企業インタビュー(11) 株式会社XSHELL様

株式会社XSHELL 取締役 Chief Product Officer 杉田 知至 氏

通称「五反田バレー」地区をベースに、STI(科学技術イノベーション)の力でSDGs(2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標)などの社会課題に挑戦する、素敵な企業をご紹介するシリーズ。

第十一弾は、日経新聞にも紹介された「IoTエンジニア養成キット」を提供し、テクノロジーの力で、人をより自由にする、株式会社XSHELL様です。

2020年1月21日、西五反田の五反田サンハイツ3階にある株式会社XSHELL様におじゃまして、取締役Chief Product Officerの杉田知至様にお話をうかがいました。

株式会社XSHELL 取締役 Chief Product Officer 杉田 知至 氏

ーーXSHELLのオフィスに一歩入ると、様々なパーツや工具が目に入り、ものづくりファンにはワクワクする空間です!

ものを生み出す本物の技術、学ぶ喜び

ーーさっそくですが、杉田さん、XSHELLとは、どんな会社なのでしょうか?

本質的な知識を得る喜びを感じる人々に対して、ものを生み出す本物の技術を与える事業を行っています。本来、人は誰でも学ぶことが大好きです。新しいことを身につけて、それが使えるようになるということに対して、知的な喜びを得る生き物なのです。でも、だんだん大人になるにつれて、仕事が忙しくなったり、仕事に関係ないことはあまりやらなくなったりすることが多くあります。学ぶって、けっこう時間がかかって大変なので。それに対して弊社が提供するのは、世の中にある新しいものを大人でも楽しく学べる教材とサービスです。

ーー今、世界には、SDGsに掲げられているような様々な課題があります。XSHELLが重視するグローバルな課題とは?

急激なテクノロジーの進化によって、すべての仕事のやり方が変わりつつあります。具体例を一つ挙げると、AIです。AIの登場で、旧来のシステムの作り方、進め方ががらっと変わり、また一から覚えないといけないというのが、今、世の中で起きている状況です。

ーーそういった社会課題に挑戦するXSHELLの取り組みや、課題解決につながる技術についてお聞かせください。

弊社が提供する「IoTエンジニア養成キット」と、もう一つ、2020年1月、toC向けにリリースして、2020年2月、toBにリリースする、「作って学ぶ人工知能」という、2つの商品がメインです。教材が届いて、自宅やオフィスにいながら、組み立て、開発を行い、実際にシステムをどうやって作るかを学べる、という商品です。日本全国、場所を選ばずに、どこかに来て学ぶのではなく、自分の好きな環境で、好きな時間に、IoTやAIの最新技術を勉強できる、というソリューションを提供しています。英語にしていけば世界にも展開できるものです。

AI、IoTの最先端技術を誰でも、いつでも、どこでも学べる

「IoTエンジニア養成キット」は2018年8月にスタートして、最初は企業のエンジニア向けに出したのですが、実はこれが一般の方にもすごくニーズがあるというのがわかり、デアゴスティーニと提携してtoCに出したところ、思いの外、反響があり、仕事でなくても、一般の人も最近こういう最新のものを、どういうものか学びたいという欲求がたくさんあるということがわかりました。

教材キットの説明をする株式会社XSHELL 取締役 Chief Product Officer 杉田 知至 氏

ーーどのような方が学んでいるのですか?

現状では、40〜50代の男性がボリューム層です。IoTという名前は聞くけれども中身はどんなものかよくわからないし、スマートフォンもどうやって作ったらいいかわからない。それで、子どもも大きくなってきて時間もできたし、また新しいことを学びたいという、そういう欲求の高い方たちなのかなと思います。生涯現役の世界になってきたので、その人たちが次のキャリアとして、確実に活かせます。若い世代は、どちらかというと企業の方ですね。すでに現場で働いている方が多いので、企業の研修として受けられています。

AIの方は出たばかりで、こちらは最初にデアゴスティーニと提携して一般向けに出したので、企業研修としての活用事例をこれから作ろうとしているところです。

ーー具体的に、どういったことが学べるのでしょうか?

例えば、IoTでは、いわゆるスマート・ホームを作りましょう、ということができるようになるための知識を教えています。ポイントは、物やサービスを作れる本物の技術を教えるというところです。何か一領域をやったらできるのではなく、サービスを作るために必要なことを全部やるので、電子回路、デバイス的なところもあり、プログラミングもあり、サービスを作るというところではクラウドも使い、本当にたくさんの領域を学ぶのです。まだ入り口ですが、奥は深いですね。まずはスタートラインに立つために、最低限必要なことというのが、本当にたくさんあります。

ーー受講者の地域的な分布はどうでしょうか?

東京と愛知が多いですね。東京はIT関係、愛知は製造業が多いです。今まで学ぶ機会があまりなかった過疎地域などにも広めていきたいですね。今はインターネットさえつながっていれば、どこでも仕事できますので。

出たばかりですが、AIはかなりニーズがあるだろうと思っています。日本のIT企業の75%が、AIの人財が足りないと言っている状況で、AIの学習を自分で行って、私もこれを実際に使ったのでわかるのですが、本当にAIを作れるようになるのですよ。ですから、地方であまり仕事のない人も、これでスキルを身につけて、リモートでAIの開発をします、と言ったら、その人は東京並みの単価で仕事ができるわけです。子育て中の女性などにもぜひ勧めたいですね。

大学生向けパッケージも、まだ先の構想ですが出していきたいと思っています。大学生がこれから社会に入っていく上で、絶対にAIの知識が必要になるので、そこに提供したいという思いがあります。今あるコンテンツでも、大学生が充分できます。自分で作りたいものを作るというものなので、公教育の中でもアクティブ・ラーニングをやっている学校なら可能性あるかもしれません。中学生・高校生でも起業してしまうような方もいますので、そういう方々には、いいと思います。

ただ、今はビジネスの現場で圧倒的に困っているので、まずそこからです。次のステップとして、将来の人財を育てるところへ、です。

IoTコースで30万円/6ヶ月、AIコースで32万円/4ヶ月。意外と高いと思うかもしれませんが、実は、この金額って英会話と一緒なのですよね。6ヶ月かけて英会話をやるという選択肢の中に、6ヶ月かけてIoTを学ぶとか、AIを学ぶ、というのが普通に並ぶ時代になってきたのだな、と考えています。

個人のレベルに合わせた学習環境を目指す

eラーニングに関して、今、構想としては、個人のレベルに合わせて自動的にコンテンツを出して、ちゃんとレベルアップするというところを目指して、システム開発しているところです。現在は、その部分を、弊社のエンジニアがテクニカルサポートをして、受講者のレベルに合ったサポートを行っています。

通信モジュールはwi-fiです。どんな通信環境であれ、どういうふうにシステムを作るというのは大きくは変わらないので、まずはベースのところですね。

ーーXSHELLでは、イノベーティブなアイデアの創出や、イノベーティブ人財の育成について、どのような仕組みづくりや工夫をしていますか?

弊社は、経営陣のほ全員が元エンジニアという組織で、ものを作れることが当たり前の人たちなのです。ですから、「AIなんて、やったらできるよね」「IoTだって、やったらできるじゃん」とみんな思っていたのですが、どうやら世の中はそうではない、とわかってきました。そこで、私たちが考える、ものを作る時、どうやって本質的な技術を見抜いたらいいのか、というようなことをエッセンスにして、キット化して出していったら、これが社会のニーズに合ったのです。私たちは当たり前だと思ってしまっているのですが、あらためて言語化すると、とにかく作ることですね。実践あるのみです。作って初めて理解するので。弊社のエンジニアですと、営業に行く前に、先にプロトタイプを作ってしまうのです。それで、「こんなのがあるから、欲しいでしょ」と。

まず作る、作りながら学ぶ

ーー小中学生、高校生、大学生など若い世代に伝えたいメッセージをおねがいします。

ことテクノロジーに関して、一つ言いたいのは、まず作ることを目的にしてほしいということです。先に作りたいものを決めて、さっさと作り始めることです。必要なことは、作りながら学べばいいと思います。プログラミングを学ぶというインプットもいいのですが、実はそれだけだと、ものは作れません。ものを作るという視点に立って必要なことを学ぶ、というのをやっていくことで、初めて、社会で通用する本物の技術が身につくので、先に作りたいものを、どんな突拍子もないものでもいいから、決めて、作り始めるというのを、やってほしいですね。

とにかく作ってください。私自身、小さい時から何か作って、問題を起こして、直して、というのをずっと繰り返してきました。だからこそ、今、最先端のITなど出てきても普通に使えるようになったので。最初は、中学生になる時に、ホームページを作りたいという欲求でPCを買ってもらって、プログラミングを覚えました。ホームページの作り方を一切知らずにスタートだったのですが、でも作りたい、どう作るんだ、最初はホームページ・ビルダーで作って、他の人のを見たら、なんか色が変わったりする、これどうやっているんだ、となってCSSを覚えて、掲示板ってどういう仕組みなんだ、というのでPerlを覚えて。とにかく、作りたいが先にあって、必要な技術をどんどん覚えてという形でした。今の子どもたちですと、アプリを作りたいとか、ゲームを作りたいとか、それで、どんなゲームを作りたいか、ではそれを作るのに必要な技術は、というとすぐ学べてしまう。例えばPythonが儲かるからPythonを覚えようというアプローチは、筋が悪いと思います。Pythonが終わったらどうなるのか。子どもたちが大人になるまでに、Pythonは廃れるかもしれません。だからこそ、「本質的な知識って何?」というところをちゃんとしないと。最初に作りたいものがあれば、これ作りたいからPerl使います、これ作りたいからPython使います、これ作りたいからGo使います、という選択ができるのです。かくいう私も、Perlやって、Perl JavaScriptやって、PHP JavaScriptやって、今、Pythonやって、という形で、どんどん言語は変遷しているので。でも結局、原理を知っていたらほぼ一緒なのですよね。得意なことが違うというだけで。ものづくりは、作りたいものがベースでテクノロジーを身につけていったら、その人はおそらく一生楽しいと思うのですよ。何歳になっても、作りたいものが作れる。

株式会社XSHELL 取締役 Chief Product Officer 杉田 知至 氏

ものづくりスタートアップに最適な「五反田バレー」

ーーXSHELLをはじめ、テクノロジーで社会課題に挑戦するイノベーティブな企業が集まる、通称「五反田バレー」地区の魅力や、企業と地域の関わりについて、教えて下さい。

なぜ五反田にいるのか、いくつか理由がありますが、弊社のような若いスタートアップが、まだ入りやすい場所なのです。地価が安かったのもありますが、もともとソニーがいて、ものづくり系の企業がたくさんいたので、ものづくりスタートアップが入っていくにはとても良い場所だったなと思っています。実際、五反田バレーが立ち上がって、それまで個々で活動していた人たちが、お互い集まって交流できるようになったのは、画期的だと思います。DEJIMAというスペースが、五反田バレーの本拠地です。そこから他の企業とコラボレーションして、新しいビジネスが始まったりしているので、ああいう場所があるのは非常に大きいですね。

一方、私自身、プライベートな活動でCoderDojo五反田という、子どもたちにプログラミングをできる場を提供するという活動をしています。この考えに、五反田にあるスタートアップのfeee株式会社にも共感していただき、会場を提供いただいて、品川区近辺のお子さんが集まる場所になっています。ただ、「地域貢献」ということはあまり意識せずに、どんな地域にも、学校でやっていないことを、「僕はプログラミングに興味あるんです」「私はものづくりに興味あるんです」という人たちがいるので、そういった人たちが、いざやろうと思った時に、相談できる仲間がいないとか、先輩がいないという状況に対して、ここに来れば相談できる場所があるよ、という場を提供しているだけです。

会社でも、私のプライベートな活動でも、やりたいと思っている人にチャンスを与えるというのが、基本の考え方でして、IT業界におけるジェンダー・バランスに関してもそうです。CoderDojoでは、実は半数が女の子です。プログラミングが好きな女の子が、「ここに来たら、私ずっとプログラミングしてていいんだ」という場所になれば、そういった女の子が大きくなってIT業界に女性が増えてくるだろうなと考えてやっています。昔のプログラマーは、夜遅くまで仕事するとか、激務であるとか、ブラックであるとかで、これも女性が家事をするという前提の社会だから、女性が働きにくい場所だったのですが、今、働き方改革でどんどん労働環境がよくなっていますので、そういうのが整っいてくると、初めて女性も活躍できるのかなと思います。女性が家事をするのが前提の社会構造が好ましくないと思いますね。

聞き手:木村京子(エシカルコンシェルジュ)