイプを作ってしまうのです。それで、「こんなのがあるから、欲しいでしょ」と。

まず作る、作りながら学ぶ

ーー小中学生、高校生、大学生など若い世代に伝えたいメッセージをおねがいします。

ことテクノロジーに関して、一つ言いたいのは、まず作ることを目的にしてほしいということです。先に作りたいものを決めて、さっさと作り始めることです。必要なことは、作りながら学べばいいと思います。プログラミングを学ぶというインプットもいいのですが、実はそれだけだと、ものは作れません。ものを作るという視点に立って必要なことを学ぶ、というのをやっていくことで、初めて、社会で通用する本物の技術が身につくので、先に作りたいものを、どんな突拍子もないものでもいいから、決めて、作り始めるというのを、やってほしいですね。

とにかく作ってください。私自身、小さい時から何か作って、問題を起こして、直して、というのをずっと繰り返してきました。だからこそ、今、最先端のITなど出てきても普通に使えるようになったので。最初は、中学生になる時に、ホームページを作りたいという欲求でPCを買ってもらって、プログラミングを覚えました。ホームページの作り方を一切知らずにスタートだったのですが、でも作りたい、どう作るんだ、最初はホームページ・ビルダーで作って、他の人のを見たら、なんか色が変わったりする、これどうやっているんだ、となってCSSを覚えて、掲示板ってどういう仕組みなんだ、というのでPerlを覚えて。とにかく、作りたいが先にあって、必要な技術をどんどん覚えてという形でした。今の子どもたちですと、アプリを作りたいとか、ゲームを作りたいとか、それで、どんなゲームを作りたいか、ではそれを作るのに必要な技術は、というとすぐ学べてしまう。例えばPythonが儲かるからPythonを覚えようというアプローチは、筋が悪いと思います。Pythonが終わったらどうなるのか。子どもたちが大人になるまでに、Pythonは廃れるかもしれません。だからこそ、「本質的な知識って何?」というところをちゃんとしないと。最初に作りたいものがあれば、これ作りたいからPerl使います、これ作りたいからPython使います、これ作りたいからGo使います、という選択ができるのです。かくいう私も、Perlやって、Perl JavaScriptやって、PHP JavaScriptやって、今、Pythonやって、という形で、どんどん言語は変遷しているので。でも結局、原理を知っていたらほぼ一緒なのですよね。得意なことが違うというだけで。ものづくりは、作りたいものがベースでテクノロジーを身につけていったら、その人はおそらく一生楽しいと思うのですよ。何歳になっても、作りたいものが作れる。

株式会社XSHELL 取締役 Chief Product Officer 杉田 知至 氏

ものづくりスタートアップに最適な「五反田バレー」

ーーXSHELLをはじめ、テクノロジーで社会課題に挑戦するイノベーティブな企業が集まる、通称「五反田バレー」地区の魅力や、企業と地域の関わりについて、教えて下さい。

なぜ五反田にいるのか、いくつか理由がありますが、弊社のような若いスタートアップが、まだ入りやすい場所なのです。地価が安かったのもありますが、もともとソニーがいて、ものづくり系の企業がたくさんいたので、ものづくりスタートアップが入っていくにはとても良い場所だったなと思っています。実際、五反田バレーが立ち上がって、それまで個々で活動していた人たちが、お互い集まって交流できるようになったのは、画期的だと思います。DEJIMAというスペースが、五反田バレーの本拠地です。そこから他の企業とコラボレーションして、新しいビジネスが始まったりしているので、ああいう場所があるのは非常に大きいですね。

一方、私自身、プライベートな活動でCoderDojo五反田という、子どもたちにプログラミングをできる場を提供するという活動をしています。この考えに、五反田にあるスタートアップのfeee株式会社にも共感していただき、会場を提供いただいて、品川区近辺のお子さんが集まる場所になっています。ただ、「地域貢献」ということはあまり意識せずに、どんな地域にも、学校でやっていないことを、「僕はプログラミングに興味あるんです」「私はものづくりに興味あるんです」という人たちがいるので、そういった人たちが、いざやろうと思った時に、相談できる仲間がいないとか、先輩がいないという状況に対して、ここに来れば相談できる場所があるよ、という場を提供しているだけです。

会社でも、私のプライベートな活動でも、やりたいと思っている人にチャンスを与えるというのが、基本の考え方でして、IT業界におけるジェンダー・バランスに関してもそうです。CoderDojoでは、実は半数が女の子です。プログラミングが好きな女の子が、「ここに来たら、私ずっとプログラミングしてていいんだ」という場所になれば、そういった女の子が大きくなってIT業界に女性が増えてくるだろうなと考えてやっています。昔のプログラマーは、夜遅くまで仕事するとか、激務であるとか、ブラックであるとかで、これも女性が家事をするという前提の社会だから、女性が働きにくい場所だったのですが、今、働き方改革でどんどん労働環境がよくなっていますので、そういうのが整っいてくると、初めて女性も活躍できるのかなと思います。女性が家事をするのが前提の社会構造が好ましくないと思いますね。

聞き手:木村京子(エシカルコンシェルジュ)

企業インタビュー(10) セーフィー株式会社様

セーフィー株式会社 代表取締役社長 佐渡島 隆平 氏

通称「五反田バレー」地区をベースに、STI(科学技術イノベーション)の力でSDGs(2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標)などの社会課題に挑戦する、素敵な企業をご紹介するシリーズ。

第十弾は、「映像から未来をつくる」というビジョンのもと、防犯カメラ・監視カメラのクラウドサービスを通じて、映像配信はもちろん、映像からデータを取得することで、交通渋滞予測や来店分析といった「AI×映像データ活用」という未来をつくろうとしている、セーフィー株式会社様です。

2020年1月16日、西五反田の日幸五反田ビル6階にあるセーフィー株式会社様におじゃまして、代表取締役社長の佐渡島隆平様にお話をうかがいました。

セーフィー株式会社 代表取締役社長 佐渡島 隆平 氏

映像で、一人ひとりの未来が変わる!

ーーさっそくですが、佐渡島さん、セーフィーとは、どんな会社なのでしょうか?

「映像から未来をつくる。」というビジョンのもと、防犯カメラなどの映像をプラットフォーム化し、防犯のみならず、大量の動画データを活用して、マーケティング、業務のオペレーション、街の都市効率化といったことに、幅広く活用できるサービスを運営している会社です。映像から未来をつくるというのは、映像を活用して、一人ひとりの生活が良くなるように、例えば五反田駅で今、電車が止まっているということであれば、ここで一杯お茶を飲んで行こうとか、自分の未来というのが映像を介して、どんどん開けてわかってくるので、それを一人ひとりの意思決定に役立つような形で提供していく、ということです。

ーー今、世界には、SDGsに掲げられているような様々な課題があります。セーフィーが重視するグローバルな課題とは?

特に日本では、人手不足の問題というのがあります。皆さん、労働効率を上げて、働き方を良くして、自分らしい生活ができるように、という願いがあると思います。従来は、すべてのものごとはそこの場所に行かなければ解決できませんでしたが、映像で事前に見てチェックしたり、映像から自動的に指示が出て、自分が見えない世界を簡単に解決できるというところで、人の今までしきれなかったことができるようにというところが、弊社が解決しようとしている、いちばん大きな課題です。

働き方改革、街の安心安全など、社会課題をテクノロジーで解決目指す

ーーそういった社会課題に挑戦するセーフィーの取り組みや、課題解決につながる技術についてお聞かせください。

弊社のクラウドサービスは、大手飲食チェーン、アパレルチェーン、建設会社など、様々な企業にカメラが7万台以上、流通しているサービスです。その中でも、わかりやすい事例を挙げると、五反田にもあるのですが、焼き肉ライクという、一人で焼き肉が楽しめるお店があります。そういうお店で、従業員が注文を受けてから3分以内にお肉を出すことで、このビジネスがスケーラブルなビジネスになっていると考えていらっしゃるので、それを3分以内にお客様にちゃんとお届けできているのかというのを、本社でスーパーバイザーなど様々な方が映像で確認して、その店の教育をもっと上げていく、お客様サービスのレベルを上げていく、そういったことに活用されています。

建設現場の事例では、今、大阪で建設中のビルで、現在の進捗状況を瞬時に確認して、しっかりとその工程ができているかというエビデンスを取っていくのに動画を活用しています。例えば4月から6月の状況、7月の状況と、ビルがどんどん建っていくにつれて外から中が見えなくなってくるのを、動画を活用することで、エビデンスとして保証していくのです。いろいろなカメラがありますので、従来は広い現場をトランシーバを使って声でしか管理できなかったのが、映像と声のセットで管理できるものや、映像を使って入退場を管理できるものなど、いろいろなものを、映像を核にしたイノベーションをベースに取り扱っています。

セーフィー株式会社の受付

ーー対象は企業ですか?

個人のお客様にカメラを買っていただくケースもあります。前述の入退場を管理するものはオフィスで使われるケースが多いですが、最近はカメラを置いておくと自動的に顔認証して、この方はここに何回目の来訪ですよ、というのを自動的に教えてくれるサービスもあります。例えば、車を買いに来るお客様であれば、一回目は試乗してみよう、二回目は気に入ったからもう一回行こう、ということで、一回目よりも二回目の方が購買確率が上がるので、二回目の方に対して、より購入の意志を促進できるようなセールストークをしていくとか、そういったアプリケーションとして応用していくことができるようになってきています。

今までそういうVIPのお客様の情報というのは、特定の店長さんが昔からいたから知っているというような世界だったのが、こういうツールを使うことによって、以前どういう購買をされたのかとか、どういう方なのかというのを、簡単に見直すことができるようになっています。

映像を使えば、世の中のありとあらゆることがわかり、それが皆さんの意思決定をどんどん良くしていけるという、そこがポイントです。

ーーすばらしい!地域や自治体等で活用されるケースもありますか?

先日の台風の時も、街で川が氾濫するなど、そういったことがありましたが、例えば、こういう河川のカメラを弊社のサービスを使ってYouTubeにつなぎ配信したり、そういったこともやっています。もし川が溢れそうになってきたら、逃げるか逃げないかもわからないという、そんな世界があると思うので、「まず自分たちでYouTubeで見てください」というように役所のホームページに載せるなどしないと、広範囲な河川氾濫みたいな世界だとわからないですし、そういったものをさらに、AI分析により事前に通知していくというのも、今後、弊社がやっていかないといけないポイントだと思います。

クラウドサービスで、コストを押さえて、常に最先端の映像技術を

ーーセーフィーのサービスが他社と比較して突出しているのは、どのような点でしょうか?

すべての映像をクラウドで管理できることです。従来の防犯カメラは、カメラを買った時が最新、最先端という状況でしたが、クラウドの良さというのは、買った時からどんどん賢くなっていくということなのです。弊社は今、シェアNo.1になっていて、NTT、セコム、キヤノン、大手のいわゆる防犯カメラを販売している会社のクラウドシステムは当社がOEM提供していることが増えましたので、あらゆるところから買っていただいても弊社のプラットフォームにつながる可能性が高くなってきたというのが特徴です。

クラウドでの映像を活用していけるように、業界全体を大手のみなさんと一緒につくっていく取り組みをおこなっており、協調して投資していくことでさらなるアプリケーションの拡大が見込まれています。

ーー今後、どういうところを目指していくのでしょう?

先ほど事例として挙げた飲食店の業界では、QSCA=Quality(クオリティー) Service(サービス)Cleanliness(クレンリネス)Atmosphere (アトモスファー)という多くの企業が採用している経営指針を、すべて数字で管理していこうという傾向があります。例えば、何歩歩いたら社員が辞めてしまうか、交差しているオペレーションがあって「ごめんなさい」と何回言っているか、とか。前述の焼き肉ライクなど、伸びている飲食チェーンは、皆そういう定数管理化で、かつそれをリアルタイムで、という方向に、どんどんなってきているのですね。リアルタイムでないと、起きた後にしか改善できず、結局意味がなくなってしまうので、どんどんそれをリアルタイムにしていきたい、それによって働き方を良くしていきたいというのが社会のニーズだと思うので、それを弊社が映像を核にして支援していくというのをやっているところです。

同じような企業と共同で使えるパッケージという特徴を活かし、さらにAIで需給分析などもできるようになっています。日々の来店人数がわかると、今日の天気がこうで、去年のデータがこうで、来店人数がこうなので、と需給を分析できますが、それを今までは過去データからしかできなかったので、今日の、明日の、未来の、となると、まさにこの瞬間を見ないといけないので、映像を活用しない手はないという方向に、今どんどん社会がなりつつあるので、業界全体のルール作りが必要となってきていると考えており、大手と連携しながら、先陣をきって切り開いて、社会で求められる責任を果たしていきたいと考えています。

映像を活用してAIが人の仕事をアシスト

今後AIが社会を変えていくというのが非常に現実的になってきていると弊社は考えていて、AIを活用したあらゆるサービスを提供していこうとしています。例えば、飲食のチェーン店にたくさんのカメラが入っていると、その業務を店側が見るだけではなく、お客様が、今どこのお店が空いているのか知りたい時に、そういったことをAIで、今空いているお店はここですよというのを教えてもらえるとか、例えば、よくある状況かと思いますが、レジに人がたくさん並んでいるのに、他のパートの方はわからないのでずっと荷物の整理をしていて、「何番レジお願いします!」と言わないと来てくれないとか、そういった場面で、AIによって全自動で管理ができるとスムーズに行くと思うのです。パートの人の仕事をなくすのではなく、逆にアシストしてあげることで、より人間的な接客などに従事できたり、空いている時間に棚を整理できたり、そういった、今まで勘と経験でやってきたことが、カメラという第3、第4の目によってAIと連携していくことで、社会課題をどんどん解決できるということがポイントです。

セーフィー株式会社 代表取締役社長 佐渡島 隆平 氏

ーーセーフィーの経営者として、イノベーティブなアイデアの創出や、イノベーティブ人財の育成について、どのような仕組みづくりや工夫をしていますか?

弊社のカルチャーの中に、「異才一体」という言葉があります。要するに、人は皆でこぼこです。多様な価値観を認め合って、異なる才能が一体になることで、一人ではできない大きな成果を生み出します、ということです。突出した才能がある人のアイデアを認め、周りが助けて一気にそれを成長させていこう、ということです。ソフトウェア産業では、一人のアイデアや夢が世界を変えていくということが、かなり現実的にあり得ます。そういった人たちが生き生きと働けるような環境を用意して、異才の人が、それぞれがバラバラではなく、皆が一体となるチームになってこそ、大きな成果が生み出せるという、そういうカルチャーを作って、皆がユニークなアイデアをどんどん出して行けるような会社にしています。

「好き」を追究、アイデアが世界を変える

ーー小中学生、高校生、大学生など若い世代に伝えたいメッセージをおねがいします。

まさに世界がフラット化して、かつ一つのアイデアをインターネットを介して自分から発信して、形にしていったり、チームを作ったり、ということが、非常に簡単にできる世の中になってきていると思います。自分がこれが好きだと思うことを徹底的に追究して、そういう才能は皆それぞれあると思うので、その才能を徹底的に磨いておくことが、とてもだいじなことだと思いますし、それを活かし合う組織やチームに自分たちが選んで所属することができると思うので、そういった人を見つけ合っていくこと、コミュニティを自分の中で持っていくということが、若い人たちにとっては非常に大切なのではないかと思います。

私自身の経験から言いますと、ここ品川区に以前は本社があったソニーグループの出身で、弊社は最初、ソニーグループ出身者だけで創業しました。日本の旧来の価値観では横並びの考え方というのが主流でしたが、ソニーという会社は、「自由闊達にして愉快なる理想工場」という中で、個性から生まれる面白さをだいじにして新しいプロダクトを世界に発信していくことを、まさにやっていた会社です。そこで長く育ったので、そういう価値観が身につきました。それ以前の若い頃も、自分で起業した経験もあります。新しいアイデアがあったらどんどん試してやってみるということで、学校や家族といったコミュニティだけでなく、インターネットを通じて、いろいろな人と幅広くコミュニケーションしながら、いろいろな活動をしてきたかなと思います。若い人は、自身の才能を生かす為にも、インターネットを通じたコミュニティを活用していくと、自分の未来を切り開いていけるのではないかと考えています。

セーフィー株式会社 代表取締役社長 佐渡島 隆平 氏と、鈴木 章子 氏(広報担当)

新しい息吹が集まる「五反田バレー」

ーーセーフィーをはじめ、テクノロジーで社会課題に挑戦するイノベーティブな企業が集まる、通称「五反田バレー」地区の魅力や、企業と地域の関わりについて、教えて下さい。

五反田の魅力は、住むこと、働くこと、遊ぶこと、飲みに行くとか(飲みニケーションを含めて)がすごく一体になっていて、そこに新しい息吹のある会社が集まってきていることだと思います。会社の枠を越えて、プライベートを含めて皆で飲みに行ったりできるような環境が魅力的ですし、しかもそれが、住んでいるところと近いところにギュッと詰まっているというのがいちばんの魅力かと思います。

弊社も理事企業になっている一般社団法人 五反田バレーを通じて、五反田のいわゆる若い会社の中で採用活動を一緒にやっていくとか、五反田を盛り上げるための区のイベントに一緒に共催して出てお話するとか、そういったことは積極的に取り組んでいます。

聞き手:木村京子(エシカルコンシェルジュ)

企業インタビュー(9) 株式会社マツリカ様

株式会社マツリカ 代表取締役Co-CEO 黒佐 英司 氏

通称「五反田バレー」地区をベースに、STI(科学技術イノベーション)の力でSDGs(2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標)などの社会課題に挑戦する、素敵な企業をご紹介するシリーズ。

第九弾は、「世界を祭り化する。」をミッションに、 クラウド営業支援ツール「Senses」を運営する、株式会社マツリカ様です。

2020年1月14日、東五反田の五反田第三花谷ビル9階にある株式会社マツリカ様におじゃまして、代表取締役Co-CEOの黒佐英司様にお話をうかがいました。

株式会社マツリカ 代表取締役Co-CEO 黒佐 英司 氏

ーー黒佐さんは、一般社団法人 五反田バレーの代表理事でもあるので、そのお話をうかがうのも楽しみです!

営業支援ツールで「仕事自体の価値」、働き方を変える

ーーさっそくですが、黒佐さん、マツリカとは、どんな会社なのでしょうか?

弊社のミッションは「世界を祭り化する」です。「祭り化する」というのが造語なので、まず簡単に説明すると、人が何かに没頭したり熱中したりしている瞬間、スポーツで言うと「ゾーンに入る」、あれのもう少し時間軸が長いイメージです。「世界を祭り化する」というミッションをもとに、営業組織に対してSFAやCRMと呼ばれる営業支援ツールを提供しています。それがミッションからどうつながったのか。「祭り」という言葉がついているので、エンタメ事業やBtoCの事業かと思われがちなのですが、弊社はBtoB、法人向けにフォーカスしています。「人が祭り化する」ということを考えた時に、社会人って圧倒的に仕事に使う時間が長いのですよね。その時間をないがしろにして、それ以外の部分だけを祭り化していくのは難しいだろうなというのがあり、仕事自体の価値を変えていく、働き方を変えていく、というところから、BtoBの営業支援につながりました。営業って属人化しやすかったり、本来はクリエイティブで楽しい仕事のはずなのに、どうしても数字に追われて厳しい、苦しいというイメージがあったりするので、そこを変革していきたいという思いで、この事業をやっています。

株式会社マツリカのミッション「世界を祭り化する」

自由な風土・文化を支えるバリュー

組織に関しては、「マツリカってどんな会社?」と問われた時に、「すごく自由な会社です」と、中の人も外の人も言います。働く場所・時間や、裁量も含めて、非常に自由な風土・文化です。もちろん会社なので、労務管理など法律に関わるところはしっかりしていますが、業務を進める上での管理というのは一切ありません。その自由な風土・文化をどうやって支えているかというと、「Initiative」「Liberty」「Creativity」という3つのバリューを、マツリカではとてもだいじにしています。この3つのバリューだけは、共通の価値観として約束して、各々が責任を持ち、自由な裁量で働いています。

ーー今、世界には、SDGsに掲げられているような様々な課題があります。マツリカが重視するグローバルな課題とは?

事業やミッションに直接つながるのは、「働きがいも経済成長も」ですね。「ジェンダー」とか、「平等」も関係します。働き方を改革しつつ、企業側の価値観も変えないと、制度ばかり先行しても、それらの課題の解決は、なかなか実現しません。そのあたりが、弊社の事業に直接つながる課題だと思います。

営業の現場、より豊かに、より楽しく、やりがいを

ーーそういった社会課題に挑戦するマツリカの取り組みや、課題解決につながる技術についてお聞かせください。

SFA、CRMというのは、営業管理ツールとか、顧客管理システムとか呼ばれるのですが、基本的に会社SFA・CRMというのは、営業管理ツールや、顧客管理システムと呼ばれますが、基本的には会社の顧客データベース、売上、商品などを一括で管理するものです。SFA・CRMの業界は古く、20年以上前からある程度の市場も存在していた中で、弊社はだいぶ後発で入っていきました。「管理」という言葉が示唆するように、基本的には管理者に価値が届くツールなので、少し極端な言い方をすると、実は現場を無視したツールになってしまっていました。現場というのは、いわゆる営業パーソンですね。従来のSFA・CRMでは、営業パーソンが日々どういう行動をしているか、お客様にどんな話をしているか、という記録を情報として残すことで、管理側は組織として何が行われているかを把握できるということなのですが、実際に入力する現場の人からすると、「入力させられている、面倒だ」と感じたり、どう自分たちの役に立つのかというメリットを感じづらい、ということで、結局、運用に乗らない、入力されない、という問題が起きていました。もともと営業は属人化しやすく、個人商店になりがちな職種です。そうなると組織としてサステナブルでないので、知識や情報の蓄積が個人に留まらないように、管理ツールが必要となりますが、それが管理者側の意志だけで成り立ってしまうのではなく、現場にいる個人もちゃんと使いたい、自分たちにメリットがある、と思って使ってもらえることが非常に重要です。そこで、現場の営業パーソンにとっても、自分たちの営業活動をより豊かにするために、より楽しく、やりがいを持って使えるSFA・CRM、というところにフォーカスしているのが、弊社のプロダクトです。

弊社のプロダクトの強みは、主に2つあります。「使いやすい」ところと、「現場にメリットがあり使いたいと思う」ところです。

まず、使いやすさについては、UI、UXに非常に拘りを持って作っています。例えば、他社のツールで3クリック、4クリック必要な動作が、弊社の「Senses」では1クリックで済みますよ、というようなことが、あらゆる機能で実現されています。

次に、現場にメリットがあり使いたいと思う、というところですが、従来のツールには欠けていたその視点を、弊社ではとても大事にしています。現場目線の開発を重要視しており、それがいろいろな機能にあらわれています。例えば、営業の人が活動の先に求めているものは、ほとんどの場合、受注成約です。なので、受注成約に向けて、何かヒントを得られるとか、そこに近づける材料が得られるのならば、喜んでもらえるはず。弊社のプロダクトでは、それを機能化しています。もう少し具体的に言うと、例えばある会社、ある人に提案しに行く時に、どういう提案を持っていったら受注に近づけるか、自分で考えるには限界がありますし、属人的になっている今までの自分の知識・経験だと、必ずしも充分ではなかったりする。なので、過去の事例やデータをAIで解析して、このお客様の、この局面では、こういう提案書を持っていったらいいのではないかというヒントを出してくれる機能があります。そういう機能を使うことで、「あ、こうすればいいんだ」とか、考えが及ばなかったところまで気づきを得られて、営業活動に活かせて、結果的に受注率が上がる、というところにつなげていくのが狙いです。

「何を解析するか」がだいじ

AIについて近年よく言われていますが、マシンラーニング、ディープラーニングなどと、いろいろなAI技術を使うことや、その技術の高さや精度よりも、実は、何を解析するかがだいじです。つまり、重要なのはデータです。そのデータの残し方に、弊社の強みがあります。SFA・CRMが世の中に出始めたのは約20年前ですが、当時は今で言うクラウド・サーバ、AWS、GoogleのGCP、MicrosoftのAzureなどはありませんでした。クラウド・サーバがなく、サーバ代に非常にコストがかかっていたので、そもそも大量のデータを残して解析に使いましょうという発想がありませんでした。だから、その当時に作られたSFAのデータ・テーブルの設計は、すごく浅いものになっています。弊社は後発で、2015年に設立しているので、今の時代、これからの時代に合ったデータ・テーブルの設計ができています。ですから、同じように使ったつもりでも、溜まっていくデータの整理のされ方や、溜まるデータの量などに、圧倒的に差が出てきます。データの溜め方、整理のされ方は、データ解析においては非常に重要ですし、弊社が他社と差別化できるところかと思います。

弊社のプロダクトを使うと、データがあらゆる軸で非常にきれいに整理されます。すべての業種・業界がお客様です。業種も規模も設立年数も幅が広く、使い所によっていろいろですが、例えば、いわゆるスタートアップ企業、ベンチャー企業のようなな若い会社だとすると、最初は数人で始まりますよね。それが10人、20人になって、100人になって、500人になってと、成長していく中で、例えば営業が最初は2人いて月に4件の受注が出ていたとします。それが5倍の10人になると、受注も5倍の20件になるかというと、そうはいきません。生産性は落ちてくるのです。当然オペレーションを含まないといけないとか、いろいろ非効率な部分が出てくるからです。なので、生産性を落とさないように、2人ぐらいの時期で導入してオペレーションを確立したり、新しく3人目、4人目が入って来た時に、このSensesというツールが仕事の土台になっていれば、マンツーマンで手取り足取り教えなくてもSensesを見ると、こうやって進めていけばいいとか、この時にこういう提案書を送ればいいとか、全部蓄積されていて、自動的に教育してくれるようなシステムになっています。そういう意味で言うと、成長しても生産性が落ちない働き方、組織が作れる事例はたくさんあります。

他方では、設立50年以上の伝統ある会社が導入するケースもあります。昨今の働き方改革などで、ペーパーレスや生産性を高めようという意識で、今まで本当に属人的にやっていたものを、デジタルの力を使って何か改革しようという流れが来ている中で、従来の業務に非効率な面は少なくないので、導入した瞬間に効果が出るパターンも大いにあります。例えば、会議の頻度や時間が半分になるとか、報告業務や連絡業務が大幅に短縮されるとか、そういう効果は導入した瞬間に得られます。

劇的に変わる、営業の仕事

ーー未来の営業、どうなるでしょうか?

ある面では、すでに変わっていると思っています。10〜20年前まで、営業の仕事はほぼ情報屋でした。情報を与えることが勝ちでした。ですが、インターネット1.0から2.0の時代になって、誰でも平等に全世界の情報にアクセスできるようになった今、もう営業は情報の出し入れで勝負できなくなりました。昔は、然るべきタイミングで相手が欲しい情報を与えるということが勝ち負けを決めていましたが、今は本質的なソリューション営業が非常に求められています。「これが欲しいです」「ではこういう商品があります」というのは、世の中の情報を見ればわかるから必要ないんです。「これが欲しいです」の裏にある、なぜこれが欲しいのか、本当に欲しいものはこれで合っているのか、というところを掘り下げて、本質的な課題を見つけて、そこに対して提案をするという営業ができなければいけない時代になっています。これからもその流れがどんどん続いていくと思っています。

一方で、営業の数は減ると思います。ある程度の部分がマーケティングという領域でまかなえるようになったためです。昔は営業が情報屋となり、マーケティングの一部を担っていましたが、今はここをデジタルでかなりできるようになったので、営業の数は減るけど、質を上げなければいけない時代にますますなっていきます。

株式会社マツリカ 代表取締役Co-CEO 黒佐 英司 氏

「Liberty」と「Creativity」からイノベーションが生まれる

ーーマツリカの経営者として、イノベーティブなアイデアの創出や、イノベーティブ人財の育成について、どのような仕組みづくりや工夫をしていますか?

イノベーティブってすごく難しいのですが、ある日突然すごいアイデアが浮かんでくることってあまりなくて、ほとんどの場合、自身の知識経験と、その組合せによって生み出されるものです。ただ、アイデアに対する議論が交わしやすいとか、アイデアを出しやすい風土みたいなものを作るところで言うと、弊社には「Liberty」というバリューがあります。自由な発想、自由な環境、自由な方法で、誰に対しても胸を張って正しいと言える行動をしよう、という約束です。各自が責任をもち自由に行動することを大事にしているため、発言をする、アイデアを出す、というところにも、障壁がないようにはできていると思います。また、日々コツコツ積み上げることもだいじですが、「もっとこうしたら速くできるよね」という発想を忘れないことも重要です。常に今の目線ではなく、広い目線で考えて、創造性を発揮して行動しようというのが「Creativity」というバリューです。このLibertyとCreativityで、発言しやすく、かつそのアイデアも、今の目線に留まらずより中長期の目線で考え発信しようという風土が作れていると思います。

人生の本質的な意義

ーー小中学生、高校生、大学生など若い世代に伝えたいメッセージをおねがいします。

日本の新卒採用は特殊で、私個人としては今の一括採用のようなもの自体には意味がないと思っています。学生の時に業界研究、会社研究をして、その会社や業界の本質が見えるかと言うと、そんなことはありません。実際にやってみないとわからないことがたくさんありますし、もはや転職ありきだと思うのです。終身雇用なんてとっくの昔になくなっていますし、それは大企業でも中小企業でも関係なく、会社がいつどうなるかなんてわからないものです。だから、新卒でどこの会社に入るかという選択よりも、人生の本質的な意義を見つけてほしいと思います。自分が「何のために生きているか」「何に喜びを感じるか」など、自分自身の人生の本質的な意義を見つけることがずっと重要だと思います。これが学生の時にできると、もしかしたら就職ではない別の道があるかもしれないですし、起業でも、就職でもNPOなどに行くでも、何でもいいのですが、選択がもっとはっきりすると思うのです。人生の意義が見つかると、何のためにどういう行動をするが紐づいてきます。難しいことですが、学生の時にそれを見つけ、自分を見つめ直して、どうしてその道へ行きたいのかを決めることができれば、とても良いと思います。

株式会社マツリカの受付

「五反田=スタートアップ」

ーーマツリカをはじめ、テクノロジーで社会課題に挑戦するイノベーティブな企業が集まる、通称「五反田バレー」地区の魅力や、企業と地域の関わりについて、教えて下さい。

五反田に限りませんが、スタートアップが集まってくる場所や、コミュニティの存在は必要だと思います。それが五反田になった理由は、もともとは家賃が安かったこと。スタートアップは最初は渋谷などに集まることが多かったのですが、渋谷はどんどん家賃が上がり、入れるところもなくなって、次に山手線で言うと恵比寿になり、恵比寿も結構もう高いし、いっぱいだし、目黒へ行くと、空いているのですが、まあまあ高いのです。五反田に行くとぐっと下がる、ということで山手線をずっと移動してきたようなスタートアップの歴史があるのです。今では五反田も家賃が上がっていて、目黒などとそんなに変わらない。一般社団法人五反田バレーを設立して、スタートアップも増えてきて、上がってしまいました(笑)

もともと自然に集まっていた理由はなくなっているかなと思いますが、今は「五反田=スタートアップ」みたいになりつつあるおかげで、スタートアップが五反田に集まりやすくなっています。一般社団法人 五反田バレーが品川区と協定を結び、地域と一緒にスタートアップを支援していくような枠組みができているというのも、非常に意義のある良いことだと思っています。具体的に何かと言うと、やはり新しいものを始めるには、いろいろなハードルがあります。スタートアップは即ち、イノベーティブな、世の中に新しい価値を提供して課題解決をしていくことなので、いろいろなハードルがあるのですが、例えば採用でたくさん人が必要だとか、あるいはお金が必要だとかいう時に、一社だけでやるには限界があるし、無駄も多いです。集まった組織で、例えば採用イベントなどをすると、「五反田のスタートアップに行こう」ということで、かなり多くの人数を集められたりします。

お金に関しても、銀行とかベンチャーキャピタルとか一社ごとにあたっていくのは大変ですが、まとまっていると、その銀行やVCに合った会社はこれとこれですよ、みたいにピックアップできるので、かなり非効率が解消されたりします。また、シリコンバレーの例でいくと、地域住民の理解がすごく高いのです。これは何かというと、新しいサービスを何か始める時、日本だと法規制などがあって難しいのですが、例えばシリコンバレーなどだと、かなり前から自動運転車の試験運転がいろいろなところで行われていて、法規制もそうですし、地域住民の反対があったら絶対できないですよね。人が移動する時の電動スクーター、BirdやLimeのような、電動走行で好きなように乗って好きなところでポイ捨てしてみたいなものも、やはり日本でやると、法規制だけではなくて、地域住民の反対などすごいと思うのですが、あるエリアに特化して、区の支援もいただきながらだと、地域住民の理解も得やすくなります。新しいサービスなどを展開していく時に試験は絶対に必要なので、そこのハードルを取り除くという意味で、どこかに特化しているというのはすごく重要なのかなと思います。

一般社団法人 五反田バレーのメンバーは、基本的にはスタートアップですが、正会員だけではなく賛助会員もあります。なので、特にスタートアップでないと会員になれないということはありません。本来はスタートアップが世の中の社会課題をより解決しやすくするとか、成長しやすくするとかを目的として作られた団体になります。

品川区との連携を活かして

弊社はBtoB事業なので、地域住民との接点は多くはありませんが、それを必要とする企業はたくさんいますし、品川区との連携を活かして、もっと地域住民と一緒に街を作っていくようなことをやれたら面白いなと思います。例えば、コワーキングオフィスのようなものが、ここ数年で日本に広がり、五反田にも「Innovation Space DEJIMA」などがあります。でも、もう数年前からシリコンバレーなどだと、コワーキングでなくコセリングオフィスみたいなのが流行っています。何かというと、たまたま一緒にコワーキングスペースを借り合って仕事をするだけではなく、お互いにプロダクトを紹介し合う、売り合うようなスペースなのです。お互いの成長のためにお互いのサービスを使ったり、購買したりするんですが、五反田だからこそそれができると思います。最初の数人で始めて、どことも何のつながりもないのではなく、始めた瞬間から試験導入してもらったり、アドバイスやフィードバックをもらったりという土壌が、五反田で作れるといいと思います。

資金流入も、だいぶ増えましたが、まだまだこれからだと思います。これまでのVCには金融畑の人が多く、アントレプレナーシップを持っている人、事業をゼロイチで立ち上げた人が、ほとんどいませんでした。起業家たちが新しくどういう未来を作ろうとしているのか、理解するのはただでさえ難しいのに、経験がないと一層ハードルが高いと思います。アメリカの場合、起業して、売却やIPOをして、その後、投資家側に回るということが、だいぶ前から起きているので、結構エコサイクルができていますが、日本では、ようやく最近、エグジットしてそれなりに富を形成してそのお金でエンジェル投資をするというのが始まってきたので、もう少し増えてエコサイクルができていくと、もっとレベルが上ってくると思っています。

聞き手:木村京子(エシカルコンシェルジュ)

企業インタビュー(8) アスプローバ株式会社様

アスプローバ株式会社取締役社長田中 智宏 氏

通称「五反田バレー」地区をベースに、STI(科学技術イノベーション)の力でSDGs(2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標)などの社会課題に挑戦する、素敵な企業をご紹介するシリーズ。

第八弾は、ひと・モノ・資源をつなぐ生産スケジューラで、「計画通りに、無駄なく、効率よく」という現場のニーズに応える、アスプローバ株式会社様です。

2019年11月7日、西五反田のKDX五反田ビル3階にあるアスプローバ株式会社様におじゃまして、取締役社長の田中智宏様にお話をうかがいました。今回は「次世代レポーター」として立正大学品川キャンパスの大学院生、そして撮影スタッフとして関東学院大学人間共生学部の学生も取材に参加しました!

アスプローバ株式会社 取締役社長 田中 智宏

世界の工場に、計画をすばやく立てる生産スケジューラを

ーーさっそくですが、田中さん、アスプローバとは、どんな会社なのでしょうか?

弊社は1994年創業、以来25年間、世界の工場向けの汎用生産スケジューラというソフトウェアの研究・開発・販売に特化してきました。一般の方には、生産スケジューラは馴染みがないと思います。例えば、あるメーカーが工場で原料から削ったり、組み立てたり、塗装したりという工程を経てものを作るとします。それには削る機械、組み立てる機械、塗装する機械や、それらを準備する人などが要るのですが、そのために、今日何時何分何秒からどれだけものを作りますよ、という計画を、秒単位で全部きれいに立てます。そうすると、その人は今日何時何分何秒から何をすればいい、次に何をすればいい、そしてその今日3時に来るものは、前の工程が1時に終わっているからとか、そういうのを全部見られるようなガントチャートというのがあります。要は、生産スケジューラとは、計画をすばやく立てて見える化するソフトウェアです。工場の未来がわかるので、来月の頭までにこの部品を何個用意しておかなければいけないのだなというのがわかって発注をかけることができます。

注文は突然キャンセルになったり、人は突然休んだり、機械は突然トラブルで故障したりするのですが、それを見込んだ計画を立てたり、素早く計画を立て直したりすることもできます。あるいは、例えば半導体の工場などでは、何億円もする機械を入れるべきか入れざるべきかシミュレーションしてみて決めたりもします。

生産スケジューリングは非常に難しい問題で、最近、話題の「組合せ最適化」の現実問題です。これをコンピュータで解くことを面白いと思える人たちが世界中から集まってきて、プログラムを書いて開発をしています。工場の人たちは最適でなくとも少しでも現実的な生産計画を手早く作りたいが、それが結構難しいという切実な悩みを持っています。難しくてどうしていいかわからない、簡単に解決することができない問題に対して、私たちは少しでもお客様の困っていること、悩んでいることを解決し、貢献できるように、皆が協力して、誰も思いついたことがないようなアイデアを出し合い、世界に驚きをもたらせるような、そういう仕事をしていきたいと思っています。

しかし、生産スケジューリング問題は一朝一夕で解決できる問題ではなく、25年やってきてまだ全然解決していません。それでも一定のお客様から、これで工場がうまく回るようになりましたとか、改善しましたとか、喜びの声をいただくようになったのですが、今度はこのソフトウェアを理解したり、使いこなしたり、運用したり、そういうところがどんどん難しくなっているという問題が如実に出てきました。昔よりも工場の中が複雑になったり、工場の規模が大きくなったりして、問題自体も難しくなっていくので、まだまだ取り組まないといけない課題がたくさんあります。では今後どうしていったらいいのかというと、問題が難しいが故にソフトウェア自体も難しいという雰囲気があるので、それを難しいままにしておくのではなく、ユーザーに少しでもストレスなく、業務に専念していただく必要があります。お客様がほしいのは生産スケジューラそのものではなく、最適な計画です。最適でなくても現実的でも良いかもしれない。それを元に先手を打てるようになり、「工場が主体的に生産に専念できること」が重要です。それが本来のあるべき姿なのだと思います。そのためには、より最適に近い計画を素早く出力できるソフトウェアをこの先、開発していきたいのです。そして、ソフトウェア自体をどれだけ高性能にするかだけを意識するのではなく、すべては人の幸せのために、そのような仕事をするのだという意識を持ち続けたいと思っています。

2018年4月、第7回ものづくり日本大賞 経済産業大臣賞受賞

ものづくりが生活や人生を左右する

ーー今、世界には、SDGsに掲げられているような様々な課題があります。アスプローバが重視するグローバルな課題とは?

人類が地球上に現れてから、700万年が経っていると言われていますが、その間に、いろいろな革命が次々と起きました。途中、火を扱う方法を覚えたり、狩猟から農耕へ移っていったりというのがあったのですが、産業革命、情報革命と、加速度的に世の中が変化して、環境問題などは、人類の700万年の歴史からすると、最近の話だと思います。そんな時代に私たちがいるのですが、人間がいろいろな革命を経て身につけてきた知識やノウハウというのは、不可逆的に進化していくものだと思うのです。今から急に農耕の時代に戻ることは考えづらい。ですから、やはり産業革命や情報革命が起きて以降、ものづくりが人間の生活や人生に大きく影響している、そういう世の中に変わってきています。昔はものづくりがそこまで発達していなかったので、日々の生活の中でテクノロジーに触れることは少なかったのですが、今はほとんどの人が朝起きてから24時間ずっと、ものと接し、ものを使う、そういう世の中になって、どんどん新しいものができています。いわば、ものづくりで人生が左右される、そういうことが今後もずっと起き続けると思うのです。

ものづくりのマイナス面で、工場から出る二酸化炭素や有害物質などで大気汚染や環境汚染の問題が出てきて、SDGsのような持続可能な改善をしていかないと、この数十年の劇的な変化に耐えられないと思うのです。ものづくりは今後も私たちの重大なテーマだと思います。工場は、日本だけではなく、中国も東南アジアにもインドにもヨーロッパにもアメリカにもありますが、皆、組み合わせ最適化の問題には苛まれていて、工場の中をいかに効率よく動かしていくかというところは、実は今のコンピュータでも容易に解決できなくて、そこに手間暇を取られたり、無駄が発生したりしています。本当はもっと環境や未来のことを考えるのに時間を費やした方がいいと思うのですが、それよりも今日どうする、明日どうする、来週どうするという問題が難しいが故に、人が煩わされています。私たちは生産スケジューラを作っているわけで、より効率の良い計画によって、工場のパフォーマンスがよくなり、無駄な資源、ゴミ、二酸化炭素排出量が減る、無駄な電気量を使わなくてすむ、ということで未来の工場の問題の解決に貢献できるかもしれません。

いちばん切実な問題は、無駄にものを作りすぎてしまうことかもしれません。人の頭で計画すると、どんぶり勘定で無駄にものを作りすぎて、売り逃しをしてしまうと、世の中に出ることなくそれを廃棄しなければいけなくなります。誰にとってもハッピーなことではないので、まず未来の計画を、より効率よく、しかも無駄なく、工場の生産活動を改善することによって、間接的に環境面にも良い影響が出るのではないかと思います。

その他、効率よくものづくりをする上で、例えば残業を少なくしたり、無駄に人を多く費やしてしまうところを削減したり、最近は「働き方改革」という言葉を日本でよく耳にしますが、無理のない計画を作ってあげることが、国内だけでなく海外からも最近は求められています。無理のない計画は、人にとって働く環境の改善にもつながるのかなと思います。

未来を計画して、関係者すべてをハッピーに

ーーそういった社会課題に挑戦するアスプローバの取り組みや、課題解決につながる技術についてお聞かせください。

やはり直接的にハッピーになるのは、工場の人たち。工場では、注文を受けて生産していくのですが、注文についてくる納期がバラバラだったりします。工場としては極力、お客様の希望する納期通りに出荷してあげたい、という気持ちがあるのですが、設備の数、作業員の数や能力は有限なので、やはりそこで効率性が求められてしまいます。ではどうすればすべてのお客様に対して、希望する納期に間に合うように、生産して出荷できるかというところに、すごく頭を使わなければできないし、使ったとしても解決できないほど難しい問題です。これをコンピュータ上で解決のお手伝いをしてあげますよ、というのが、アスプローバの生産スケジューラなのです。

生産スケジューラの効果的な活用のわかりやすい解説書『Asprova 解体新書-生産スケジューラ使いこなし再入門-』

ーーどういった業種で、導入されているのですか?

業種は問わないというのが当初から思想としてありました。25年ほど前、まだ生産スケジューラというのが確立していない時は、お客様のために何億円で生産スケジューラを作ってあげる、といった市場だったのですが、弊社の製品は、お客様や業種を問わず、パッケージとしての低価格な汎用生産スケジューラという方針のもとに、ずっと販売し続けてきました。ですから、自動車部品や電子部品といったディスクリート製造でも、化学薬品などのプロセス製造でも、全部扱えるような、そういう設計なので、最初からわりとまんべんなく、業種を限定することなく、お客様に使ってもらえてきました。現在も、特定の業種を念頭に置くことはしていません。

工場というのは基本的に、原料を用意して、工程を経て、出荷されていくものなので、極力、問題を一般化し、本質まで落とし込んで考えることによって、究極的なモデルというのを作って、それに基づいたソフトウェアを提供することにしています。

地域ごとに特徴ある世界の工場

ーーアスプローバの生産スケジューラは、グローバルに使われていますね。

日本の製造業は、世界的に見てかなり突出した、ユニークな存在だと思います。現場の人たちの、改善に対する意識や、仕事に対する意識が高い。日本人は基本的に真面目で勤勉なので、指示や課題に対し、とても一生懸命に取り組むのです。ともすると自分の時間を犠牲にしてでも、うまく行かないことがあれば、それに対する改善を自らしていき、「それは上の人の問題だ」とか、他人ごとではなく自分ごとと捉えて、現場の人たちが解決していく、そういう力が非常に強いです。海外にも、そういう人たちもいますが、日本のようには行かないかなと思います。

先々週、ドイツのフランクフルトに行って、ヨーロッパとアメリカのお客様の、ユーザー会というのに参加してきたのですが、いろいろな国から集まっていただき、アスプローバに対する成果の発表や、アスプローバに対する要望や意見を言ってもらう場がありました。やはりアスプローバの生産スケジューラを、皆さん素晴らしいと言ってくださるのですね。ただ、ここまでの機能は、そんなに要らないよ、みたいな、そういう声を何人かから聞きました。日本は例えば電車が2分遅れたぐらいで謝罪や告知が出たりするような国ですが、ヨーロッパはそうではなくて、そこまで細かな制約や要求はありません。アスプローバの機能は使い切れないと言うのです。欧米の人たちは、自分たちの時間をだいじにして、定時になったらきちんと帰るし、ここからここまでは自分の役割、ここからは他人の仕事、という切り分けが日本よりもきっちりしています。どちらが良い悪いではないですが、日本は、自分たちで何とかしようという習慣の結果、労働時間が長くなってしまったり、仕事に対する独特のプレッシャーみたいなものが出てきてしまうのかもしれません。ヨーロッパの人たちにとって、いちばんだいじなのは、自分自身、自分の時間、周りの人たちとの関係。そういう視点に立った仕事のしかたなので、スケジューラに対する要求も少し違うかなと思います。

ーーアジアの国々では、どうでしょうか?

中国、東南アジア、インドに関しては、それぞれで違う背景があると思います。中国は、世界中から企業が集まって工場を作りました。今は、メイド・イン・チャイナの品質がかなり上がって、人件費も上がっていますが、工場のレベルがすごく高くなっているなと感じます。それに応じて工場の中のシステムも、より高度になってきて、分野によっては日本を追い越すレベルになっていて、10〜15年前とは全然違う状況です。

対して東南アジアは、少し前の中国のように、これからというところだと思います。東南アジアに今、工場がどんどん新設されていますが、工場の中の人のスキルや考え方、社内のインフラなどは、まだこれからというところと思います。生産スケジューラのようなものが必要とされる状況は、もう少し後なのかなと感じています。徐々に、こういうソフトウェアを使うと何とかなるんだねと、今はまだ人手でまかなっているのだけど、将来的にはこういうソフトウェアを使いたいね、という過渡期にあるのかなと。東南アジアは今後すごく成長していく、伸びていく、そういう場になると思います。

私たちのお客様は、タイ、ベトナム、インドネシア、マレーシア、フィリピンなどにいますが、でもそれらの国々はそれぞれ違うのです。東南アジアとひとくくりで見てはダメで、それぞれ宗教も、発展度合いも、国の成り立ちや主義も違うので、一カ国だけ見ても東南アジアを本当に知ることにはなりません。

インドはインドでまた独特で、非常に意欲的だと思います。工場もどんどん設立され、生産量も上がっています。インドの人たちは生産スケジューラを見て、これはいいね、どんどんやろうよと言ってくれることが多いです。意欲的なのですが、では生産スケジューラを使ってみましょうという準備や手順が、あまりうまく進む感じでもなく、まず、いいね、やってみようという、意欲が先行しているようです。だんだん理解と準備が進んできて、インドでもアスプローバの知名度が上がってきて、徐々にユーザーが増えてきている段階です。

ーー工場が日本に戻ってくる、という話もありますが…

私は詳しくはわかりませんが、日本に戻ってきた工場でも、人件費の問題がありますし、さらに高い生産性や効率性を求めて、人を使わないでという方向に持っていくかもしれないですね。例えばドイツがインダストリー4.0という言葉を何年も前に言い始めたのですが、工場自体を改善しよう、オートメーションで、人がいなくてもものが作れる、そういう工場を作ろうというのがあります。ニュースなどでも、例えばユニクロで無人の工場を作るみたいな話があります。でも皆が皆そうはなれなくて、よほど投資ができるところでないと難しいと思います。

アスプローバ株式会社のオフィス

難しい問題をよりシンプルに解くこと

ーーアスプローバの経営者として、イノベーティブなアイデアの創出や、イノベーティブ人財の育成について、どのような仕組みづくりや工夫をしていますか?

まず、非常に問題が難しいのですが、難しい問題をよりシンプルに解かなければいけない。当然、ソフトウェアとしても、かなり難度が高く、また、25年の蓄積があり、書き溜めてきたソースコードの量もかなり膨大になっています。C++で書かれていますが、求められるプログラマーのスキルはかなり高くならざるを得ない。データ構造、アルゴリズム、プログラムの読み書きのスピード、ノウハウ、能力、かなり高いものが求められます。どちらかというと、今流行りのプログラミングやソフトウェアのスタイルと違うかもしれませんが、20〜25年かけて一つのプログラムを延々と研究して作り続ける、そういう環境です。それは誰にでもできることではないので、本当に腕に自信があるプログラマーが各国から集まってきています。別に国を選んでいるわけではないのですが、別け隔てなく募集をかけていると、様々な国から来てくれます。基本的にプログラミング能力が高く、プログラミングが大好きでしょうがない人たちであれば、どこにいる人でも採用します。そういう人たちは、すごく優秀で、入社してから日本語を学ぶなども、苦もなくやり遂げてしまうような人たちです。その人たちに対して、特別に教えないといけないことはそれほどなくて、それより、弊社の理念を共有して、チームで仕事をすることを、日々積み重ねていきます。あとは、お客様とより多く接して、お客様がどういうことに困っていて、どういう課題を解決したいのかを、間違いなく理解することが重要です。

ーー海外から来ている人たちと日本の若者の違いはありますか?

一つは、海外から来る人は、まず何よりも日本が好き、日本で働きたいというのが念頭にあります。日本の文化が好きというのがあって、日本のアニメや漫画が好きという人もいるし、そういうサブカルチャーでなく、日本の禅、囲碁、寺などがいいという人もいます。マインドも日本人的な人が多いのです。そういう人たちは、日本に行くこと、日本で働くこと自体に喜びを感じますので、そこでプログラミングの力を発揮できる環境ですよ、というだけで結構満足で、会社の知名度などではあまり判断しません。世界的な大企業でもなく、人数も十数人の会社ですが、日本でプログラミングしていろいろな国から来ている楽しそうな会社で、しかも業績も良いので給料もいいというと、祖国の親御さんなどから「早く帰ってきなさい」ではなく、逆に「もっと日本で働きなさい」と言われるらしい。

日本の人たちは、自分の知っている会社、ふだん目にする企業に、どうしても親近感を覚えるので、うちのように知名度も高くない、十数人の会社に入って仕事をするということに、障害、障壁を感じてしまう人が多いのかなと思います。最終的にうちと、ある大企業との間で悩んで、そっちの大企業に行くというパターンが多いです。知名度、その人の持つ親近感、憧れ、オフィスの華やかさ、そういうところを見ているのかな。それでも、あえてうちがいいと言ってくれる人も、もちろんいます。

実社会の問題を解くアスプローバのプログラミング・コンテスト

アスプローバでは、プログラミング・コンテストを去年の夏から連続して4回開催しています。世間一般の人たちには、生産スケジューラや工場の中の難しい最適化の問題は馴染みがなく、それはプログラミング好きの人でも同じです。でも、プログラミング・コンテストをやると、アルゴリズムやデータ構造などにすごく興味のある、腕に自信のある人が集まってきます。また、これからプログラムを勉強してみたいという人も、最近はプログラミング・コンテストとか、競技プログラミングという世界からプログラムを学んでいくことが多くなっています。私が若い頃とずいぶん違うようです。そういう人たちに、私たち社員が取り組んでいるような課題を、そのままに近い形で解いてもらう。すると、競技プログラミングなどをやっている人たちに、世の中にはこういう問題があるというのを、実際に知ってもらう機会となり、そういうのがわかるアスプローバ社のプログラミング・コンテストっていいよね、と言ってもらえます。そういう実際の問題に対して、自分たちが得意としているアルゴリズムでどういうことができるのか、実際に挑戦してもらう。もしかすると、教科書に載っているような問題を解くよりも、実際に世界中の誰かが困っているような問題を解く、そういう機会に触れることが、けっこう貴重なのかもしれません。

参加している人たちに、基本的には楽しんでもらうことが、いちばんの目的なので、プログラミング・コンテストが終わると一度オフ会を開いて集まっていただいています。コンテストの開催期間は1〜2週間ぐらいですが、そこでやりあった仲間たちと集まり、食事も一緒にしながら、ああだよね、こうだよねと交流を深める。そこには仕事とはまた違った、と言っても、力の入れようは趣味の範疇を越えているのですが、交流、切磋琢磨、新しい発見、そういったことができる、参加者にとっても、私たち社員にとっても、学びの多い場となっています。

アスプローバ株式会社取締役社長田中 智宏 氏

ーー小中学生、高校生、大学生など若い世代に伝えたいメッセージをおねがいします。

特に日本などの先進国にいると、飢餓などで苦しむような状況ではないと思います。日本にも貧困問題はあるので一概には言えませんが、わりとモノ的には豊かで、食事とか衣料とか物量としてはかなりあるし、環境としては整っていると思います。すると若い人たちは、目標というか、なんのために勉強や仕事をするのか、モヤッとしてわからなくなってしまうこともあるかと思うのですが、自分が楽しいと思ったことは、どんどんやっていいと思います。他人の目を気にする必要は無いと思うのです。楽しいことを、どんどん突き詰めてください。世の中いろいろなことがやり尽くされてしまっていたり、外国からいろいろなものが来て、自分の力を発揮する場がないみたいな印象が、もしかするとあるのかもしれませんが、そんなことはなくて、とにかく楽しいと思ったことを普通に楽しんでいいのです。社会課題のところでも言いましたが、この豊かさもほんの数十年のできごとなのです。ちょっと前まで戦争が多かったり、その前は産業革命が起きる前の、科学のあまり発達していない段階で、感染病で若いうちに死んでしまう人も多かった。科学が発達していないから、今なら簡単に解決できることが解決できなくて、人が苦しんで、パタリと命が終わってしまう。今は医療も発達して、例えば心理学なども発達している。昔はそこまで心理学が発達していないから、ものの考え方は生まれてから死ぬまでさほど変わったり勉強するようなことも、もしかするとなかったかもしれない。今はかなりいろいろな心理学が研究されていて、何か悪いことがあると、外に原因を探すかわりに、自分の内面に実は課題や反省点があり、性格を変えて善処するなど、そういう「幸せになり方」みたいなのができつつある。そういう意味では、この数十年を生きている私たちというのは、過去の700万年を生きてきた人たちからすると、ものすごく恵まれていると思います。それを忘れがちだと思うのです。今の状況しか目に入らないし、それが当たり前と思ってしまう。でもそれは人類の700万年という歴史から見たら全然当たり前のことではない。そういうのをどこかで思い出して、自覚するといいのではないかと思います。ちょっと前の戦争の時の話を見聞きするのでもいいし、もっと前の話でもいいと思います。そうすると、すごく恵まれた環境にあるのだなというのがわかり、旅行に行くとか、年取ってから孫と遊ぶとか、昔はそういうことができなかった人の方が多いと思いますが、今はできるので、苦しい状況があっても自分次第でより幸せになる要素が多いのではないでしょうか。昔は自分の力ではどうすることもできなかったことが、今は自分次第でできるということが少しずつ増えている。それがわかるといいのではないかなというのが一つ。

仕事とは、「将来のチャンスを掴むための準備」

もう一つ言わせてもらうと、最近読んだ本で、すごくいいなと思ったことがあります。ロス・ブラウンというイギリス人で、F-1で年間チャンピオンをたくさん取ったエンジニアやチーム監督をやった人で、もう高齢で競技からは引退していますが、過去を振り返る本の中で、こんなことを言っていました。若い人は、これから仕事をしますよね。何をしてもいいのですが、では仕事って何か、仕事の幸せって何かというと、「将来来るかもしれないチャンスを掴むための準備だ」と。準備をすることが仕事そのものだったり、仕事の幸せだったりするのだと。どんなチャンスが来るのか予測するのはとても難しいですが、でもチャンスが来た時にもし自分がその準備を何もしていなかったら、そのチャンスを掴めない。だから、将来来るかもしれないチャンスを掴むために、準備をする。そのためには、よりよいビジョンというか、人として正しい行いをして、見聞を広めて、あらゆる可能性を、目の前にあるのだけど目に入らない状況ではなく、ちゃんと関心を持って、自分の楽しいこと、自分だったらこれができるということを、できるだけ見つけて、準備をする。すると何年先、何十年先かわかりませんが、チャンスが来た時にその準備が報われて、自分自身はもちろん、世の中の他の人たちをも幸せにすることができる。それが仕事の幸せなんだ、ということをその本で読んで、最近とても気に入っているので、こういう機会に若い人に伝えたいと思います。

ーーアスプローバをはじめ、テクノロジーで社会課題に挑戦するイノベーティブな企業が集まる、通称「五反田バレー」地区の魅力や、企業と地域の関わりについて、教えて下さい。

弊社は大岡山から始まっています。私はまだ入社していませんが、創業者の高橋が東工大なので大学の近くに社を構えた。大岡山から戸越銀座に移り、会社も少しずつ大きくなり、戸越銀座も手狭になり、お客様に来てもらうのに少し不便なこともあり、ではということで、次は五反田に移ってきました。だんだん都心に近づいてきているのですが、戸越銀座から急に六本木ヒルズなどではなく、恵比寿でもなく、品川でもなく、五反田がいいよね、と。わりと庶民的なところがあるのと、懐にも優しいし、人的にも優しい、交通の便もよくて、私たちに合っているなという気がします。食べ物も美味しいし、活気もあるし。昼間もいいですが、夜お酒を飲むような時に、おしゃれなバーもあれば、ワイワイ楽しめる居酒屋もある。そういう面でも、すごく仕事がしやすい場所かなと。

新しい企業、若い人々との出会いが、新たな発展につながる「五反田バレー」

一般社団法人五反田バレーにも入会しました。私たちは工場の生産スケジューラを作るというかなりニッチなところにいて、いつも同じような方々と仕事をすることが多かったので、それ以外の業種や分野の人たちと触れ合う機会が実はあまりなかったのです。一般社団法人五反田バレーの存在を知って見てみると、会社の規模はさほど大きくないところから大きいところまでたくさんあって、すごく元気のいい若々しい企業が多いのですね。私たち、ベンチャーと言われることが多いのですが、もう創業25年経っている中で、そういった新しい企業、若々しい人たちと触れ合うことによって、また新しい発展があることを期待して入会しました。Slackで来る通知など見て、イベントに参加したりして交流を深めたいと思っています。

アスプローバ株式会社様へ
「次世代レポーター」からの取材感想

 「最善の良い計画を秒単位で立てる生産スケジューラによって、工場の無駄な生産とそれに伴う残業を減らすことは、今後益々持続可能な社会づくりに大きく貢献していくと思いました。お話から、最適な計画を立てること、それはつまり“人の幸せ”のために計画を立てることなのだと強く感じられました。「最善の良い計画」と聞くと、効率は良いが人は疲弊してしまうということを私ははじめ想像してしまいました。しかし決してそうではなく、効率的かつ無理のない生産活動を計画することで、人にも環境にも優しいモノづくりが可能になるのだと思いました。
また世界に拠点を持つ企業であるにも関わらず、「若々しい企業が多い五反田バレーに参加することで、新しい発見をこれからも見出していきたい」とおっしゃっており、その謙虚で学ぶことに貪欲な姿が強く印象に残りました。その姿勢は、若い人に期待していることとして「どんどん好きなことをチャレンジして、自分の内面に反省点を見つけてほしい」という趣旨のことをおっしゃったことと重なるように感じました。そんな社長の若い人への期待に応えられるように、私自身これからの学生生活を過ごしていきたいと思いました。」(立正大学大学院臨床心理学専攻修士課程1年 田崎 正和)

聞き手:木村京子(エシカルコンシェルジュ)

企業インタビュー(7) 株式会社アットマーク・ラーニング様

株式会社アットマーク・ラーニング 代表取締役社長 日野 公三 氏

通称「五反田バレー」地区をベースに、STI(科学技術イノベーション)の力でSDGs(2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標)などの社会課題に挑戦する、素敵な企業をご紹介するシリーズ。

第七弾は、インターネットを活用した個別指導や特別支援を世間に先駆け1999年から提供、「学ぶ機会はみな平等」を実現する、株式会社アットマーク・ラーニング様です。

2019年11月2日、株式会社アットマーク・ラーニングが運営する通信制高校の一つで品川区北品川にある明蓬館高等学校のSNEC総合センターにおじゃまして、代表取締役社長の日野公三様にお話をうかがいました。(※SNEC=すねっく(スペシャルニーズ・エデュケーションセンター))

株式会社アットマーク・ラーニング 代表取締役社長 日野 公三 氏

ーー土曜午後の取材場所として使わせていただいたのは、平日は明蓬館高等学校の生徒たちで賑わう学習施設。各席にPCを備えた個別学習スペースと広々とした談話スペースを併せ持つ、素敵な学習環境です!

学ぶ機会は、みな平等

ーーさっそくですが、日野さん、アットマーク・ラーニングとは、どんな会社なのでしょうか?

学校教育活動を株式会社という形態で実現しようとして作った会社です。現在に至るまで、通信制を基軸にした高等学校経営を行っています。法律的には特別区域法(特区法)に基づいた学校経営で、学校教育法一条に基づく、一条校という扱いで、正式な高等学校として認可いただいています。

目指す社会像は、学校全体のクレド(信条)としてまとめた中でビジョン(目指す社会像)として記載してある通り、「学ぶ機会は皆、平等である」。障害、特性、生育条件などによって差別が生じたり、学ぶ条件が変わったりということは、望ましい社会ではありません。どんな子どもたちであれ、どんな家庭状況であれ、同じような教育が受けられるような社会像を目指してやって行こう、と決めました。

ミッションとしては、目の前にいる利用者、その顔はどういう顔かというと、実際には高校年齢の生徒になりますが、その陰に保護者、あるいは親族もいて、私たちの考え方としては、ファミリーサポート、家族・親族も含めたサポートをしていこう、ということです。それと、命あってのことなので、命の力を引き出し、伸ばせる場をつくる、ということも謳っています。あとは、友を作り共に学べる環境づくりをしていこう、ということをミッションとして掲げています。私たちの立ち位置は、生徒と保護者を支える「支援者」であり「伴走者」です。支援と伴走という言葉を掲げたのは、教育や指導という、やや上から目線な感じの言葉をなるべく使わずに、生徒と保護者とともに同じ目線で歩んでいこうと、そういう願いを込めているのです。

株式会社アットマーク・ラーニングのクレド(信条)

ーー今、世界には、SDGsに掲げられているような様々な課題があります。アットマーク・ラーニングが重視するグローバルな課題とは?

日々、目の前で取り組んでいる社会的課題というのは、通信制に何か救いを求めて来る生徒たちそのものです。その背景としては、学びづらさだとか、学業機会を失ってしまっただとか。昨今は発達障害という障害特性や傾向を持った生徒が本当に増えてきまして、そういう人たちは既存の全日制型の学校にはなかなか自分の居場所が見つからないという課題を抱えていることが多いです。発達障害あっての不登校、就学の場を失った人たちに教育の機会を提供しようということが、私たちが日々、実際に取り組んでいる大きな社会的課題です。

ーーそういった社会課題に挑戦するアットマーク・ラーニングの取り組みや、課題解決につながる技術についてお聞かせください。

2つの学校を経営していて、1つはアットマーク国際高等学校、もう1つは明蓬館高等学校です。いずれも広域通信制高等学校で、アットマーク国際高校は、石川県に本校舎を持つ広域通信制高校、明蓬館高校は福岡県に本校舎を持つ広域通信制高校です。この2つの学校とも、法人本部のアットマーク・ラーニング社は、この品川にありますので、品川を中心としてマネジメントをしています。アットマーク国際高校は開校して15年、明蓬館高校は開校して10年経ちます。昨今は先ほど申し上げたような発達に課題を持つ生徒のための教育活動として、10年前に作った明蓬館高校にかなり時間と手間暇を注いでいます。より現在の社会的課題を感じさせるテーマですから、この学校にかなり注力しています。

クラウド型の学習環境で、いつでも、どこでも、どんなOS/デバイスでも!

具体的なサポートの方法としては、eラーニング、Webベースラーニングで、インターネットを中心とした授業の配信、あるいは、いつでもどこでもアクセスできるような環境を設定しています。スマホやPC、タブレットなど、すべてのデバイスに対応できて、いかなるOSにも対応できるような、クラウド型の環境を作り、生徒はどこにいても、どんなデバイスからもアクセスできるという状況を作っています。何か特別なソフトウェアをダウンロードしなければいけないとか、そういうことを気にせずアクセスできる状態になっています。

また、生徒一人ひとりについて、発達の傾向と課題を、教職員である私たちが科学的に理解するよう努めるため、アセスメントである心理検査、発達検査を、かなり工夫をこらし、メニューを多くして実施しています。その上で、各生徒に適した学習計画、学びづらさを克服するための教材の選択と提供、といったことまで含めてサポートしています。そして、学業面の指導、支援とともに、生活スキルや心理面のサポートなども、かなり力を入れてやっています。結果として、中学から高校にかけて他校でつまずいたり、就学の機会を失ったりした生徒たちが、見事に復帰して、将来の進路などを切り開いていくというケースが多数出ています。そういった実績があります。

ーーすばらしいですね!

発達の特性、課題というのは、何か医療の検査器具でわかるわけではなく、本人に問診という形で、心理検査、発達検査が中心となっていくものです。それがいわばエビデンス。それを通してしかなかなかわかり得ないというのが発達障害です。近年、その心理検査、発達検査の精度がどんどん高まっていますので、優れた検査の技量を持つ心理士を絶えず常駐で配置して、いつでも検査を受けられるような状況を作っています。

ーー具体的には、どのような進路があるのでしょうか?

進路は、専門学校、大学、海外留学などがある一方で、近年まだ充分に知られていない発達障害の課題を持つ生徒については、社会参加や自立の事例がまだまだ少ないですから、そういったことに理解と関心を持ち、具体的なスキルや資源を提供してくださる方々との「連携」という形で、社会的な参加、自立ができるようになっています。例えば、「就労移行支援施設」という、民間企業施設なのですが、数年間のトレーニングなどを国の予算を使って提供してくださる機関などとも連携を図っています。そこを通して就活の案内や動向、そのためのトレーニングなども行っています。私たちは、卒業して放り出すことはしません。そういった団体に在学中からつながっていることで、そのまま卒業後も見守り続けるという環境を作っています。

福祉、医療、地域、企業・・・社会連携で卒業後も見守り続ける

連携といえば、福祉関係の機関、団体、そして医療機関ともつながっています。かかりつけの医師などはずっと生徒を見守ってくれますので。福祉、医療、そして私たち学校、および、今後は地域社会や、就労・就職の環境という面では一般の民間企業が中心になると思います。そういったところとの連携、これは社会的連携とか、ソーシャルインテグレーションとも言いますが、これをかなり意識して実行しています。

ーーアットマーク・ラーニングの経営者として、イノベーティブなアイデアの創出や、イノベーティブ人財の育成について、どのような仕組みづくりや工夫をしていますか?

今、私たちが目の前で対応する生徒というのは、教育のニーズとともに、福祉的ニーズと私たちは呼んでいますが、それぞれが抱えている課題に対して個別に向き合ってほしい、支えてほしいというニーズを持っています。ですから、そもそも採用段階で、そういった福祉的なニーズに対する関心を持ち、そのためにどういうスキル、キャリアを身につけたいかということを、かなり強く意識した人たちを求めています。入社した後もそういった様々な自己啓発の機会なども設けていますし、日々そういった様々なセクターとの交流、連携を通して、社員みんなが、教育だけではなく、例えば福祉の制度にも明るくなっていくとか、福祉的な団体等に精通していくとか、そんなことも心がけています。一言で言うと福祉に対しても腕を磨いて知識を深めて自己啓発を絶えず行えるように、といったことを意識して人材育成をしています。

ーーアットマーク・ラーニングをはじめ、テクノロジーで社会課題に挑戦するイノベーティブな企業が集まる、通称「五反田バレー」地区の魅力や、企業と地域の関わりについて、教えて下さい。

品川区内に在住の生徒とのご縁はずっと一貫してありますので、品川区民のための学校ということも目指しながら、今までやってきました。

品川の特徴は、都会でありながら生活色も強く、地域に根ざした文化があり、代々そこに住んでいる方もいらっしゃって、実際に品川区在住の生徒を見ていてもそういう印象を持ちます。いわゆる居住空間と働く空間が近接している、という印象もあって、その中で五反田バレーが出てきたというのは、個人的にもとても注目していますし、私たちの会社としても、非常に期待しています。

その中で何ができるかですが、教育というのは、地域に根ざしていかないといけないので、地域での福祉や就業ということも意識しながら、かなり地域密着型の学校教育活動が、これからますますできるのかなと思っています。

五反田大運動会にも、教職員は出ますし、これを手始めにして、もっと地域で私たちは何ができるのかということを見ていくのに絶好の機会かと思います。周囲でも非常に関心は高いですね。五反田駅前のお祭りにも参加しました。企業どうしが、運動会やお祭りといった庶民的な行事をきっかけとして、つながっていったり、連携し合うといいですよね。

五反田バレーという地の利を教育活動に活かす

ーー品川区は教育でも先進的な挑戦をしています。

そうですね。品川区は、小中一貫校を全国に先駆けてやった教育改革区でもあるので、そういった地の利も生かして全国区に打ち出していく格好のチャンスかと思いますね。市民科(道徳、特別活動、総合的な学習の時間を統合・再構築した品川区の独自 教科)の中に道徳が入っているのは、とても良いと思います。道徳だけ切り離すのはあまり良くないかと。道徳というのはもうひとりの自分を置くという考え方です。自分の行動が正しいかどうか、もうひとりの自分が絶えず検証するという、最近流行りの言葉で言うとメタ認知。そういうことを宿していくのが、いわゆる道徳的な授業なのかなと思っています。そこに社会とか、市民とかの概念も入ってくると、より一層、良いのかなと思います。

ーー品川コミュニティ・スクールの取り組みもあります。

コミュニティスクール構想はもう十数年前からできあがっていましたが、まだ実践がなかなか全国にはないという状況でしたね。もともとはアメリカでチャータースクールというのが流行った時期に、日本は文科省がコミュニティスクールだと言い出しました。チャータースクールは公設民営ですが、日本版にすると「地域と密着した学校」ということで、コミュニティスクールという考え方になったのかなと思いますが、とても良いですね。私たちも福岡県や石川県の小さな市町村と一緒に学校を作ってきて、本当に地域に根ざした活動をしてきました。それまで高校のなかった地域に私たちの学校ができて、地元の方にも喜んでいただき、過疎化・高齢化が進む中で希望の星と言っていただけて、とてもありがたいですね。

「未来のジブンが好きになれる高校」株式会社アットマーク・ラーニングが運営する高校を語る代表取締役社長 日野 公三 氏

通信制をやりながら、確信に近づいて来たのが、通信制の本部校舎は過疎化・高齢化の地方にあるべきだという思いです。そこでスクーリングが義務登校だと、そこに行かざるを得ないので、最初は嫌々ながら行ったとしても、行ってみたらとてもあたたかく迎え入れてくれて、第二のふるさとができたという生徒も出てきています。地方の人たちも全国から生徒がやってくるようになることで自己肯定感が上がってくるのです。最近、やっと文科省が通信制中学の特例校を認め、来年度から中学の通信制が全国に数十校できるのも画期的なことです。ただ、通信手段はもうIT、ICTを使わないことには、教育は成り立たないのではないかと思います。だから全日制も今は、通信制に注目しています。経済産業省も「未来の教室」ということで、かなり今、全国でテコ入れをしています。

少数のニーズから技術革新

ITなくしては発達障害の子どもたちの学びの環境はできないなというのは、やればやるほど思うのです。発達障害の種類、障害名によって違いはありますが、発達障害の一般的傾向として、対人スキルがなかなか築けない、持てない生徒たちが多いので、一律的な集団教育になかなか馴染みません。だから一対一だとか、一人一台という環境の中で、好きな時にアクセスできるというのがいちばん理にかなっているし、本人たちもとても喜んで自発的に取り組めるのが良いです。

そういった少数のニーズから技術革新につながることもあります。発達の課題があるから、例えば本が読めないとか、書こうとすると字が思いつかないけれども、今はググれば出てくるわけだし、キーボードを叩くのは全然支障がないという子どもたちは、そういうスキルを磨いていけばいいと思うのです。考えてみれば、何か不自由だとか不都合だとか、支障を持った人たちが思いついたものが今、ITの世界では実現しているということが、わりと多いのではないかなと思います。だから、そういう視点は絶えず持っておきたいですよね。

CoderDojo品川御殿山に会場提供

今回の取材が行われた明蓬館高等学校SNECを会場として提供いただき、毎月1回(不定期)午後4〜6時、「CoderDojo品川御殿山」が開催されています。CoderDojoとは、7〜17歳の子どもを対象にしたプログラミング道場で、2011年にアイルランドで始まり、世界では110カ国・2,000の道場、日本には196以上の道場があります。(詳しくはコチラ⇒CoderDojo Japan

品川区内外の子どもたちが集まって、楽しみながらプログラミングの腕前を磨いています。こういった活動への会場提供というのも、企業の地域貢献です。

聞き手:木村京子(エシカルコンシェルジュ)

企業インタビュー(6) 株式会社クラダシ様

株式会社クラダシ 代表取締役社長 関藤 竜也 氏

通称「五反田バレー」地区をベースに、STI(科学技術イノベーション)の力でSDGs(2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標)などの社会課題に挑戦する、素敵な企業をご紹介するシリーズ。

第六弾は、社会貢献型フードシェアリングプラットフォームを提供する、株式会社クラダシ様です。

2019年10月17日、東五反田の五反田NTビル2階にある株式会社クラダシ様におじゃまして、代表取締役社長の関藤竜也様にお話をうかがいました。

株式会社クラダシ 代表取締役社長 関藤 竜也 氏

ーー取材場所として使わせていただいた応接スペースは、クラダシが取り扱う様々な食品メーカーの商品が棚いっぱいに並んでいて、まるでお買い物をしにきたようなワクワクした気分になりました!

シェアリングエコノミー時代のフードシェアリングプラットフォーム

ーーさっそくですが、関藤さん、クラダシとは、どんな会社なのでしょうか?

クラダシは、食品ロスを削減するとをミッションに掲げている会社です。国連が2015年9月にSDGsを採択し、目標12として「つくる責任、つかう責任」を指針としてしめしています。

それより一年以上早く、食品ロスを削減するための会社を設立しました。2018年には、経済的・社会的・環境的に優れた活動を評価いただき、第6回グッドライフアワード環境大臣賞(企業部門)をいただきました。私たちがシェアリングエコノミー時代のフードシェアリングプラットフォームとして2015年2月にローンチして展開している「KURADASHI.jp」は、日本初にして最大級の食品ロス削減サイトです。

クラダシで取り扱う商品サンプルがにぎやかに並ぶ棚

最近、食品ロスがビッグワードになってきましたが、そもそも強烈なインパクトを受けた原体験がありました。私が大学を卒業して社会人になったのが1995年ですが、内定が決まっていた1月に実家が阪神淡路大震災で被災しました。大阪府豊中市なので震源地から40キロほど離れてはいましたが、私の父も倒れた本棚に挟まってという状況でした。テレビから流れる、ゴジラが踏み倒したような神戸の中心地でビルが崩壊し、火の手が上がり、阪神高速道路が倒れ、分裂し、バスがつららのようにぶら下がっている映像に驚愕し、気づけばバックパックに救援物資を詰め込み神戸に向かっていました。到着したのはレスキュー隊よりも早かったほどで、思い出すと今でも胸がグッとなりますが、うめき声が聞こえてきて、その時、一人で生きる限界を悟ったのです。もうすぐ社会人になるという時期だったこともあり、社会には、誰かが何かを思った時にできるように、プラットフォームのような仕組みが必要だなと実感しました。

「一人で生きる限界」からソーシャルな仕組みの創出へ

入社後、98年に企業派遣留学で北京の大学に行き、その後トレーニーとして大学で学び、工場の生産管理をしました。上海の現地法人では、今から20年前の話ですが、「世界の工場」と言われていた中国の実情を目の当たりにしました。工賃が安いということで、食品のみならず、あらゆるものが中国で作られていました。農村から来た女工さんが中心で、製品の仕上がりにはびっくりすることも多かったです。たとえば、コンビニエンスストアのレジ前チキン。日本はサイズや形といった仕様書の許容範囲の精度が極めて高いです。それが全く仕様書通りに上がって来ないため、食べられるにもかかわらずコンテナ単位で全廃棄という現場をたくさん見て、これは社会課題だ、誰かが何とかしないと、大袈裟でなく地球が持たないぞ、と思いました。農産物もですが、海洋資源でもわかりやすい例があります。全国の居酒屋チェーンに卸す3匹で298円のような子持ちししゃもをロシアから輸入するのですが、港に着いて蓋を開けてみたら、子がいない。これも食べられるのですが、オーダーと違う、急に保冷倉庫が探せない、仮に見つかったところでいつ売りが立つか、どこに売るかわからない、コスト的に合わない。ということで泣く泣く、どこかの水族館のオットセイの餌で100キロほど取ってもらったのですが、何トンも捨てていました。そういう状況が、日本のみならず世界で同時多発的に起こっているということが、ゆくゆく間違いなく社会問題になってくるし、誰かがやらないといけないというのが、そもそも起業のきっかけでした。ソーシャルビジネスとしてサステナブルに手がけないといけないと思い続けて、5年前に、具体的に食品ロスを削減するために設立したのが、現・株式会社クラダシです。

ーー今、世界には、SDGsに掲げられているような様々な課題があります。その中でもクラダシがグローバルな課題として重く見ているのが「食品ロス削減」ということですね。

農林水産省が発表した日本の平成30年度食料自給率(カロリーベース)は、前年度の38%から1%落ちて37%、その他は諸外国から輸入しています。そこには、コーヒー豆やカカオの生産現場での児童労働問題などもたくさんあると思うのですが、643万トン(平成28年度推計、消費者庁)に及ぶ日本の食品ロスは、日本の米の生産量がおよそ800万トンという中で、それほどの食品を毎年捨てているわけですから大問題です。わかりやすく例えると、国民一人あたりが毎日おにぎり1個捨てている。一方、世界に目を向けると8億2100万人(2018年、国連)が飢餓で苦しんでいる現状。また、国内でも実は7人に1人の子どもが相対的貧困という現状(2015年、厚生労働省)。そんな中でなぜ捨てているのか。それには様々な問題が絡み、動き、流れのようなものがあるので、一気に全部を解決あるいは改善するのは難しいですが、最近ではエシカル消費という言葉で表現される正しい選択をしていった結果、世の中がよりよくなっていくような、前述のソリューション、インフラのようなものを作る必要があると思いました。SDGsで言うとターゲット12.3「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食品廃棄物を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品の損失を減少させる。」を皮切りに11項目のターゲットに私たちは貢献しています。

「正しい選択」の結果、社会がよくなっていくようなインフラ

ーーそういった食品ロス削減の課題に挑戦するクラダシの取り組みや、課題解決につながる技術について、お聞かせください。

食品ロス、先ほど643万トンと申し上げた中には、家庭系と事業系があります。家庭系が291万トン、残りが事業系。事業系の約3分の2が、いわゆるサプライチェーン上で起こっている食品ロスで、残りの3分の1が、飲食店の残渣。このサプライチェーン上のいちばんボリュームが大きいところを先ずは手掛けています。事業者側の産業構造は、もともと商社にいて売りも買いもやりながら見てきましたから熟知しています。メーカーは商品の生みの親としてもちろんのこと、問屋、小売にしても、捨てたくて捨てている会社は、一社もありません。心苦しくてしょうがないのです。そうせざるを得ない事情は何かというと、ブランドイメージの低下、市場価格の崩壊、それらを踏まえた取引先への悪影響や買い控えされることを恐れるが故。そして小売業界における納品期限。1/3ルールという暗黙のルールがあります。欠品して高いペナルティを払うよりは、欠品しないよう過剰に作って捨てたほうが経済的ダメージがましだという考えもあります。たとえば、賞味期間が3カ月の商品だと、卸業者は製造日から数えて賞味期間の1/3にあたる1カ月以内にスーパーなどの小売店に納品しなければなりません。それを過ぎると店頭に並ぶことなく、残り2ヶ月もあるにもかかわらず廃棄の対象となってしまうのです。

納品期限が切れると大きく分けると3つの処理のしかたしかありません。1つは、クローズドマーケットと言われる、社内販売やファミリーセール。もう1つは、安売り、ディスカウンタールートでの販売。そうでなければ廃棄。3つの選択肢しかありません。

1990年代後半ぐらいからネットショップ、ECが本格化し、いわゆるポータルサイト、価格比較サイトも出てきました。最安値情報が公となり価格競争が始まります。携帯も、アナログからデジタルへ、そしてスマートフォンへと進化を遂げSNSによりクローズドマーケット情報が公開されます。余剰在庫の世界だけは進化を遂げず、最初のクローズドマーケットは福利厚生と結びつけて、いちばん体の良い販売方法だったのですが崩壊し始めました。私がもといた商社でも社販がなくなりました。ブログ、Facebook、Twitter、インスタ、SNSによりクローズド情報が公の場に公開されます。上司が部下にそれらを社販での大量購入を強要するパワハラ問題が発生。また、ディスカウンタールートではブローカーさんのいわゆる反社チェック問題が発生し、トレーサビリティと食の絶対的安全の担保がされないという問題がおきます。一方、SDGsの観点から、令和元年5月24日に「食品ロス削減推進法案」が可決、10月16日の世界食料デーを含む世界食料デー月間である10月1日に食品ロス削減推進法が施行されました。とるべき最適な選択肢がない。では、どうしよう⁉

余剰在庫の世界に「1.5次流通価革命」

そこで、これまでのようにクローズドマーケットでの販売かディスカウンタールートでの販売か、廃棄という3択以外に、新しいマーケットを作る必要があると思いました。アマゾンや楽天のようなビッグプレイヤーがいるECの1次流通市場で、昨年度は食品の流通規模は1兆6,919億円(2019年、経済産業省)。リユースの方向でもメルカリのような2次流通のビッグプレイヤーが登場しました。食品を含め廃棄していたものを市場形成できれば22兆円もの市場が生まれます。経済的損失、環境負荷をなくし “もったいないを価値へ” CSR、SDGs、ESG的にもコーポレートバリューを高める新しい価値を創造し新しいマーケットを創る。クラダシのビジネスモデルで成し得たい世界観です。それを私は「1.5次流通革命」と呼んでいます。

第6回グッドライフアワード環境大臣賞(企業部門)受賞

ーー具体的には、どのようなシステムなのですか?

KURADASHI.jpのウェブサイトにおける社会貢献活動に賛同いただいたメーカー様より商品を協賛価格にてご提供いただくことにより、当サイトをご利用いただく皆様にはお手頃な価格で商品をご購入できるようになっております。

ウェブサイトに掲載されている商品には、商品毎に社会活動団体への支援金額が設定されており、ご購入いただくことでその設定金額が指定の社会活動団体に寄付されます。活動支援内容については、支援レポートにてご報告いたします。

商品をご購入いただくと、社会貢献度にて支援金額の累計だけでなくKURADASHI.jpが指標化し、算出したキズナポイントで各自の社会貢献活動をご確認いただけます。

きちんと世の中のためになることがブランド価値向上に

他の商品よりも支援金額が高めに設定されているものや緊急支援を要するもの等、より多くの方にご支援して頂きたい商品には、「キズナ」アイコンが表記されています。

私たちの暮らしの中でできる支援の一例があります。特に最近では台風で千葉県が一次産品に関してざっと100億とも言われる大きな被害を受けました。南房総で長引く停電により、高級食材の伊勢海老、アワビ、サザエが酸欠で死んだのがざっと1億以上になっているというような状況なのです。そのような、台風・豪雨などの被害を頻繁に受けるという地方自治体と連携を深めています。「クラダシさん、今ここが大変です」という情報を瞬時に価値あるものにするには、たとえば「伊勢海老が一尾1000円では買えないけど、そういう状況で地域支援につながるのであれば食べたい」と思う人とつなぐことです。KURADASHI.jpを活用していただくことで、結果として漁業関係者の所得向上、地域経済の発展にうまくつなげていければという思いがあります。

出品者である、生産者である製造メーカーや農業漁業の一次産業従事者のロスをすべからくなくす。そこで得た利益・売上を地域経済に還元する。消費者はお財布にもエコ、環境にもエコで、まさに「三方良し」だねと言っていただけています。

クラダシで商品を買っていただくことイコール食品ロス削減に貢献していることでもあり、さらに気軽に、例えばワンちゃん、ネコちゃんを飼っています、動物の殺処分ってちょっと気になるわ、という方は、動物保護のNPOに支援ができたりというのが、自分で選べる仕組みになっています。

NPOにとっては、寄付を受けて活動の幅が広がります。私たちは売上から出すので、税金をさらに寄付金に対しても払うというのは、もちろん承知の上です。海外支援をしている団体などから感謝されるのが、渡航予定が組みやすいということです。クラダシが順当に売上をあげているので、毎年の予算として見込めるからということです。また、支援する側の団体からも新しい寄付の形として評価されています。何かいいことはしたいと皆、思っている。ということを具体的にできる場が、1995年の阪神淡路の時に思い描いたような、インフラというかソリューションのような場を提供したいという夢を、食品ロスにからめて実現しているというのが、クラダシの特徴かなと思います。

多数の団体からクラダシへの感謝状、表彰状

思いを具体的にできる場

ーーなるほど、多数の団体からクラダシへの感謝状、表彰状が並んでいる理由が、よくわかりました。フードバンクからのも、ありますね。

全国にフードバンクは増えてきて、今70いくつあるという話です。社会福祉としてフードバンクは素晴らしい活動をされています。もともとフードバンクというのはアメリカからやって来たビジネスモデルですが、なかなか日本に馴染みにくいというか根付きにくい。最大手が、東京のチャールズさんが率いるセカンドハーベストで、素晴らしい活動だと思います。サプライチェーンとのつながりで言うと、10月1日に施行された法案にも盛り込まれている内容でもあり、使い切れない、余っているのであれば、足りていないところにあげましょう、つまりフードバンクやこども食堂などを有効活用しようということなのですが、企業側からすると、運用面で難しい問題が多々ありました。

例えば、「わかりました。では100ケース寄付しましょう」となった時に、その100ケースを受ける倉庫が寄付を受ける側にはない。そこで、「2ケースずつ50回届けてもらっていいですか」というリクエストになる。なかなか企業の生産合理性に合わない。

あるいは、関東でもフードバンクはいくつもあるのですが、寄付となると平等性が問われます。上場企業はESGの観点もあり、平等にするためにはあえて在庫を残さないといけない、食品ロス削減には本末転倒…という不条理も生じてしまうのです。

あるいは、品質は間違いないはずですが、もしも誰かがお腹痛くなったら誰が責任を取るの?というようなこともある。

そういった、不合意・不条理の解決策として、クラダシフードバンク支援基金というのを作りました。前述のような、思いはあってもなかなかうまく回っていないというところのめぐりを良くするとか、製品には当然PL法などが絡んでくるのですが、そういう、販売者としてきちんとしなければいけない、手間暇がかかる部分をハブとなって代行する。例えば、あるメーカーが100ケース寄付するよと言った時に、私たちのロジスティックに入れていただいて、70いくつある団体にそれを私たちが配送する。宅配業者とも連携して、流通のビジネスモデルに織り込んでいます。

サステナビリティに不可欠な経済合理性

そういう経済合理性が自分たちとしても担保できているので、フードバンクへの支援も、スタート当初からフードバンク山梨を支援させていただいてきましたが、さらなる全国展開という意味で、基金を作り、売上の一部をプールして資金として使っていきたいと思っています。

ーークラダシの経営者として、イノベーティブなアイデアの創出や、イノベーティブ人財の育成について、どのような仕組みづくりや工夫をしていますか?

解決したいという思いはあるのだけど置いてけぼりになるという社会課題を改善するには、やはり思いだけではだめで、経済合理性というか、経済面で成り立たないと、なかなか長続きしません。世の中、人のため、環境のために良いことを、どうやって長続きさせるか、サステナブルにやっていかないと、一過性のもので終わってしまう。その究極が、自分のためにやったことが結果的に他人のためになる、自分のためのお買い物が他人のためになるってちょっと素敵、そういうソリューション、仕組みが、極めて重要かと思います。

例えば、前述のクラダシフードバンク支援基金の前に、2019年2月にクラダシ地方創生基金を創設しました。人手不足に悩む地方農家へ、旅費・交通費や宿泊費などをKURADASHI地方創生基金が支援し、社会貢献型インターンシップ「KURADASHI Challenge」として学生を派遣。学生が担い手となり、未収穫となっていた一次産品を収穫し、食品ロスの削減を目指します。収穫した後は、KURADASHI.jpで販売し、売り上げの一部を地方農家とKURADASHI地方創生基金に還元。学生と地方農家をつなぐエコシステムを実現し、未収穫産品の削減と地域社会の新たな発展を図ります。

株式会社クラダシ 代表取締役社長 関藤 竜也 氏

「もったいないを価値に」

クラダシ地方創生基金が目指すのは、SDGsの2030年のゴールの中で、ゴール12のターゲットにある、食品ロスを半減させましょうということです。3年前のG7環境大臣総会でも各国の首脳陣が一定要素の確認をし、フランスではもう早々に法制化されていたりします。一方で、日本は地方自治体が全国でざっと1800市区町村ある中で、政府発表によれば、なかなか経済的な自立ができない市区町村がちょうどその半分、町が750、村が150です。それをもっと分析すると、一次産業従事者が地方には多いわけですが、その多くが人手不足と事業承継の問題を抱えています。その結果、本来ならば売れて利益になるはずのものを、市場価格のバランスを見て潰していったりとか、収穫せずに畑の肥やしにしていたら鹿が大量に繁殖して駆除しないといけないとか、税金の無駄遣いとも言えることが起きています。「もったいないを価値に」というのが私たちのビジネスのサブタイトルでもあるのですが、そのような無駄とされてきたものに価値付けをする必要があると思います。

クラダシ地方創生基金でどう成し得るかというと、地方では一次産業従事者の平均年齢が60を越えてきて、あと5年、10年できるかなと。政府の発表によれば、今後、人手不足による未収穫のロスというのが、いっぱい出てくるのです。さくらんぼの例がわかりやすいですが、収穫期の2週間でバッとできて集荷して、1年の中の8割がそこの売上です。そうすると当然、市場は飽和状態になるから価格もつかない。普段はご夫婦でされていて、収穫時期はパートやアルバイトをたくさん雇って、せっかく作っても、競りにかけると、色が乗っていないとか、形が悪いとかで、はねられたり。そういう課題解決に必要な力を、前述のフードバンクの場合と同じく、足りている人と足りていない人という観点で探してつなごうというのが、クラダシ地方創生基金です。日本の若い労働力である学生には思いも時間もあるが、無いのはお金。その彼らを集めて、第一回目に行ったのが、種子島です。サトウキビの収穫のお手伝いに、2月16日から3月29日まで、大学生15人に行ってもらいました。これは社会貢献型インターンシップないしチャレンジ、通称クラチャレです。イメージとしては3〜4年後ぐらいに、いろいろな地方自治体と連携ができていて、「どうする?富良野にする?出雲にする?どこにする?」というのを学生たちがSNSを使ってやり取りをしていて、「あそこのボランティアへ行こうよ。だってクラダシが全部出してくれるから」と。学生にとっては、ただで旅行ができたとか、友情が育めたとか、第二のふるさとが生まれたとか、それが現地の役に立ったとか、それを就活で言うと少し有利だとか、そういうメリットがあります。

学生を流動させ関係人口を作る

現地にとっては、直接的な労働力の確保に加えて、将来的な関係人口を作る、人を流動させるということが極めて重要かなと思います。高齢者人口がピークを迎える2040年ごろを見据え、地方自治体による人の奪い合いのようなことが水面下でもう始まっています。Iターン、Uターン、Jターンなど、新規就業者への補助金制度や、いわゆるテレワークで、時間や場所に制約されない働き方の導入など。そうした地方にとって、クラチャレを通じて関わりを持った学生などが「関係人口」の創出につながっていくというメリットがあります。

ということで、大学生には思い一つを持って行ってもらえばいいというスタイルですね。少し余談になりますが、サトウキビの生産って、砂糖・塩・タバコは日本の農水が守ってきた産業でもあるのですが、守りすぎてちょっと脆弱で古いのです。私もこのクラダシを通して知っていったことなのですが、サトウキビの生産の北限が種子島にありまして、キビ農家が育てて製糖工場に売る価格って1トン4千円なのです。それでは全然生活できないから、国が補助金をその4倍にあたるトンあたり1万6千円補助しているのです。生産農家が儲からないからどんどんやめていっている。生産農家がいなくなると、もしくはサトウキビがちゃんと収穫されないと、製糖工場は閉鎖しないといけない。閉鎖するということは役場にお金が落ちない。という、まさに持続可能のマイナス方向が、種子島のサトウキビのみならず、全国で同時に起こっています。その状況に、少しでも役に立ちたいという思いがあります。

ーー小中学生、高校生、大学生など若い世代に伝えたいメッセージをおねがいします。

大学生のみならず、高校、中学生にも接する機会があり、びっくりすることに、新宿のとある優秀な中学校の方から連絡をいただいて、卒論のテーマが食品ロスだと言うのです。中学生でも卒論があるのですね。私が大学生の時よりも、今の子たちの社会課題に対する意識がすごく強いなと感じます。クラチャレを通して、それを実現できる場を、クラダシとしてもどんどん展開したいと思っていますし、一般社団法人食品ロス推進機構なるものを設立するつもりでもあったりするのですが、やはり思うことが実行できる世の中である必要がありますし、学生の皆さんにはぜひ、やってみるということが必要かなと思います。

日本の玄関口からITを駆使

ーークラダシをはじめ、テクノロジーで社会課題に挑戦するイノベーティブな企業が集まる、通称「五反田バレー」地区の魅力や、企業と地域の関わりについて、教えて下さい。

品川区は日本の玄関口だと思うのです。新幹線、羽田空港などへの立地的な利便性も含め、歴史的にもそうでした。というところから、まさに私たちのITを駆使して、いわゆるOtoO(Online to Online)というか、農家ってどんどんシステムとかアグリテックとか、ドローンが飛んで農薬散布とかになってくるけど、それって各農家に入るのは何年後?だったり、実際、私たちが農家との取引をする時に、彼らはPCを使えなかったり、使わなかったりするので、電話・FAXでやり取りするのです。実際、地方でIT活用を手掛ける中で、品川区ないし私たちの所在がある五反田においても、個々に素晴らしい企業もたくさんあるので、皆に注目されるような連携のしかたを、より一層できていけたらいいなと思います。私たちが今、所在のあるのが東五反田なのですが、その前にいたのが西五反田で、この界隈が好きだなというのもありまして、今後は身近な足元にも目を向けて、そこの企業との関係性を未来のために持って行ければなというのをあらためて思う次第です。

品川区社会貢献製品認定企業 株式会社クラダシによるイベント『映画上映&講演会~食品ロス削減について考える1日~』– 2019年10月27日(日)品川産業支援交流施設SHIP

食品ロスに関するドキュメンタリー映画『0円キッチン』の上映や、食品ロス問題専門家である井出留美氏の講演、株式会社クラダシ代表取締役社長の関藤氏による、お得にお気軽に社会貢献できる仕組みの紹介などがあり、約60名の参加者が集いました。

聞き手:木村京子(エシカルコンシェルジュ)

企業インタビュー(5) 株式会社ギフティ様

株式会社ギフティ 代表取締役 太田 睦 氏

通称「五反田バレー」地区をベースに、STI(科学技術イノベーション)の力でSDGs(2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標)などの社会課題に挑戦する、素敵な企業をご紹介するシリーズ。

第五弾は、ギフトで「人と人」「人と企業」「人とまち」をつないでいくことをミッションに、eギフトプラットフォーム事業「giftee」を推進する、株式会社ギフティ様です。

2019年10月8日、東五反田の齊征池田山ビル2階にある株式会社ギフティ様におじゃまして、CEO太田睦様にお話をうかがいました。

株式会社ギフティ 代表取締役 太田 睦 氏

ーー2019年9月20日に東証マザーズに新規上場したばかりのギフティのオフィスに入ると、お祝いの花でいっぱいでした。

上場直後の株式会社ギフティのオフィス

ギフトで、「人と人」「人と企業」「人とまち」をつないでいく。

ーーさっそくですが、太田さん、ギフティとは、どんな会社なのでしょうか?

株式会社ギフティは、eギフトというサービスを中心に事業展開をしています。eギフトとは、スターバックスコーヒー、サーティワンアイスクリームのような実店舗で、コーヒーやアイスなどの商品サービスと引き換えることができる電子チケットのことです。eギフトの生成、流通、販売を、川上から川下まで一気通貫で行っている会社です。少額のギフトを個人から個人へ贈ることもできるし、法人であれば企業のキャンペーンの景品として配ることができる、そのようなサービスを展開しています。ギフトで、「人と人」「人と企業」「人とまち」をつないでいく。それが当社のミッションです。まだ国内では認知度が低いeギフトを普及させ、日常的な習慣化を目指しています。ギフティは、この目標を達成するために行動指針として定めているのは、一つ目が「エグゼキューション」、日本語で「考え抜く」「やりきる」というもの。二つ目が「スピード」。圧倒的なスピードで関係者を驚かせていこう、というところ。三つ目は「One Team」。社内のチームで物事を成し遂げていこうということ。最後は「10X」、非連続の成長や成果を目指そうということ。以上4つを行動指針として設定しています。行動指針を社内で浸透させるために、評価の中に組み込んだり、社内の日常会話でもこういった言葉を使って説明したり、社内にポスターを貼ったりグッズを作ったり、ということもしています。

ーー今、世界には、SDGsに掲げられているような様々な課題があります。ギフティが重視するグローバルな課題とは?また、そういった社会課題に挑戦するギフティの取り組みや、課題解決につながる技術についてお聞かせください。

当社のeギフトのプラットフォームにより、様々な課題にアプローチできていると考えています。まず一つ目はソフト面です。今まで人々がちょっとした気持ちを形にする時、あまり手段がなく、言葉で伝える以上のことをしたい場合、実際にものを買って、配送したり、手渡しをしたりで、かなり移動が伴い、CO2も出ると思います。それに対して、贈り手はその場で気持ちを形にしオンラインで贈ることができて、受取った方は近くの店舗で商品と引き換えていただけるのがeギフトなので、かなり環境に優しいサービスです。

二つ目は、地域間の格差をなくしていくというところです。今、新規事業で「地域活性プラットフォーム」と称して、地域通貨、地域商品券を電子化する「Welcome ! STAMP」という事業も展開していて、地域内での活性化や、都市部から地域にインバウンドでお客さんを呼び込むようなサービスや地域限定で利用できる電子商品券、電子乗車券などのソリューションを用意し、それによって都市部と地域の差分をなくしていくことにも取り組んでいます。

「Welcome ! STAMP」のサービスを説明します。「Welcome ! STAMP」のソリューションの1つである「e街ギフト」は、2019年11月に瀬戸内市に初めて導入いただきました。ふるさと納税の返礼品として、今まではお米、お肉、果物など、土地の名産品を郵送でお届けすることが多かったのですが、今回は「e街ギフト」と名付けて、地域内で使える商品券(従来で言えば感謝券)の電子化をしました。また、旅先で納税してその場で返礼品として「e街ギフト」を受け取り、滞在中にすぐ利用できる仕組みとして「旅先納税システム」もあわせて提供しています。

e街ギフトと旅先納税システムを利用すると、寄附後にふるさと納税の返礼品として「e街ギフト」をメールで即時に受け取れます。お近くのe街ギフトが使える加盟店に持っていくと、表示されている金額分、即日買い物ができます。出張や旅行中に寄附と返礼品の消費が可能という点で即時性もありかつ利便性も高く、地域経済にも貢献することのできるサービスです。

環境面と地域間格差の課題にソリューション

テクノロジー面では、これを実際に加盟店で使う時に決済をする必要があるのですが、QRコード決済、SuicaなどICカードを使った決済、クレジットカード決済がありますね。まずQRコード決済だと、利用者がアプリをダウンロードしないといけない。ただインバウンドでは、日帰りや一泊二日などショートステイの方にアプリをダウンロードしてもらうのは非常にハードルが高いです。e街ギフトはウェブブラウザで決済ができます。ICカード、クレジットカードの場合は、専用端末を各加盟店に配らないといけませんが、工事費含め1台10万〜15万ぐらいすると言われます。店舗や自治体側の負担が非常に大きくなるので、当社では電子スタンプというものを提供しています。1台2000〜3000円ぐらいのスタンプを各加盟店に1台、置いておいて、e街ギフトをお持ちのお客さんが来たら、これをお店でポンと押すと決済がされます。このスタンプの特徴は、人間の静電気で動いていて、電池、充電が不要なことです。通信もお客さんのスマートフォンを介して行うため、特別にネットワークを用意する必要もありません。各スタンプの裏側に6個の点がついていて、スマートフォンに接地したタイミングで、スマートフォン側でどの座標が押されたかを認識して、端末がインターネットで当社のサーバと通信すると、誰が、どこの店舗で、今いくら使ったのか、というのが、裏側で記録される仕組みになっています。QRコード決済のようなアプリのダウンロードも不要、10万、15万するような決済端末も不要で、電子決済ができるというソリューションです。

また、地域通貨も、東京都の離島で「しまぽ通貨」、長崎県の離島で「しまとく通貨」を電子化し、現在も運用しています。

「しまとく通貨」「しまぽ通貨」は、もともと紙でした。「しまとく通貨」は、紙の時代に3年間で100億ぐらい流通されていたプレミアム付商品券で、通常プレミアム付商品券は地元住民が買って地元で使うことが多かったのですが、これは少し特殊な通貨で、観光客だけが買えるのです。島外の方にそのプレミアムを目的に来ていただいてインバウンドを増やすという施策なのですが、100億も流通していると、紙の印刷代や、それをお店で管理したり処理したり換金したりする手間がかなり発生して、この部分を何とか解決できないかという話がありました。それが、この事業に参入したきっかけでした。

ギフトは、「人と人」「人と企業」だけではなく、「人とまち」をつなぐのにも活用できないかと、まさにそういったお話があったことをヒントに、少しずつ事業を拡大してきたのです。

株式会社ギフティ ロゴマーク

ロゴに込められた意味

ーーロゴが新しくなりましたね?

前に使っていたロゴは、会社を立ち上げて翌年、サービスを開始したタイミングで作ったもので、当時はまだCtoCサービスの「人と人」の部分だけを展開していましたが、「人と企業」「人とまち」の事業も増えてきたので、ロゴ自体も、今の状態に合わせたアップデートを行いたいねということで、リニューアルを図りました。モチーフになっているアスタリスクには3つの意味が込められています。アスタリスクにはもともと「小さい星」という意味があり、ギフティのギフトは非常に少額でカジュアルなものが多いのですが、もらった瞬間すごく嬉しいというよりは、心にキラッと小さい星が煌くような、そんなイメージが一つ。二つ目は、このアスタリスク、よく見るとそのデザインにリボンのモチーフを使っています。もう一つ、ギフティは「人と人」「人と企業」「人とまち」の掛け算で成立する価値ですが、アスタリスクというのは、エンジニアの使うプログラミングの言語だと掛け算の意味なんです。この3つの意味を、この新しいロゴに込めています。

ーー上場して変化はありますか?

株価を気にするようになりました(笑)。やはり責任感みたいなものは、今の方がより感じるようになりましたね。企業は社会の器と言いますか、まだ顔を合わせたことのない株主さんも含め、そういった方々の期待にちゃんと答えたいという気持ちが今、自然と湧いてきている状態です。

「eギフトってパーツのようだね」

ーー今後の展望は?

ギフティのメリットの一つは「ありがとう」の記録が残ることです。Facebook連携もしているので、将来的には、Facebookの投稿などから出産などのライブイベントを抽出してくるというのもあるかと思いますね。小さいからこそ、いろいろなシーンでハマりやすくて、「ギフティのeギフトってパーツのようだね」とよく言われます。パーツなので、どんなものにでも組み合わせることができるのです。だからこそ、いろいろな会社から協業のご相談などをいただきやすいのかなと感じます。

ーーギフティの経営者として、イノベーティブなアイデアの創出や、イノベーティブ人財の育成について、どのような仕組みづくりや工夫をしていますか?

当社は今、創業して今年で10年目を迎えますが、まだ新卒メンバーは少なく、中途メンバーが非常に多いです。社内の9割以上は中途入社で、前職はIT、事業会社、コンサルと様々、もともと弁護士をしていた人もいます。皆、魅力的なスキルを持ち、そのスキルを生かし、それにeギフトという事業をかけ合わせて、それぞれが活躍しています。会社から何か「これをやってください」とオーダーすることもあるのですが、それよりも、個々人の意志を尊重することをかなり重視していて、自身がどんなことをこの会社で実現したいのかを聴いた上で、最適なアサインをしていくことをだいじにしています。本人としても興味範囲であるほうがアグレッシヴに仕事に向き合うと思いますし、新たなアイデアなどが生まれやすいかと考えています。

社会を前身させるために起業

ーー小中学生、高校生、大学生など若い世代に伝えたいメッセージをおねがいします。

学生時代は勉強に限らず自分が好きなことに思い切り飛び込んで、何か一つを磨き上げると、その後の人生にすごく役立つかと思います。私の場合は、中学高校の時はテニス、大学の時はアカペラにかなりの時間を費やしたことで、そこで生まれた人脈、一つのものへの向き合い方、そういったところが今に生きているかなと感じています。

大学3年生で就職活動をしていた時に、当時ベストセラーになった『ウェブ進化論』という本を読みまして、ちょうどウェブ2.0と言っていた時代で、その本を読んで初めてシリコンバレーの、例えばGoogle,Amazon、Facebookという文化を知りました。お金稼ぎのためではなく、社会を前進させるために世界中から本当に優秀な方々が集まって、プロダクトを作って、それで世の中が前に動いていく、そこで生まれた収益をまた事業に再投資をしていく、というところが、働き方としてすごく魅力的に映りまして、そういった会社を自分で起こしたいと思ったのが、起業のきっかけですね。

株式会社ギフティ 代表取締役 太田 睦 氏

ノウハウや知見を共有する場が自然と生まれる街

ーーギフティをはじめ、テクノロジーで社会課題に挑戦するイノベーティブな企業が集まる、通称「五反田バレー」地区の魅力や、企業と地域の関わりについて、教えて下さい。

昔に比べてスタートアップが五反田に集中して、もちろん経済的な理由もあるとは思うのですが、密集することで、エンジニアの勉強会やCFO会みたいなものが五反田で開催されて、かなり熱気もあり、それぞれのノウハウや知見を共有する場が自然と生まれ、それがとても良い刺激になっているなと感じます。五反田スタートアップマップみたいなものもできて、エンジニアの集まりなども最近、五反田での開催が増えてきている印象があります。当社の社員も勉強会やミートアップに参加してプレゼンもしたり、積極的に情報交換していると思います。

ギフティ初のユーザー向けオフラインイベント「giftee GOOD STORY AWARD」– 2019年10月18日(金)・19日(土)有楽町マルイ1階エントランス

gifteeを利用して「ギフトを贈った」「ギフトを貰った」際の印象的なエピソードをオンライン募集し、応募のあった約100エピソードから社内投票によって選ばれた3つのエピソードがノミネート作品としてパネル展示されました。2日間で有楽町マルイへ来店した方々の投票により、大賞が決定しました。

ギフティ初のユーザー向けオフラインイベント「giftee GOOD STORY AWARD」- 2019年10月18日(金)・19日(土)有楽町マルイ1階エントランス

聞き手:木村京子(エシカルコンシェルジュ)

企業インタビュー(4) ソーシャルアクションカンパニー株式会社様

通称「五反田バレー」地区をベースに、STI(科学技術イノベーション)の力でSDGs(2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標)などの社会課題に挑戦する、素敵な企業をご紹介するシリーズ。

第四弾は、ブロックチェーンなどの技術を使い、これまで証明できなかった1人1人の社会貢献を見える化し、より多くの人の活動(ソーシャルアクション)を定量化、「愛と勇気とお金の等価交換」を実現するプラットフォーム「アクトコイン」を提供する、ソーシャルアクションカンパニー株式会社様です。

2019年10月4日、西五反田のアイオス五反田駅前ビル5階にあるソーシャルアクションカンパニー株式会社様におじゃまして、CEO佐藤正隆様にお話をうかがいました。今回も「次世代レポーター」として立正大学品川キャンパスの学生、そして撮影スタッフとして関東学院大学人間共生学部の学生も取材に参加しました!

ソーシャルアクションカンパニー株式会社 代表取締役 佐藤 正隆 氏

ーーソーシャルアクションカンパニーのオフィスに入ると、インターン学生を含む若い方々とCEOがテーブルを囲んで侃々諤々、企画会議の真っ最中でした!

愛と勇気とお金の等価交換

ーーさっそくですが、佐藤さん、ソーシャルアクションカンパニーとは、どんな会社なのでしょうか?

ソーシャルアクションカンパニーは、2018年5月設立の会社です。設立前から、NPO業界やソーシャルビジネスに5年ぐらい関わってきました。経済的な価値が労働対価(給料など)になり、それが指標になっている今の社会と、一方でボランティアや寄付といった社会貢献が可視化されていないことに、疑問を感じていたというのが、アクトコインというビジネスを創るきっかけでした。2017年末ぐらいから構想を始め、2018年1月から春にかけてアクトコインという名前ができました。その時に、世界を少し良くする力として、「愛と勇気とお金の等価交換を実現する」というビジョンを立てました。

ーー今、世界には、SDGsに掲げられているような様々な課題があります。ソーシャルアクションカンパニーが重視するグローバルな課題とは?

SDGsには17の目標がありますが、さらにその下にたくさんのターゲットがあって、我々ができるところも、たくさんありますよね。まず今よりも少しだけ良くするためには、そこで活動する個人たちがアクターになっていかないといけないということで、アクトコインでは「ソーシャルアクター」と呼んでいるのですが、そのアクターをいかに増やすかというところを、今やっています。SDGsの目標でいうと、17番にあたるパートナーシップと協働を強く推進していくプラットフォームがアクトコインです。もともとは、アクトコインを企業や公的な機関に使ってもらいたいというよりも、個人というところから始まっています。例えば日本でも、地方で人知れずボランティアをやって課題解決に向かっている人たちもいるのですが、そういった人たちが見える化していないがゆえに、社会課題を知らない大人もたくさんいる、というのが現状だと思うのです。1つの問題でも、いろいろな切り口で取り組んでいかないと、なかなか解決に向かわないので、そういったことをまず大人が知るという意味で、このアクトコインでソーシャルアクターをたくさん創り、実際に知ったことで行動に移っていく、そういったアプリケーションを実現したいと思っています。

ユーザーフレンドリーな「アクトコイン」のアプリケーション

ーーそういった社会課題に挑戦するソーシャルアクションカンパニーの取り組みや、課題解決につながる技術についてお聞かせください。

テクノロジーに関しては、2つあります。1つ目は、IT技術、例えばスマートフォンのアプリケーションにおいても、使いやすくて楽しい形を実現していきたいなと思っています。ですからデザインも、非常にフレンドリーかなと思います。これまでの、社会貢献というと少し違う世界のもの、というようなイメージではなく、学生から大人まで、みんなが参加して楽しくやれる、という雰囲気作りをしていまして、そういった意味では、アプリケーションの開発にも非常にこだわっています。

2つ目は、ブロックチェーンの活用です。私が2017年頃に構想していた頃、ちょうど仮想通貨にブロックチェーンが使われて、いろいろな事件もあったかと思いますが、その時に私がやろうと決めたのは、社会貢献を可視化しよう、そこにブロックチェーンが役に立つのではないかということでした。ブロックチェーンは匿名性があって透明性が高い技術なのですが、社会貢献を可視化していくという意味でブロックチェーンのデータベースに個人のアクションが記録されていくというものはそれまで全然なかったので、社会貢献を可視化するブロックチェーンのデータベースをアクトコインで作ったわけです。今はアクトコインの中での社会貢献だけしかブロックチェーンに書かれないようになっていますが、アクトコインの理想としては、これからいろいろなサービスとどんどん繋がっていって、アクトコイン以外のサービスにおいても社会貢献活動がブロックチェーンに書かれるようになり、社会貢献を記録するスタンダードなデータベースが1つできればと思います。APIという、いろいろなシステムどうしが繋がってデータが行き来する技術があるので、どこで社会貢献をしてもアクトコインと繋がっているというイメージで、2025年ぐらいまでには、社会貢献のスタンダードなブロックチェーン・システムにまで発展させていけたらなと思っています。

社会貢献を可視化、新しい価値に

ーーアクトコインは、仮想通貨なのですか?

アクトコインは仮想通貨に類似していますが、仮想通貨ではありません。売ることも買うこともできません。電子トークン、ポイントと言ってもいいですが。

ポイントというのは、日本人には馴染みがありますが、でも、もしこれがアクトポイントだったら、イノベーティブな感じが伝わらないと思うのです。これまでの延長かと思われてしまう。私がやろうとしているのは、社会貢献を可視化して、社会貢献に価値を与えようということで、将来的には日本円を出さなくても、このコインで何かできるようにしていこうとしています。ポイントも今、それに近いことにはなっていますが、これまでの概念を超えてアクトコインというのを広げていきたいと思っているので、アクトコインという名前をつける時に、いろいろな人から「コインってつけて大丈夫?」と言われたのですが、「いや、コインで行く。新しい価値にしていくので、ポイントという名前は使いません」と、そこはけっこうこだわっています。それでよかったと思っています。学生などは、「これって仮想通貨なのかな?」というところから興味関心を抱いて、「あれ?ブロックチェーンというのを使っているらしいよ。仮想通貨なのかな?これ何なのだろう?え、買えないし売れないってどういうこと?」みたいなところから入ってきてくれても、全然いいかなと思っています。

「アクトコイン」とブロックチェーンの関係の概念図

ーー実際に、どういうことが起きるのでしょうか?

まず、「プロジェクトオーナー」という言い方をしていますが、企業や自治体や任意団体の方が、何かイベントに参加してください、もしくは、こういうアクションをしてください、といったことをプロジェクトとして立てます。そこに参加などのアクションをするのは個人ユーザーです。プロジェクトオーナーには専用の管理画面を渡していまして、そこでプロジェクトも作れるし、プロジェクトに参加した人にコインの付与も簡単にできるようになっています。

3つの方法でコインを獲得

コインをもらう方法は3つあります。まず、プロジェクトオーナーが作ったプロジェクトに参加すると、1時間あたり1000アクトコイン。参加はできないけど、SNS(Facebook、Twitter)でシェアすると、100アクトコイン。もう1つは、その団体に寄付をする。これはアクトコインの中で寄付をするのではなく、普通にどこかの団体に寄付をした時に、その団体から領収書、寄付証明書をもらえるのですが、その証明書を写真に撮って、アプリからアップロードすると、寄附金額の10%(例えば1000円寄付すると100アクトコイン)のコインがたまります。

ーー社会貢献の内容によって、評価基準はどのようになっているのですか?

寄付は金額なのでみな平等だし、シェアは1回あたり100アクトコインですが、参加だけは、学ぶ、勉強しに行くのと、例えば被災地にボランティアに行くのは、質が違うと思います。そこに関して、今は1時間1000アクトコインと同じ設定なのですが、これは近いうちに、3段階、もしくは5段階に分かれていきます。例えば、まだ社会課題のことをよくわからない、こういったことに興味があるので、まずは学んでいきたいという人に関しては、1時間あたりのコインが少なくて、例えばゴミ拾いの活動だったり、自らが汗をかいて行動するものに関してはこのレベル、さらに移動距離が長かったり、緊急性の高いものに参加すると、もらえるコインが割合として大きくなるとか、そういった形で、少し段階分けをしようと思っています。

ーーなるほど。最初に2030億アクトコインを発行したのは、SDGs達成目標の2030年に掛けたのでしょうか?

そうですね、2030年までに目標を達成しようというのがまず1つと、もう1つ、社会貢献を可視化していくというのは、2〜3年でできるわけではないだろうと思った時に、このサービス自体が、「働く」とか「幸せ」とかの要素は何か、社会に貢献することだ、という文化というか価値観を、2030年ぐらいまで10年あれば何かやれるな、というところで設定しています。数字は何でもよかったのですが、でもやはり2030億にしたのは、そういう意味付けです。2030億枚を配布していって、それを使えるようにしていき、使われたらまた戻りますので、2030億枚が付与されるのと使われるのとで、循環していく形になりますね。

2030億アクトコインが循環する世界をめざす

ーーその他に、今後の展望として考えていることはありますか?

まずは、このアクトコインというサービスにたくさんのユーザーが集って、社会貢献に参加したり寄付をしたり、そういったトランザクションが、やっていて楽しい、コインがもらえると嬉しい、みたいな形で、まずは進めています。現在3500ユーザーぐらいですが、東京オリンピックまでに3万ユーザーを目指しています。ユーザーをある程度の数に増やしていくことによって、アクトコインのインパクトを高めていくというところが、まず1つあります。

さらに社会実装として広く普及していくためには、企業や自治体との協働が必要になってきます。現在企画中ですが、自治体版、企業版のアクトコインというのを、これから準備を進めていって、2020年以降はそれをサービスとしていろいろな自治体や企業に使っていただき、そこで参加する人たちがすべてアクトコインのユーザーとなって、社会貢献をするとコインがもらえるという実体験をする人たちがどんどん増えていくような状態にしていきたいなと思っています。

ーーそれは、これまでのアクトコインと、どう違うのでしょう?

現在もプロジェクトオーナーとして企業や自治体はアクトコインの中にいますが、企業だとやはり自分たちの中だけでやりたいよねというのがあって、企業の中だけでアクトコインの機能が使える有償サービスに対するニーズがあるのです。アクトコイン自体は誰でも無料で使えるサービスとして継続しつつ、アクトコインのシステムを応用して、企業や自治体の中で活用できる有料サービスも、今後提供していこうと思っています。

アクターは個人で、企業はプロジェクトへの参加を促す役割です。企業の貢献度については、コインを付与したプロジェクト、付与した人数、付与したコインの数が指標になります。企業内の社員がどれだけ社会貢献しているかを、企業のくくりとして見れるのが、企業版のメリットです。今はアクトコインの中で、プロジェクトオーナーとして企業がページを作った時には、企業以外の人が参加してくるという良さもあります。でも、まずは企業の中で完全クローズで使いたい、社員教育の一環や、福利厚生でやりたい、という企業には、企業向けのプランをご利用いただき、アクトコインと同じ機能を使っていただく。そこでたまったコインはアクトコインと連携していく、というイメージです。企業は、社員が何人参加して、どういうプロジェクトにどれぐらいのコインが付与されたのか、可視化されることで、企業の社会貢献が見える化されるわけです。

ソーシャルアクションカンパニー株式会社 代表取締役 佐藤 正隆 氏

それ以降に関しては、まだ具体的ではありませんが、個人が社会貢献をするとコインがもらえるということでモチベーションが維持されるというのがサービスとして最もだいじな大前提として、では、たまったコインが何に使えるかというところに関しても、いろいろとお問い合わせいただいていまして、そこも今、企画しています。

アクトコイン活用イメージ

ーーそれは楽しみですね。具体的には、どういうところに使えそうだと思いますか?

使うというところに関しては、すべて企画ベースになると思います。例えばアクトコインのユーザーが3万人になった時に、1万アクトコイン以上持っている人たちに、こういう使い方をしてほしいという企業が出てきたら、そことタイアップして、その企業からいただくお金でその人が何かアクションできるとか。例えば、地方自治体が主催するイベントに、社会性の高い人を都心から呼びたいとします。そこで、アクトコインを持っている人たちはアクトコインを使って入場料が無料になるとか、もしくはその街で宿泊する宿代が無料になるとか、そういったこともすべて、自治体や企業の企画ベースですね。そこがアクトインのビジネスになっていくと思います。

ーー災害も、多様な人々が協働する機会かと思いますが・・・

もちろん災害も、アクターが活動する1つのタイミングだと思うので、そこのアプローチはしていきたいです。取締役の石川も災害関連のことをやっていますので。ただ、アクトコイン自体が、2019年2月1日に開始したばかりで、2〜3年やっているサービスではなく、やっと8ヶ月過ぎたところです。これからは、災害、気候変動、子どもや人に関すること、というように、もしかするとセグメントされて、アクトコインの使い方のレギュレーションがもっとカテゴリーごとにわかりやすくなっていくのが望ましいかもしれないですね。今は全方位で情報を伝えようとしているので、少しコミュニケーション・ロスがある部分はありますね。たしかに、災害が起きた時にすぐに情報を伝えていって使っていただけるような、もしくはつい先月に起きた災害に対して、アクトコインを付与しますというような、過去のものに対して証明していけるようなものも、あってもいいかもしれません。

その他、ボランティアに行く時のボランティア保険を、アクトコインを持っている人は免除されるとか、アクトコインが使えるとか、もしくはアクトコインの中からオンラインでボランティア保険に入れるとか、そういうこともやっていけたらいいなと思っています。保険会社とも組めるのではないかと思っています。

官公庁や企業から注目

いろいろな省庁でアクトコインを説明に行かせていただいていまして、そういった中でも、関心高い人がだいたい私と同じ世代なのです。今まで省庁で働いてきたり、もしくは大企業で働いていて省庁に出向している人とか、そういった30〜40代前半の方々がアクトコインをピックアップしていただいて、こういうのがこれから必要ですよ、みたいな話でどんどん繋がっていっているのです。

企業も同じです。実は昨日、大企業の社員と一緒に食事をしたのですが、私も大阪で会社を経営していますし、企業の経営者も課題を持っていて、社員もこれからどのように仕事に関わっていくか、働き方がだいぶ変化してきていると思います。今までの中小企業では、雇用しているのだから100〜120%貢献してもらわないと、みたいなところがけっこうあったのが、そういう会社には人が集まらないので、働く人が曜日や時間や場所を選べるような社会に、これからなっていくと思うのです。例えば、私は来期はボランティア活動をやりたいので、出勤を週5から週3に変えてください、というのが簡単に申請できて受理されるような日本に、たぶんなっていくと思うのです。大企業の一部はもうなっています。副業であれば、その副業で得た収入というのは定量化されているわけですが、そうではない場合、今は何も見えていないので、そこにアクトコインがどんどん使われていくといいかなと思っています。

ーーグローバル展開も視野に入れていますか?

東京オリンピックを目処に、英語版をリリースできたらいいなと思って今、進めています。英語版をリリースすることによって、アプリにおいては世界共通で、アジアや欧米でプロジェクトオーナーが増えていけば、その地域で広がっていくと思って、そういったところはやっていきたいなと思っています。

日本らしいボランティア文化をグローバルに可視化

ーー海外と日本で、ボランティアに対する意識は異なると思いますか?

なんとなくですが、アメリカなどの方が、ビジネスは合理的に、そのビジネスで得たものやそのリソースの余力をボランティアに充てていく、みたいなところが、日本よりもはっきり分かれているかなと思いますね。日本人って、曖昧さを持った国民だと思うのです。日本語の言葉のニュアンスの細かさは、よく外国人に驚かれますが、日本語があれほど多様になっているのも、中国の文化、欧米の文化、いろいろなものを吸収して、それらがミックスされているからでしょう。ボランティアも、今は欧米起源のボランティアというものがありますが、実はお寺や神社という文化が昔からあって、ある意味ボランティア的なものが、日本人の生活、ライフスタイルの中にあったと思うのです。だから今さらそれを可視化するというのは、昔ながらの日本人的には、なくてもいいかもしれませんが、現代のグローバルな世界で、学生たちも留学など海外へ出ることが当たり前になっている中で、時代も変わってきたというのはありますよね。昔は村社会だったので、村の中に神社やお寺があって、地域自治、町内会などもある。それらもボランティア活動だったと思うし、今もあるのですが、今はインターネットやスマートフォンが普及したことで、村社会の中だけではとどまらなくなってしまった。世界にいつでもリーチできて、比べられるようになってきた、という中で、日本人は日本人で自発的にやればいいのかというと、でも私の経験として、課題がたくさんあって、そこに関わっている人もたくさんいるのに、そういうのを知らない日本人もたくさんいるのです。可視化することで、課題や、そこに関わってきた人たちのことを知ってもらって、少しモチベーションが上がったり、というのも必要なことだと思うので、アクトコインを使っていただいて、可視化できたら素晴らしいなと思っています。

ーーソーシャルアクションカンパニーの経営者として、イノベーティブなアイデアの創出や、イノベーティブ人財の育成について、どのような仕組みづくりや工夫をしていますか?

今はイノベーションというのも、どちらかというと、社会貢献をしたら嬉しい、楽しい、喜びに繋がる、究極的に言うと幸せに繋がる、というように思っていまして、であるならば、それがいいと思っている人たちは、すでにやっているはずです。そういう人たちを可視化してあげたいという思いがまずあって、同じく、社員に関しても、こういったサービス自体が新しいものなので、アクトコインを広げたい人は、大学生や社会人の中にたくさんいると思います。人材獲得と採用については、私たちのやっていることを知っていただいた時に、これを一緒にやりたいという方は日本全国にたくさんいるので、そういう人たちと一緒にアクトコインを広げていけたらなと思っています。

グリーンがあふれるソーシャルアクションカンパニー株式会社のディスカッションスペース

若い世代がアクトコインのアンバサダーに

今、大学生のアルバイトが5人、インターン(「ユースアンバサダープログラム」という大学生が参加できる枠)が15名以上になっています。ユースアンバサダープログラムは学生主導で作ったのですが、いきなりアルバイトで働くのではなく、学生が運営する中に、アクトコインに興味関心があるので私も関わりたいという人たちが気軽に関わってもらえるようなグループになっています。今後は、このユースアンバサダープログラムが主催するアクトコインのプロジェクトに、またさらに学生が来たり、社会人、企業とコラボレーションしてイベントをやったり、というような企画を考えています。

高校生に関しては、東京都内の高校でプロジェクトオーナーがすでに誕生して、高校の部活動で使われるようになっています。いわゆるボランティア部みたいな部活動です。それは大学でもありえると思いますが、今、中高大学生からの関心は非常に高いので、若い人にどんどん参加していただきたいと思います。

ーー逆に、上の世代の方々の反応はどうでしょう?

上の世代の反応は分かれます。例えば60代以上の方を想像した時に、当然いろいろな価値観の人たちがいるので、良いという人も悪いという人もいるのですが、これまでの60代の方々でボランティアイズムに優れた人は、ボランティアをわざわざ可視化するものではない、当然のことながらやっているのだという意識があるようです。たしかに、ボランティアは素晴らしいですが、そのボランティア自体が、やはりクローズドなのですよ。今、最重要なのは、ボランティアをオープンにして、それをやっている人たちをちゃんと評価して、価値にしていくということで、だからやっている本人が出したい、出したくない、ではないのです。今どんどん社会課題が複雑化していて、課題ではなくなってきているものもある一方で、新たな課題も出てきています。それらをみんなで一緒に、活動の量も測りながらアクションしていく、価値を増やす。可視化すればアクションする人たちも増えていくと思うのですが、そういう意味では、60代以上でボランティアをやっている人たちに関しては、アクトコインを説明するのに、すごく時間がかかります。説明しても、もらった1000アクトコインは、「何これ?」みたいな、「可視化ってどういうこと?」みたいな話になることが往々にしてあります。逆に、若者にはスッと入るようです。

ーーソーシャルアクションカンパニーをはじめ、テクノロジーで社会課題に挑戦するイノベーティブな企業が集まる、通称「五反田バレー」地区の魅力や、企業と地域の関わりについて、教えて下さい。

「五反田って大阪っぽい」

もともと渋谷で創業して、五反田に移ってきました。私自身がもともと大阪でIT企業を経営しているのですが、五反田ってすごく大阪っぽいなというところがあって、わりと駅、お店、人が近くて、コンパクトで、生活しやすい街だなという印象ですね。

今後は他のIT企業とのお付き合いの場もあるといいですね。アクトコインで2ヶ月に1回、アクトコインのユーザーやプロジェクトオーナー向けのミートアップ・イベントをやっています。ユーザーやプロジェクトオーナーが、お互い会う機会がないので、会う場があったらいいね、という話がありまして、それをアクトコイン側として2ヶ月に1回、やっていこうということで、勉強会をセットにした懇親会をやっています。9月に第1回をしたばかりで、20人ぐらいでしたが、徐々に広げていきたいと思います。これに参加するとコインがたまるように、ゲスト講師を招いて学ぶ場にもしつつ、プロジェクトオーナーになろうと思っている人たちにも来ていただいて、そこで直接ご説明したりしています。

ソーシャルアクションカンパニー株式会社のオフィスから眺める東急池上線

ーー最後にあらためて、小中学生、高校生、大学生など若い世代に伝えたいメッセージをおねがいします。

今の2019年から2030年までに、これまでのインターネットで起きてきたことの、さらに速いスピードで、いろいろなことが変わっていくと思うのですが、でも結局のところITは活用していかないといけないので、このアクトコインなどもそうですが、若い人にどんどんITを活用して、社会課題解決に興味関心を持っていただきたいです。まずは知らないといけないので、学生のうちに、SDGsや、気候変動や、再生可能エネルギーなど、学べることはたくさんあるので、そういったことをどんどん吸収して、ソーシャルアクターになってほしいですね。卒業する時にはアクトコインをすでにダウンロードしていて、ソーシャルアクターの学生がたくさん世の中に出てきてほしいなと思っています。

ソーシャルアクションカンパニー株式会社様へ
「次世代レポーター」からの取材感想

「ただボランティアに参加する以上に、深い意味を持たせたり、より広く社会的影響を与えることができることをソーシャルアクションカンパニー株式会社では行っていた。ボランティアは表立って行うものではないと、このインタビューをする前まで考えていたが、話を通じて可視化されることの重要性を認識した。可視化されない活動は、普段その活動に参加しない人にとっては知る由もないことであり、活動の縮小に少なからず影響してしまう。しかし、可視化されることによって多くの人が活動の存在自体を知ることができ、活動の拡大に影響を与えることができる。多くの人がボランティアに参加できるような環境を作るために、ボランティア活動を可視化していくことが重要なのだと理解した。また、ボランティア活動が周知されるだけでなく、誰が、どのくらい、社会貢献をしているかも見えるようになるため、人にも価値を与えることができる。人に見える価値がつくことはより先進的なことであると同時に少なからずの恐怖を感じるが、社会貢献という良い面を価値化していくことはとても魅力的に思った。」(立正大学心理学部3年 馬塲 孝佳)

ソーシャルアクションカンパニー株式会社 ロゴマーク

聞き手:木村京子(エシカルコンシェルジュ)

企業インタビュー(3) アイ-コンポロジー株式会社様

通称「五反田バレー」地区をベースに、STI(科学技術イノベーション)の力でSDGs(2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標)などの社会課題に挑戦する、素敵な企業をご紹介するシリーズ。

第三弾は、バイオプラスチック複合材の活用によるSDGs推進の取り組みで今年度、第1回「STI for SDGs」アワード優秀賞を受賞した、アイ-コンポロジー株式会社様です。(このインタビュー後の10月31日に受賞発表

2019年10月2日、北品川の大崎ブライトコア4F「SHIP 品川産業支援交流施設」にアイ-コンポロジー株式会社様を訪問して、代表取締役の三宅仁様と取締役の小出秀樹様にお話をうかがいました。前回に続いて今回も「次世代レポーター」として立正大学品川キャンパスの学生も取材に参加しました!

アイ-コンポロジー株式会社 代表取締役 三宅 仁 氏(写真左)と取締役 小出 秀樹 氏(写真右)

ーー大崎駅徒歩5分の「SHIP 品川産業支援交流施設」は、異分野の企業が交流できる会員制オープンラウンジとベンチャー企業が支援を受けられるシェアオフィス、貸し会議室、3Dプリンターもある工房エリア等から成る空間です。

バイオマスプラスチックの普及めざし起業

ーーさっそくですが、アイ-コンポロジーとは、どんな会社なのでしょうか?

三宅(敬称略、以下同じ):2016年にできたばかりの会社です。以前にいた石油会社では非常に大掛かりな仕事をしていたのですが、これからの社会で石油全盛時代は行き詰まると予感して、当時はまだあまりもてはやされていなかったバイオマスプラスチックを何とか世の中に根づかせるのが私たちの使命だと思いました。それでベンチャーを立ち上げたのです。皆さんが納得できる新しい材料を作り出そうという、技術指向型の企業です。一つは、木粉と従来のプラスチックの複合材。そして、今まさに生み出そうとしているのが、生分解性の複合材。海でも土の中でも生分解する、オールマイティーをめざして、都立産業技術研究センター(産技研)と共同開発をしているところです。その他にも、セルロースナノファイバーなど、いろいろな複合材でも成功しています。そういった、新しくて世の中の役に立つ材料を作っていこうという企業です。

ーー今、世界には、SDGsに掲げられているような様々な課題があります。アイ-コンポロジーが重視するグローバルな課題とは?

三宅:人類はずっと石油中心の時代に生きてきたのですが、今、環境問題が世界中で叫ばれています。CO2、温暖化ガスの問題は欧米では喫緊の課題と捉えられています。日本は海洋国家で、海の問題もあります。いろいろな環境問題に対して、何か世の中に残したいものを残していこう、ということを目指しています。

環境問題に3ステップの挑戦

ーーそういった社会課題に挑戦するアイ-コンポロジーの取り組みや、課題解決につながる技術についてお聞かせください。

小出(敬称略、以下同じ):弊社が開発している製品は、バイオマスのフィラー(直訳すると「満たすもの」という意味で、プラスチックに混ぜ込む粉のこと)といろいろなプラスチックを複合化させたものです。木粉などバイオマス粉を入れることで、石油由来の樹脂の使用分量を減らし、最終的に焼却処分する時にカーボンニュートラルで、CO2の削減を図ろうというのがまず1つです。さらに今後は、プラスチック成分についても、とうもろこしやサトウキビの残渣などから作られるプラスチックとバイオマスフィラーとの複合材で、最終的に燃やす時に発生するCO2が理論的にはゼロに近くなる、というのが次の段階かと思います。そしてその先には、もう一つの課題である海洋プラスチック問題ですが、これについては、バイオマスフィラーと海洋生分解性のポリマーを組み合わせることで、海に万が一流れ出しても一年以内に分解する、というものを作り出すことが可能になります。

ポリマーや樹脂自体は大手のケミカルメーカーが作っているので、それにバイオマス成分を複合化することで、ボトルネックの緩和や、コストダウンなどにも貢献できるのではと思います。

バイオマスプラスチック複合材の製造スキームと様々な成形方法

ーー具体的には、どんなところが画期的なのでしょうか?

小出:これまで木粉とプラスチックの複合材 (ウッドプラスチック材、WPC)を使った製品は、家庭や公園にあるウッドデッキなど、「押出成形」といって熱で溶かした樹脂を金太郎飴のように同じ断面に押し出して長尺のものを作る方法で製造されていました。これは樹脂の流動性などにあまり影響なく、比較的簡単な技術で作ることができました。一方、バケツやオモチャなど形のあるものだと、熱で溶かした樹脂をたい焼きのように金型に押し込み冷やして固める「射出成形」という量産に適した方法になります。私たちのウッドプラスチック材は、この射出成形など、いろいろな既存の成形方法に対応できるようにする必要がありました。まず、水と油のように相容れない関係にある、バイオマスフィラーとプラスチックを、うまく分散させてやらなければいけません。そこで、新たな分散剤の開発や探索をして、流動性向上剤などの検討も行いました。これにより、今まで非常に流れにくかった樹脂をきれいに流すことができるようになりました。なぜこれが難しいかというと、通常は樹脂の流れを良くしようとすると、温度を上げなければいけないのですが、バイオマスフィラーは200度ぐらいで熱分解が始まってしまうので、あまり上げることができない。200度以下でうまく流れるようにしなければいけない、というのが大きな課題でした。そこを解決したのが、私たちの技術です。

三宅:私たちはもうだいぶ前から、従来のウッドプラスチックでは不可能だった、例えばトレーなども、射出成形できるようになっています。着色もでき塗装も可能で、形も多様なものができます。プラスチックの世界では、革新的な技術でした。

「射出成形」の解説をするアイ-コンポロジー株式会社 代表取締役 三宅 仁 氏

アイ-コンポロジーが世に問う環境・経済サイクル

ーーメリットは?

三宅:今、特にヨーロッパでは、バイオエコノミー、サーキュラーエコノミーと呼ばれる、原材料として木などの天然物を使う動きが、ものすごく盛んなのです。2011年にはもうヨーロッパ全土に指令が出ていました。日本はそれがずいぶん立ち遅れているのが実情です。弊社の素材はまさにバイオエコノミーにそのまま当てはまり、当時は世界に照らし合わせても最先端の技術でした。今はヨーロッパではもう当たり前に作れるようになっています。

それなら、私たちのはもっと成形性がよくならないかと、ボトルだとかを、日本の技術をいろいろ寄せ集めて作っています。

さらに重要なメリットとしては、未利用のバイオマスを使うことで、SDGs的に見た場合に、中山間地域での支援にも繋がることです。未利用資源の有効活用を通じて新たな産業の発展森林の保全、そういったことにも貢献できるのが、有機フィラーを使うメリット、特徴です。ここまでが、第一段階。

小出:第二段階は前述の、カーボンニュートラルによる脱カーボンですね。そちらを進めるために、今はバイオマスからできたポリエチレンなどと混ぜ合わせることで、ある程度の技術が確立できています。さらに、第三段階の生分解についても、ほぼ目処が立ってきていますので、今年度中には、ある形にしていきたいと考えています。

三宅:海でも生分解が可能な、ペレットのような小さい成形品も弊社は作っています。もう少し強度を上げようとしているところです。本来、海に流してはいけないのですが、万が一流れてしまっても、試験条件では90〜100日ぐらいで、通常の条件下で生分解、つまりCO2と水に分解します。もともと植物性のものが原料になっていますので、これもカーボンニュートラルと言えるでしょう。安倍総理が6月のG20で大阪ブルー・オーシャン・ビジョンの実現に向けた意思表明をしましたが、そういう動きにマッチする素材を、弊社のようなベンチャーでも少しずつ研究開発しているという状況を皆さんに知っていただきたいと思います。直近では、こういう素材でスプーンやフォークを実験的に作ろうというのも、東京都の産技研と一緒に進めています。

「環境性能」優れた製品、日本から発信を!

小出:生分解性ポリマーは、まだ非常にコストが高いです。通常のプラスチック(ポリプロピレンなど)の3〜4倍します。供給量もまだ非常に少ないです。弊社のように半分バイオマスを混ぜれば樹脂は半分で済むので、加工賃を入れても、ポリマー単体よりは安く*できて、使いやすくなるはずです。(*汎用プラスチックと呼ばれるポリプロピレンやポリエチレンなどに混ぜるケースではまだコストアップになるが、例えばキロあたり700〜800円単価の樹脂に100円の木粉を混ぜれば平均してコストダウンになる)

三宅:もともと私たちはプラスチック業界にいたので、コストを下げることと性能を上げることを両立させたいと思っています。どの業界でも、価格がまず問われます。それから性能。使用する時の強度や物性が問われます。それに加えて、これからは必ず、環境性能、これも性能の大きな要因の一つに数えられる、ひょっとしたら一番目か二番目に上がるかもしれません。プラスチックを今すぐゼロにしなさい、明治時代に戻りなさい、と言われても、無理だと思います。では、いかに環境に負荷をかけないような使い方をするか、メリットのところは残しながらエコフレンドリー(エコノミーではなくエコロジー)に、というのが、人間の、日本人の知恵だと思います。これを日本からどんどん発信していけたら素晴らしいなと思います。

小出:基本的には、3Rと言われる、リユース、リデュース、リサイクル。これをやらなければいけないです。そこでどうしても削減できないものは、CO2の発生を抑制するとか、万が一流出した時にどうするとか、といったところを考えること、プラスRのリニューアブルということが必要になってくるかと思います。あと、樹脂を削減するということでは、もう一つ昔からあるのは、無機フィラーを入れるという方法です。鉱物を入れてプラスチックの量を減らそういう試みが、ゴミ袋などにはあったのですが、無機物だと燃やした時に重量の半分は灰として出てくるので、今度はその灰をどうするかという問題があります。有機フィラーを使えば、そういった面でもメリットになるのではないかなと考えています。

3Rプラス「リニューアブル」の必要性を力説するアイ-コンポロジー株式会社 取締役 小出 秀樹 氏

ーー消費者、企業等、マーケットの反応はどうでしょうか?

小出:ヨーロッパでは、環境に良い高い製品と、環境にそれほど配慮していない安い製品があれば、一般消費者も環境に良い高い製品を買ってくれるのですよ。日本の場合は、まだ「安いほうがいいよ」ですよね。個人個人の認識を変えていかないといけないかなと思っています。

三宅:環境に関する政府の方針もあると思いますが、ドイツなどで清涼飲料水やビールを飲んでも、ボトルはプラスチックのものもありますが、空きボトルを洗浄して持っていくと、お金を戻してくれます。「循環して使いましょう」というのが徹底していますね。レジ袋なども、日本では有料化にはなっても皆さん平気で使っていますが、海外、特にフランスやドイツなどのヨーロッパへ行くと、レジ袋はくれません。皆さんエコバッグをちゃんと持っているのです。エコバッグも安いです。150円ぐらい出せば、いろいろなデザインの立派なエコバッグを売っているのです。エコマークも随分いろいろなものに付いていて、そういうのを皆さん買おうとしています。何よりもEU自体の姿勢が、植物由来のものを循環して使おうと、あるいはエネルギーでも循環した風力発電やソーラーも今進んでいるのは、どちらかと言うとヨーロッパです。行政はそれをそのまま日本へ持ってくるから大失敗することも多いのですが、実情を見れば、やはりスタートはあちらの方が随分進んでいますので、大学の先生に言わせると、日本は周回遅れもいいところです。それをどうやって取り返すのかというのですが、必ず頑張れば取り返せます。それにはまず消費者からの啓蒙が必要で、そこはやはり行政に頑張っていただかなければと思いますね。教育ですよ、やはり。

グローバルに生き残るには環境意識が不可欠

小出:マーケットの反応ですが、大きく分けて、グローバルに展開している企業は環境意識が高いです。というのは、こうした包材にしても何にしても、環境に良いものを使わないと、欧米に輸出できないのです。国内はまだどんどん使い放題ですから、国内だけでやっている企業は「高いね。値段が上がるならいいや」と。全般的に見て、今のところまだ日本はコスト優先という感じがします。いくら表向きには良いことを言っていても、結局コストが上がるなら、そのコストアップマージンは誰が負担するのという感じはまだ否めないですね。欧米に進出している企業は、独自にそういった動きを捉えています。

グローバルに展開している企業の中でも、特に環境意識が高いというイメージを重視する化粧品や日用品関係などの企業からの問い合わせが多いです。

三宅:ドメスティックなところを市場にしているメーカーの反応は、鈍いと思います。こういった分野も、私たちは創立以来やっているのですが、注目されだしたのはここ1年です。去年のカナダのG7で海洋プラスチック問題を大きく打ち出した、それ以降です。環境という方に向いてもらえる日本の機関はまだ少なすぎる。SDGsも、本格的に肩組んでやりましょうと言い出したのは昨年ですよ。2015年に国連で決議されて、内閣での旗振りはありましたが、それにしても世間は鈍感でしたね。

小出:今年のG20でようやく、バイオマス系のプラスチックを2030年には200万トン市場に導入すると発表しましたが、相当な量です。今の日本では代表的なポリプロピレンが年間250万トンぐらい使われているので、それに匹敵する量にしようとすると、生半可ではないです。

三宅:生半可な努力では目標は達成できない。あと10年後ですから、30歳の人は40歳、40歳の人は50歳。今から急いでやらなければ間に合わないと思います。私たちもがんばりますが、若い人たちに期待したいと思います。

オリパラでも環境に配慮した製品を率先して使おうという動きも、ないわけではありません。

小出:柔らかいのは作りにくいのですが、例えばデンプンなどを使えば、フィルムなども一応できます。

三宅:ビニールシートなどにも、使えるかもしれません。

小出:デンプンもタピオカだけでなく(笑)、未利用の部分を使ってあげれば、途上国でまだ収入のない人たちが開梱して、芋を作って売って生活が豊かになることもあるので、できれば私たちもそういったところまでやりたいですね。

アイ-コンポロジーのSDGs貢献内容

ーーイノベーティブなアイデアの創出や、イノベーティブ人財の育成という観点で、小中学生、高校生、大学生など若い世代に伝えたいメッセージは?

三宅:若い人たちに足りないものは、経験と学習。学校だけでは難しいと思います。実際の世の中の役に立つものを学んでいくには、会社でしばらく研究をするとか、会社で事業を開発してみるとか、そういう経験に基づいたものが必要だと思います。あと絶対に必要なのは好奇心。疑問に思ったらそれを考えてみる、そういったことがないと、次に繋がることが出てこないと思います。私たちは二人とも好奇心の塊みたいな性格を持っていますので、だからアイデアが出てくるのかなという気がしています。

好奇心から「無限の広がり」

三宅:好奇心があれば、次の素材、これから必要とされる工業材料も含めて、私たちのやっている複合材料というのは、組み合わせ次第で無限とも言える広がりが、まだまだ先にあるので、これから社会の中心になっていく若い人にとっても、夢がある分野かなと思います。

小出:具体的にこういったものがあるというのも知っていただかなければいけないと思いますので、私たちも、展示会などに出展してプレゼンさせてもらうとか、環境に関する講演会などで少しでも発言の機会を与えてもらうとか、社会課題にこういう対処方法があるということを、広範囲の人たちに啓蒙しているというのが現況ですね。

三宅:調べられる環境が、インターネットを含めていろいろありますから、自分の専攻分野以外にも、好奇心を持って広げていただきたい。それから、今の若い人たちは体をあまり鍛えていないように見えます。体が資本というのは私たちも身にしみてわかりますので、ぜひ、できるだけ体力をつけていただいた方が、この先、長持ちするのではないかと思います。ですから体力、知力、ですね。

小出:そして、日本の中のことを見るだけではなく、海外の動きも見て、環境先進国と言われるヨーロッパや、逆に今そういった対策が遅れている地域のことも、どうしてそれが遅れているのかといったところも考えながら、いろいろ調べていくといいのではないかと思います。

「人と人との接点」と引き継がれる「モノづくりの伝統」

ーーアイ-コンポロジーをはじめ、テクノロジーで社会課題に挑戦するイノベーティブな企業が集まる、通称「五反田バレー」地区の魅力や、企業と地域の関わりについて、教えて下さい。

三宅:品川区には非常にお世話になっています。ベンチャー企業で人もお金もない中で場所を提供していただける。ここに来る前は西大井の創業支援施設に2年半ほどいましたが、そこでも非常にお世話になりました。その後、ここ大崎の施設SHIPに引っ越してきましたが、品川区は日本の中心である東京駅、丸の内、新宿にも近く、交通の便が良いので、お客様も来やすい。お客様との接点、人と人との接点が、何をするにも大切なので、そういう意味では、立地、そして、小さな企業や起業している人への支援、それが品川区は他の市区町村に比べ、優れていると思います。「五反田バレー」と今は言われていますが、昔からモノづくりをやってきたのが品川区ですので、その伝統を形を変えながら引き継いでいるというのが、この場所の魅力だと思います。

アイ-コンポロジー株式会社様へ
「次世代レポーター」からの取材感想

「バイオマスプラスチックを世の中に根づかせることを使命と感じ、会社を立ち上げた三宅社長らの話が、あらためて私に環境問題について考えるきっかけを与えてくれたように感じる。
 この企業ではどのようなものが作られているのか、実物を見せてもらったが、通常のプラスチック製品以上に私たちの生活になじむデザインをしていた。また、性能も向上しているので使い勝手もよいのではないか。
 日本と海外の環境問題の取り組みの違いについての話が、とても興味深いものであった。両者の違いは、一般消費者の意識の問題だという話を聞いた。海外ではエコバックの利用が当たり前であるが、日本においてはまだ多くの人がレジ袋を利用している。実際、私もレジ袋をよく利用している。自分の意識が環境問題から遠い所にあることを実感した。このような問題に対してどのように解決方法を見つけていくか、好奇心を忘れずにアイデアを生み出していくことが必要である。」(立正大学心理学部3年 馬塲 孝佳)

アイ-コンポロジー株式会社 ロゴマーク

「STI for SDGs」アワード表彰式 – 2019年11月15日(金)日本科学未来館 7階未来館ホール

アイ-コンポロジー株式会社は、第1回「STI for SDGs」アワードにおいて、バイオプラスチック複合材の活用によるSDGsの推進が評価され、優秀賞を受賞しました。「STI for SDGs」アワードは、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)未来共創推進事業の一環として、科学技術イノベーション(Science, Technology and Innovation: STI)を用いて社会課題を解決する地域における優れた取組を表彰する制度です。

表彰式は2019年11月15日(金)にサイエンスアゴラ2019内で開催され、受賞した各取り組みの代表者に賞状が授与されました。

優秀賞を授与されるアイ-コンポロジー株式会社 取締役 小出 秀樹 氏

「STI for SDGs」~地域の社会課題の解決に向けたピッチトーク~ – 2019年11月17日(日)テレコムセンタービル 1階アゴラステージ
科学技術イノベーションによる地域の社会課題の解決に向けた取組事例の紹介 – 2019年11月16日(土)、17日(日)テレコムセンタービル 5階ブース

また、サイエンスアゴラ2019内では、受賞団体の代表者による取り組み概要の紹介(ピッチトーク)、パネルディスカッションおよびブース展示も行われました。

アイ-コンポロジー株式会社からは、取締役の小出秀樹氏がピッチトークに登壇、その後のパネルディスカッションでは、自治体、企業、大学、高校と多彩な受賞者たちと有意義な議論を繰り広げました。

サイエンスアゴラ2019期間中、5階ブースでは、受賞団体すべての取組事例の展示も行われていました。

エコプロ2019 – 2019年12月5日(木)〜7日(土)東京ビッグサイト

「持続可能な社会の実現に向けて」をテーマに地球環境課題の解決に向けて数多くの取り組みを紹介するエコプロ科学技術振興機構(JST)のブースに、アイ-コンポロジーも出展しました!

エコプロ2019 科学技術振興機構(JST)ブースで説明をするアイ−コンポロジー(株)三宅氏(右)と小出氏(左)

聞き手:木村京子(エシカルコンシェルジュ)