企業インタビュー(12) freee株式会社様

通称「五反田バレー」地区をベースに、STI(科学技術イノベーション)の力でSDGs(2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標)などの社会課題に挑戦する、素敵な企業をご紹介するシリーズ。

第十二弾は、「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに掲げ、「アイデアやパッションやスキルがあればだれでも、ビジネスを強くスマートに育てられるプラットフォーム」を提供する、freee株式会社様です。

2020年1月30日、西五反田の五反田ファーストビル9階にあるfreee株式会社様におじゃまして、経営管理本部カルチャー推進部部長の辻本祐佳様にお話をうかがいました。今回は「次世代レポーター」として立正大学品川キャンパスの大学院生も取材に参加しました!

freee株式会社 経営管理本部カルチャー推進部部長 辻本 祐佳 氏

ーー2019年12月17日に東証マザーズに新規上場したばかりのfreeeのオフィスは、活気に満ちていました!

スモールビジネスを強く、スマートに

ーーさっそくですが、辻本さん、freeeとは、どんな会社なのでしょうか?

「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションとして掲げ、スモールビジネスの会計業務、人事労務業務などバックオフィス業務の課題を、テクノロジーで解決するサービスを提供しています。「アイデアやパッションやスキルがあればだれでも、ビジネスを強くスマートに育てられるプラットフォーム」というビジョンを目指しています。会計や人事労務は、ビジネスをやっていく上では必要不可欠な業務ですが、専門知識も必要で、リソースを割かないとできない、スモールビジネスにとっては、かなり荷が重いというのが従来でした。そこをサービスで手助けすることによって、例えば、「アクセサリー屋さんをやりたい!」と思った時に、やりたいと思うパッション、作るというスキル、こうしたらもっとみんなに楽しんでもらえるのではないかというアイデアがあるだけで、やりたいことを形にしていけるようなサービスを提供する会社です。

ーー今、世界には、SDGsに掲げられているような様々な課題があります。freeeが重視するグローバルな課題とは?

feeeはもともと、国内企業の90%以上を占めるスモールビジネスと言われる中小企業が、もっとテクノロジーを活用して生産性を上げていくことができれば、日本全体の国力、経済力がもっと上がっていくはずだし、そこに対して、今まだ日本全体でテクノロジーを充分活用しきれていないという課題意識から、2012年に設立されました。経済力向上と格差改善のためのテクノロジー活用が、freeeとしては関心の強い分野だと思います。

テクノロジー活用でスモールビジネスの生産性アップ

ーーそういった社会課題に挑戦するfreeeの取り組みや、課題解決につながる技術についてお聞かせください。

大きいプロダクトは会計業務の「会計freee」、人事労務関連業務の「人事労務freee」などがありますが、「会計freee」を例に説明します。従来の会計ソフトだと、バックオフィス業務というのは絶対にやらないといけないという前提があり、負担を減らすには、その入力を楽にしよう、というような発想だったのです。「会計freee」には、「実際、それは本当にやらなくてはいけないことなのか。本業のビジネスを営むことと別にやらなくてはいけないことなのか。あるいは、本業のビジネスをやっていく中で自然にそこもこなしていけるようになれば、そのために使っていた時間も、もっと本業のために使えるのではないか」という発想があります。限られた時間の中で、配分を変えられる、ということです。パン屋さんはパンを作りたかったのであって、会計をやりたかったのではないですよね。もしパン屋さんで日々、販売を入力するだけで、それがそのまま記帳や会計情報になっていくとなれば、別個にレジ締めなどをやらなくていいわけです。そうなったら、その分、早く寝て翌日の仕事に備えるなり、新しい製品を考えるなり、そういったことに時間をもっと使ってもらえる、それが基本的なコンセプトです。

freee株式会社の「マジ価値2原則」と「マジ価値指針」

弊社には創業の時からずっと強く浸透している「マジ価値」という概念があります。「マジ価値」とは、「ユーザーにとって本質的な価値があると自信を持って言えること」です。パン屋さんにとっての本質的な価値は、記帳業務が楽になることではなく、そのために使っていた時間を、もっと自分が本当にやりたかったことに使えることであるはずで、それをどうやって実現すればいいのだろうか、という考え方です。社員は皆、「マジ価値」という言葉が大好きで、社内でもいろいろなミーティングで使っています。社内に「マジ価値KPI」というのがあって、例えば、プロダクトを使ってくださるお客様が、手作業をどれぐらいしているか、というのをKPI化しています。手作業が減ると、それだけ間違いも減るし、その人たちが使える時間も増えるので、そういうことをKPIで追って、マジ価値を「届けきる」ために役立てています。

「マジ価値」を届けきるために

「届ける」ではなくて「届けきる」。マジ価値というのは、ともすればただの独善的な考え方になってしまいます。これがマジ価値だと考えていても、それが誰にも届いていなかったら、ただの独りよがりです。だから、「マジ価値というのは、届いて初めてマジ価値なんだよ」というのを社内でも言っています。一人ひとりがマジ価値に対して向き合い、組織として、作っているマジ価値、売っているマジ価値、売った後にユーザーが使いこなせるようになるマジ価値、というのをちゃんとつないでいかないと、どこかで切れてしまって、作ったけど知られていない、買ってもらったけど使われていない、となってしまったら意味がありません。だから会社の中でリリース情報をちゃんと共有したり、使ってもらえるための説明をお互いに協力してやっていこう、という想いを込めて、「届けきる」なのです。

「マジ価値」を熱く語る、辻本氏

ーーfreeeでは、イノベーティブなアイデアの創出や、イノベーティブ人財の育成について、どのような仕組みづくりや工夫をしていますか?辻本さんの率いる「カルチャー推進部」とは、どういう部署なのでしょうか?

カルチャー推進部は、立ち上がって1年半ぐらいになる部署ですが、一般的な会社で言うと人事と総務の機能を持っているチームだと思います。まさに人財育成のための制度やトレーニングや、新しい人が早く成果を出せるためのオンボーディングなどもします。そういう人事的機能もあれば、オフィスのマネジメントや、社内でのコミュニケーションの企画、福利厚生なども考えている部署です。なぜそれでカルチャー推進部かというと、まさに「マジ価値」を中心に置く考え方をする人たちが集まることによって、freeeという会社のカルチャーができていくのですが、そのカルチャーの構築に大きく関わる仕事を集約して、あえて人事総務部という名前ではなく、カルチャー推進部という名前にしています。

コミュニケーションに投資

オフィスづくりでも、コミュニケーションを意識しています。プロダクトのところでお伝えしたように、弊社は生産性向上や効率化を目指しているのですが、効率化した結果、というか、プロダクトで効率化するからこそ、その分の時間というのを、より実りあるところに投資してほしいという発想があります。それは社員との関係についても同じで、効率を求める会社だと思われがちですが、人とのコミュニケーションにはかなり投資をしています。オフィスのつくりとしても、例えば、全部の階にカウンターがあって、そこに飲み物を取りに行ったり、9階には軽食があって、そこに取りに行く。そこで誰かと会って、「あ、そういえばこの間どうでした?」という会話が生まれたり、コミュニケーションができるような仕掛けになっています。

freeeは今、500人ぐらいの規模ですが、週1回の全社会議をしています。情報を伝えるという観点だけなら、ドキュメントをシェアする方が効率的ですが、弊社には「あえ共」(あえて共有)という、大事な考え方があります。必要なことを伝えるのは当然で、その上でいろいろなことを伝えていくことによって、よりお互いにオープンにフィードバックし合うことで、ビジネスのスピードも上がり、他部署との連携も進む、という考え方なのです。ですから週に1回みんなで集まって、例えば「プロダクトを最近こういう方向で進化させようとしています」とか、「どこどこ部署の誰々さんってこういうことをしてすごいんです」とか、そういうことを共有し合っています。規模が大きくなったから遠くなるのではなく、お互いが何をやっているかわかるように、コミュニケーションにはかなり会社として投資していると思います。お客様から、freeeのそういう雰囲気が好きだ、と言っていただくこともあります。

freee株式会社 経営管理本部カルチャー推進部部長 辻本 祐佳 氏

世界を変える若い人たちへ

ーー小中学生、高校生、大学生など若い世代に伝えたいメッセージをおねがいします。

大人が若い人たちに「これはやったほうがいい」と言うことは、その人たちの制約になってしまいそうな気がします。若い人たちの方が世界をどんどん変えていって、十年前と今では全然違うように、ここからの十年間はもっと変わると思っています。だから今の中高生、大学生には、今あるものが当然だとか、それを前提に考えないでほしい、ということだけを伝えたいですね。「これをやっておいた方がいいよ」なんて大人が言うより、そんなことをもっと軽々と越えていった方がいいと思います。

自分が高校生ぐらいの時に先生に言われていたのですが、自分が勉強していることというのは、過去のいろいろな偉い人たちの叡智の頂点であると。だからその最新情報を吸収できるというのは、私の世代より今の世代の方が、たぶんより効率的だし、より最先端だし、間違いも正されているはずで、それはそれですごく価値あるものとして享受したらいいのではないかとも思います。

弊社には新卒の社員もいますが、若い人から教えられることばかりですね。単純な知識より、ものの考え方の方がずっと大事だと思いますが、その点では、新しい人たちから刺激を受けることばかりだと思っています。

そういう若い人のアイデアがプロダクトにも反映されています。弊社は、マジ価値を「届けきる」というのが本当に会社の中心にあるので、だからフラットでオープンなのが当然なのです。社長が言っているからとか、マネージャーが言っているから、それを鵜呑みにしてやりました、というのは全然推奨されず、社長であっても、新卒であっても、マジ価値というものに対して一人と一人として、本当にガチで向き合ってください、というメッセージも「届けきる」に込められています。だから先輩と後輩でも、それぞれの視点が違うというだけで、先輩ならではの視点と、後輩ならではの視点、どちらが本当にマジ価値かというのを同じ土俵で戦わせています。

freee株式会社 ロゴマーク

社名・ロゴに込められた思い

freee の社名には、まず、スモールビジネスをより自由にするという意味があります。e が3つあるのは、最初にfreeeを作った人が3人だからです。そしてツバメなのですが、滑空ではなくて羽ばたきで飛ぶ鳥では、ヒメアマツバメが最速らしいのです。「最速でスモールビジネスを自由にしていく」ということを意味して、この社名になりました。社員は皆、このツバメが大好きで、ぬいぐるみを作ったりしている人もいます。

ーーfreeeをはじめ、テクノロジーで社会課題に挑戦するイノベーティブな企業が集まる、通称「五反田バレー」地区の魅力や、企業と地域の関わりについて、教えて下さい。

私自身も実は五反田にもう4年ぐらい住んでいるのですが、弊社には、この地域に住んでいる人がたくさんいます。近隣に住んだ人には一定の手当を出しているのですが、職住近接によって、例えば、電車通勤によるストレスが軽減する等のメリットはかなり大きいと思います。最初は麻布で創業したのですが、社員数が増えるにつれて、家族で近くに住んでもらえるということを考えたら、近くに住めるような地域で、かつ、コミュニケーションのために、できれば会社周辺でみんなでご飯を食べられるような地域を探しました。五反田にはいろいろな飲食店があって、昼にランチに出かけたり、夜ちょっと飲んだり、選択の幅が広い街だと思います。みんな大好きですね、五反田。

ーー地域貢献ということでは、子どものためのプログラミング道場「CoderDojo 五反田@freee」に、会場提供をしていますね?

CoderDojo 五反田@freeeには、近隣に限らず社員の子どもたちも来ています。子どもたちがfreeeのエンジニアにプログラミングを教えてもらったりして、CoderDojoというイベントを通して、社員どうしも知り合いになれるし、会社でふだんの業務とは違う関係性を深められるというのも、いいなと思います。

ーーお話をうかがって、freeeは「スモールビジネスを、世界の主役に。」することを目指す、ムーブメント(社会運動)だ、という思いを抱きました。

freeeが目指す世界の方向性に共感する仲間が集まってきて、自律的にアクションを起こす、それが原動力となって、世界は変わるのではないか、と。

ありがたいことに、freeeがやろうとしていることを理解していただき、従来にはなかった発想に共鳴して、使ってくださるユーザーもいます。会計士さん・税理士さんのコミュニティもあって、それをまさに「マジ価値コミュニティ」と呼んでいるのですが、皆さん顧問の先を持っていらっしゃるので、その人たちが、より自分たちが本当にやりたかったことに注力できるために、freeeの発想がとても大事だと考えて広めてくださっています。ですから、まだまだ届ける先はたくさんあるのですが、ありがたいことにそうやって共感してくださっている方々もたくさんいるので、少しずつがんばっています。

ーーSDGsで起きていることと、シンクロしている気がします。大企業は昨今、ESG投資の観点から、SDGsに取り組まざるを得なくなっています。一方、日本企業の90%以上を占めるスモールビジネスが本気で取り組まなければ、実現は不可能だし、ベンチャーだからこそ起こせるイノベーションがあります。

そういう全国の中小企業やスタートアップが産官学民の国際連携できて、金融支援も受けられる、SDGs Innovation HUBを構築する動きが出てきています。

今回のシリーズでインタビューさせていただいた、五反田バレーの中小企業・IT企業の方々と、ぜひこれから連携していけたらと思います。

聞き手:木村京子(エシカルコンシェルジュ)

freee株式会社様へ
「次世代レポーター」からの取材感想

「マジ価値」という言葉を大切にしている姿が印象的でした。“何が本質的で価値があるのか”とことん追求し、今(従来)の考え方に囚われず、学生から教わることが多いといった謙虚な姿勢を持ち合わせているからこそ、ここまで会社として成長を遂げているのだと思いました。この「マジ価値」という考えが日本に広まった場合、大きなムーブメントが起きるのではないでしょうか。それはSDGsにおいても言えることで、何が本質的で価値があるのかを追求していけば、必然的にSDGsの目標に辿り着くと思います。freee株式会社のような会社が増えていけば日本も変わるのでは?と思わないわけにはいきませんでした。(立正大学大学院臨床心理学専攻修士課程1年 田崎 正和)

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