通称「五反田バレー」地区をベースに、STI(科学技術イノベーション)の力でSDGs(2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標)などの社会課題に挑戦する、素敵な企業をご紹介するシリーズ。
第七弾は、インターネットを活用した個別指導や特別支援を世間に先駆け1999年から提供、「学ぶ機会はみな平等」を実現する、株式会社アットマーク・ラーニング様です。
2019年11月2日、株式会社アットマーク・ラーニングが運営する通信制高校の一つで品川区北品川にある明蓬館高等学校のSNEC総合センターにおじゃまして、代表取締役社長の日野公三様にお話をうかがいました。(※SNEC=すねっく(スペシャルニーズ・エデュケーションセンター))
ーー土曜午後の取材場所として使わせていただいたのは、平日は明蓬館高等学校の生徒たちで賑わう学習施設。各席にPCを備えた個別学習スペースと広々とした談話スペースを併せ持つ、素敵な学習環境です!
学ぶ機会は、みな平等
ーーさっそくですが、日野さん、アットマーク・ラーニングとは、どんな会社なのでしょうか?
学校教育活動を株式会社という形態で実現しようとして作った会社です。現在に至るまで、通信制を基軸にした高等学校経営を行っています。法律的には特別区域法(特区法)に基づいた学校経営で、学校教育法一条に基づく、一条校という扱いで、正式な高等学校として認可いただいています。
目指す社会像は、学校全体のクレド(信条)としてまとめた中でビジョン(目指す社会像)として記載してある通り、「学ぶ機会は皆、平等である」。障害、特性、生育条件などによって差別が生じたり、学ぶ条件が変わったりということは、望ましい社会ではありません。どんな子どもたちであれ、どんな家庭状況であれ、同じような教育が受けられるような社会像を目指してやって行こう、と決めました。
ミッションとしては、目の前にいる利用者、その顔はどういう顔かというと、実際には高校年齢の生徒になりますが、その陰に保護者、あるいは親族もいて、私たちの考え方としては、ファミリーサポート、家族・親族も含めたサポートをしていこう、ということです。それと、命あってのことなので、命の力を引き出し、伸ばせる場をつくる、ということも謳っています。あとは、友を作り共に学べる環境づくりをしていこう、ということをミッションとして掲げています。私たちの立ち位置は、生徒と保護者を支える「支援者」であり「伴走者」です。支援と伴走という言葉を掲げたのは、教育や指導という、やや上から目線な感じの言葉をなるべく使わずに、生徒と保護者とともに同じ目線で歩んでいこうと、そういう願いを込めているのです。
ーー今、世界には、SDGsに掲げられているような様々な課題があります。アットマーク・ラーニングが重視するグローバルな課題とは?
日々、目の前で取り組んでいる社会的課題というのは、通信制に何か救いを求めて来る生徒たちそのものです。その背景としては、学びづらさだとか、学業機会を失ってしまっただとか。昨今は発達障害という障害特性や傾向を持った生徒が本当に増えてきまして、そういう人たちは既存の全日制型の学校にはなかなか自分の居場所が見つからないという課題を抱えていることが多いです。発達障害あっての不登校、就学の場を失った人たちに教育の機会を提供しようということが、私たちが日々、実際に取り組んでいる大きな社会的課題です。
ーーそういった社会課題に挑戦するアットマーク・ラーニングの取り組みや、課題解決につながる技術についてお聞かせください。
2つの学校を経営していて、1つはアットマーク国際高等学校、もう1つは明蓬館高等学校です。いずれも広域通信制高等学校で、アットマーク国際高校は、石川県に本校舎を持つ広域通信制高校、明蓬館高校は福岡県に本校舎を持つ広域通信制高校です。この2つの学校とも、法人本部のアットマーク・ラーニング社は、この品川にありますので、品川を中心としてマネジメントをしています。アットマーク国際高校は開校して15年、明蓬館高校は開校して10年経ちます。昨今は先ほど申し上げたような発達に課題を持つ生徒のための教育活動として、10年前に作った明蓬館高校にかなり時間と手間暇を注いでいます。より現在の社会的課題を感じさせるテーマですから、この学校にかなり注力しています。
クラウド型の学習環境で、いつでも、どこでも、どんなOS/デバイスでも!
具体的なサポートの方法としては、eラーニング、Webベースラーニングで、インターネットを中心とした授業の配信、あるいは、いつでもどこでもアクセスできるような環境を設定しています。スマホやPC、タブレットなど、すべてのデバイスに対応できて、いかなるOSにも対応できるような、クラウド型の環境を作り、生徒はどこにいても、どんなデバイスからもアクセスできるという状況を作っています。何か特別なソフトウェアをダウンロードしなければいけないとか、そういうことを気にせずアクセスできる状態になっています。
また、生徒一人ひとりについて、発達の傾向と課題を、教職員である私たちが科学的に理解するよう努めるため、アセスメントである心理検査、発達検査を、かなり工夫をこらし、メニューを多くして実施しています。その上で、各生徒に適した学習計画、学びづらさを克服するための教材の選択と提供、といったことまで含めてサポートしています。そして、学業面の指導、支援とともに、生活スキルや心理面のサポートなども、かなり力を入れてやっています。結果として、中学から高校にかけて他校でつまずいたり、就学の機会を失ったりした生徒たちが、見事に復帰して、将来の進路などを切り開いていくというケースが多数出ています。そういった実績があります。
ーーすばらしいですね!
発達の特性、課題というのは、何か医療の検査器具でわかるわけではなく、本人に問診という形で、心理検査、発達検査が中心となっていくものです。それがいわばエビデンス。それを通してしかなかなかわかり得ないというのが発達障害です。近年、その心理検査、発達検査の精度がどんどん高まっていますので、優れた検査の技量を持つ心理士を絶えず常駐で配置して、いつでも検査を受けられるような状況を作っています。
ーー具体的には、どのような進路があるのでしょうか?
進路は、専門学校、大学、海外留学などがある一方で、近年まだ充分に知られていない発達障害の課題を持つ生徒については、社会参加や自立の事例がまだまだ少ないですから、そういったことに理解と関心を持ち、具体的なスキルや資源を提供してくださる方々との「連携」という形で、社会的な参加、自立ができるようになっています。例えば、「就労移行支援施設」という、民間企業施設なのですが、数年間のトレーニングなどを国の予算を使って提供してくださる機関などとも連携を図っています。そこを通して就活の案内や動向、そのためのトレーニングなども行っています。私たちは、卒業して放り出すことはしません。そういった団体に在学中からつながっていることで、そのまま卒業後も見守り続けるという環境を作っています。
福祉、医療、地域、企業・・・社会連携で卒業後も見守り続ける
連携といえば、福祉関係の機関、団体、そして医療機関ともつながっています。かかりつけの医師などはずっと生徒を見守ってくれますので。福祉、医療、そして私たち学校、および、今後は地域社会や、就労・就職の環境という面では一般の民間企業が中心になると思います。そういったところとの連携、これは社会的連携とか、ソーシャルインテグレーションとも言いますが、これをかなり意識して実行しています。
ーーアットマーク・ラーニングの経営者として、イノベーティブなアイデアの創出や、イノベーティブ人財の育成について、どのような仕組みづくりや工夫をしていますか?
今、私たちが目の前で対応する生徒というのは、教育のニーズとともに、福祉的ニーズと私たちは呼んでいますが、それぞれが抱えている課題に対して個別に向き合ってほしい、支えてほしいというニーズを持っています。ですから、そもそも採用段階で、そういった福祉的なニーズに対する関心を持ち、そのためにどういうスキル、キャリアを身につけたいかということを、かなり強く意識した人たちを求めています。入社した後もそういった様々な自己啓発の機会なども設けていますし、日々そういった様々なセクターとの交流、連携を通して、社員みんなが、教育だけではなく、例えば福祉の制度にも明るくなっていくとか、福祉的な団体等に精通していくとか、そんなことも心がけています。一言で言うと福祉に対しても腕を磨いて知識を深めて自己啓発を絶えず行えるように、といったことを意識して人材育成をしています。
ーーアットマーク・ラーニングをはじめ、テクノロジーで社会課題に挑戦するイノベーティブな企業が集まる、通称「五反田バレー」地区の魅力や、企業と地域の関わりについて、教えて下さい。
品川区内に在住の生徒とのご縁はずっと一貫してありますので、品川区民のための学校ということも目指しながら、今までやってきました。
品川の特徴は、都会でありながら生活色も強く、地域に根ざした文化があり、代々そこに住んでいる方もいらっしゃって、実際に品川区在住の生徒を見ていてもそういう印象を持ちます。いわゆる居住空間と働く空間が近接している、という印象もあって、その中で五反田バレーが出てきたというのは、個人的にもとても注目していますし、私たちの会社としても、非常に期待しています。
その中で何ができるかですが、教育というのは、地域に根ざしていかないといけないので、地域での福祉や就業ということも意識しながら、かなり地域密着型の学校教育活動が、これからますますできるのかなと思っています。
五反田大運動会にも、教職員は出ますし、これを手始めにして、もっと地域で私たちは何ができるのかということを見ていくのに絶好の機会かと思います。周囲でも非常に関心は高いですね。五反田駅前のお祭りにも参加しました。企業どうしが、運動会やお祭りといった庶民的な行事をきっかけとして、つながっていったり、連携し合うといいですよね。
五反田バレーという地の利を教育活動に活かす
ーー品川区は教育でも先進的な挑戦をしています。
そうですね。品川区は、小中一貫校を全国に先駆けてやった教育改革区でもあるので、そういった地の利も生かして全国区に打ち出していく格好のチャンスかと思いますね。市民科(道徳、特別活動、総合的な学習の時間を統合・再構築した品川区の独自 教科)の中に道徳が入っているのは、とても良いと思います。道徳だけ切り離すのはあまり良くないかと。道徳というのはもうひとりの自分を置くという考え方です。自分の行動が正しいかどうか、もうひとりの自分が絶えず検証するという、最近流行りの言葉で言うとメタ認知。そういうことを宿していくのが、いわゆる道徳的な授業なのかなと思っています。そこに社会とか、市民とかの概念も入ってくると、より一層、良いのかなと思います。
ーー品川コミュニティ・スクールの取り組みもあります。
コミュニティスクール構想はもう十数年前からできあがっていましたが、まだ実践がなかなか全国にはないという状況でしたね。もともとはアメリカでチャータースクールというのが流行った時期に、日本は文科省がコミュニティスクールだと言い出しました。チャータースクールは公設民営ですが、日本版にすると「地域と密着した学校」ということで、コミュニティスクールという考え方になったのかなと思いますが、とても良いですね。私たちも福岡県や石川県の小さな市町村と一緒に学校を作ってきて、本当に地域に根ざした活動をしてきました。それまで高校のなかった地域に私たちの学校ができて、地元の方にも喜んでいただき、過疎化・高齢化が進む中で希望の星と言っていただけて、とてもありがたいですね。
通信制をやりながら、確信に近づいて来たのが、通信制の本部校舎は過疎化・高齢化の地方にあるべきだという思いです。そこでスクーリングが義務登校だと、そこに行かざるを得ないので、最初は嫌々ながら行ったとしても、行ってみたらとてもあたたかく迎え入れてくれて、第二のふるさとができたという生徒も出てきています。地方の人たちも全国から生徒がやってくるようになることで自己肯定感が上がってくるのです。最近、やっと文科省が通信制中学の特例校を認め、来年度から中学の通信制が全国に数十校できるのも画期的なことです。ただ、通信手段はもうIT、ICTを使わないことには、教育は成り立たないのではないかと思います。だから全日制も今は、通信制に注目しています。経済産業省も「未来の教室」ということで、かなり今、全国でテコ入れをしています。
少数のニーズから技術革新
ITなくしては発達障害の子どもたちの学びの環境はできないなというのは、やればやるほど思うのです。発達障害の種類、障害名によって違いはありますが、発達障害の一般的傾向として、対人スキルがなかなか築けない、持てない生徒たちが多いので、一律的な集団教育になかなか馴染みません。だから一対一だとか、一人一台という環境の中で、好きな時にアクセスできるというのがいちばん理にかなっているし、本人たちもとても喜んで自発的に取り組めるのが良いです。
そういった少数のニーズから技術革新につながることもあります。発達の課題があるから、例えば本が読めないとか、書こうとすると字が思いつかないけれども、今はググれば出てくるわけだし、キーボードを叩くのは全然支障がないという子どもたちは、そういうスキルを磨いていけばいいと思うのです。考えてみれば、何か不自由だとか不都合だとか、支障を持った人たちが思いついたものが今、ITの世界では実現しているということが、わりと多いのではないかなと思います。だから、そういう視点は絶えず持っておきたいですよね。
CoderDojo品川御殿山に会場提供
今回の取材が行われた明蓬館高等学校SNECを会場として提供いただき、毎月1回(不定期)午後4〜6時、「CoderDojo品川御殿山」が開催されています。CoderDojoとは、7〜17歳の子どもを対象にしたプログラミング道場で、2011年にアイルランドで始まり、世界では110カ国・2,000の道場、日本には196以上の道場があります。(詳しくはコチラ⇒CoderDojo Japan)
品川区内外の子どもたちが集まって、楽しみながらプログラミングの腕前を磨いています。こういった活動への会場提供というのも、企業の地域貢献です。
聞き手:木村京子(エシカルコンシェルジュ)