通称「五反田バレー」地区をベースに、STI(科学技術イノベーション)の力でSDGs(2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標)などの社会課題に挑戦する、素敵な企業をご紹介するシリーズ。
第八弾は、ひと・モノ・資源をつなぐ生産スケジューラで、「計画通りに、無駄なく、効率よく」という現場のニーズに応える、アスプローバ株式会社様です。
2019年11月7日、西五反田のKDX五反田ビル3階にあるアスプローバ株式会社様におじゃまして、取締役社長の田中智宏様にお話をうかがいました。今回は「次世代レポーター」として立正大学品川キャンパスの大学院生、そして撮影スタッフとして関東学院大学人間共生学部の学生も取材に参加しました!
世界の工場に、計画をすばやく立てる生産スケジューラを
ーーさっそくですが、田中さん、アスプローバとは、どんな会社なのでしょうか?
弊社は1994年創業、以来25年間、世界の工場向けの汎用生産スケジューラというソフトウェアの研究・開発・販売に特化してきました。一般の方には、生産スケジューラは馴染みがないと思います。例えば、あるメーカーが工場で原料から削ったり、組み立てたり、塗装したりという工程を経てものを作るとします。それには削る機械、組み立てる機械、塗装する機械や、それらを準備する人などが要るのですが、そのために、今日何時何分何秒からどれだけものを作りますよ、という計画を、秒単位で全部きれいに立てます。そうすると、その人は今日何時何分何秒から何をすればいい、次に何をすればいい、そしてその今日3時に来るものは、前の工程が1時に終わっているからとか、そういうのを全部見られるようなガントチャートというのがあります。要は、生産スケジューラとは、計画をすばやく立てて見える化するソフトウェアです。工場の未来がわかるので、来月の頭までにこの部品を何個用意しておかなければいけないのだなというのがわかって発注をかけることができます。
注文は突然キャンセルになったり、人は突然休んだり、機械は突然トラブルで故障したりするのですが、それを見込んだ計画を立てたり、素早く計画を立て直したりすることもできます。あるいは、例えば半導体の工場などでは、何億円もする機械を入れるべきか入れざるべきかシミュレーションしてみて決めたりもします。
生産スケジューリングは非常に難しい問題で、最近、話題の「組合せ最適化」の現実問題です。これをコンピュータで解くことを面白いと思える人たちが世界中から集まってきて、プログラムを書いて開発をしています。工場の人たちは最適でなくとも少しでも現実的な生産計画を手早く作りたいが、それが結構難しいという切実な悩みを持っています。難しくてどうしていいかわからない、簡単に解決することができない問題に対して、私たちは少しでもお客様の困っていること、悩んでいることを解決し、貢献できるように、皆が協力して、誰も思いついたことがないようなアイデアを出し合い、世界に驚きをもたらせるような、そういう仕事をしていきたいと思っています。
しかし、生産スケジューリング問題は一朝一夕で解決できる問題ではなく、25年やってきてまだ全然解決していません。それでも一定のお客様から、これで工場がうまく回るようになりましたとか、改善しましたとか、喜びの声をいただくようになったのですが、今度はこのソフトウェアを理解したり、使いこなしたり、運用したり、そういうところがどんどん難しくなっているという問題が如実に出てきました。昔よりも工場の中が複雑になったり、工場の規模が大きくなったりして、問題自体も難しくなっていくので、まだまだ取り組まないといけない課題がたくさんあります。では今後どうしていったらいいのかというと、問題が難しいが故にソフトウェア自体も難しいという雰囲気があるので、それを難しいままにしておくのではなく、ユーザーに少しでもストレスなく、業務に専念していただく必要があります。お客様がほしいのは生産スケジューラそのものではなく、最適な計画です。最適でなくても現実的でも良いかもしれない。それを元に先手を打てるようになり、「工場が主体的に生産に専念できること」が重要です。それが本来のあるべき姿なのだと思います。そのためには、より最適に近い計画を素早く出力できるソフトウェアをこの先、開発していきたいのです。そして、ソフトウェア自体をどれだけ高性能にするかだけを意識するのではなく、すべては人の幸せのために、そのような仕事をするのだという意識を持ち続けたいと思っています。
ものづくりが生活や人生を左右する
ーー今、世界には、SDGsに掲げられているような様々な課題があります。アスプローバが重視するグローバルな課題とは?
人類が地球上に現れてから、700万年が経っていると言われていますが、その間に、いろいろな革命が次々と起きました。途中、火を扱う方法を覚えたり、狩猟から農耕へ移っていったりというのがあったのですが、産業革命、情報革命と、加速度的に世の中が変化して、環境問題などは、人類の700万年の歴史からすると、最近の話だと思います。そんな時代に私たちがいるのですが、人間がいろいろな革命を経て身につけてきた知識やノウハウというのは、不可逆的に進化していくものだと思うのです。今から急に農耕の時代に戻ることは考えづらい。ですから、やはり産業革命や情報革命が起きて以降、ものづくりが人間の生活や人生に大きく影響している、そういう世の中に変わってきています。昔はものづくりがそこまで発達していなかったので、日々の生活の中でテクノロジーに触れることは少なかったのですが、今はほとんどの人が朝起きてから24時間ずっと、ものと接し、ものを使う、そういう世の中になって、どんどん新しいものができています。いわば、ものづくりで人生が左右される、そういうことが今後もずっと起き続けると思うのです。
ものづくりのマイナス面で、工場から出る二酸化炭素や有害物質などで大気汚染や環境汚染の問題が出てきて、SDGsのような持続可能な改善をしていかないと、この数十年の劇的な変化に耐えられないと思うのです。ものづくりは今後も私たちの重大なテーマだと思います。工場は、日本だけではなく、中国も東南アジアにもインドにもヨーロッパにもアメリカにもありますが、皆、組み合わせ最適化の問題には苛まれていて、工場の中をいかに効率よく動かしていくかというところは、実は今のコンピュータでも容易に解決できなくて、そこに手間暇を取られたり、無駄が発生したりしています。本当はもっと環境や未来のことを考えるのに時間を費やした方がいいと思うのですが、それよりも今日どうする、明日どうする、来週どうするという問題が難しいが故に、人が煩わされています。私たちは生産スケジューラを作っているわけで、より効率の良い計画によって、工場のパフォーマンスがよくなり、無駄な資源、ゴミ、二酸化炭素排出量が減る、無駄な電気量を使わなくてすむ、ということで未来の工場の問題の解決に貢献できるかもしれません。
いちばん切実な問題は、無駄にものを作りすぎてしまうことかもしれません。人の頭で計画すると、どんぶり勘定で無駄にものを作りすぎて、売り逃しをしてしまうと、世の中に出ることなくそれを廃棄しなければいけなくなります。誰にとってもハッピーなことではないので、まず未来の計画を、より効率よく、しかも無駄なく、工場の生産活動を改善することによって、間接的に環境面にも良い影響が出るのではないかと思います。
その他、効率よくものづくりをする上で、例えば残業を少なくしたり、無駄に人を多く費やしてしまうところを削減したり、最近は「働き方改革」という言葉を日本でよく耳にしますが、無理のない計画を作ってあげることが、国内だけでなく海外からも最近は求められています。無理のない計画は、人にとって働く環境の改善にもつながるのかなと思います。
未来を計画して、関係者すべてをハッピーに
ーーそういった社会課題に挑戦するアスプローバの取り組みや、課題解決につながる技術についてお聞かせください。
やはり直接的にハッピーになるのは、工場の人たち。工場では、注文を受けて生産していくのですが、注文についてくる納期がバラバラだったりします。工場としては極力、お客様の希望する納期通りに出荷してあげたい、という気持ちがあるのですが、設備の数、作業員の数や能力は有限なので、やはりそこで効率性が求められてしまいます。ではどうすればすべてのお客様に対して、希望する納期に間に合うように、生産して出荷できるかというところに、すごく頭を使わなければできないし、使ったとしても解決できないほど難しい問題です。これをコンピュータ上で解決のお手伝いをしてあげますよ、というのが、アスプローバの生産スケジューラなのです。
ーーどういった業種で、導入されているのですか?
業種は問わないというのが当初から思想としてありました。25年ほど前、まだ生産スケジューラというのが確立していない時は、お客様のために何億円で生産スケジューラを作ってあげる、といった市場だったのですが、弊社の製品は、お客様や業種を問わず、パッケージとしての低価格な汎用生産スケジューラという方針のもとに、ずっと販売し続けてきました。ですから、自動車部品や電子部品といったディスクリート製造でも、化学薬品などのプロセス製造でも、全部扱えるような、そういう設計なので、最初からわりとまんべんなく、業種を限定することなく、お客様に使ってもらえてきました。現在も、特定の業種を念頭に置くことはしていません。
工場というのは基本的に、原料を用意して、工程を経て、出荷されていくものなので、極力、問題を一般化し、本質まで落とし込んで考えることによって、究極的なモデルというのを作って、それに基づいたソフトウェアを提供することにしています。
地域ごとに特徴ある世界の工場
ーーアスプローバの生産スケジューラは、グローバルに使われていますね。
日本の製造業は、世界的に見てかなり突出した、ユニークな存在だと思います。現場の人たちの、改善に対する意識や、仕事に対する意識が高い。日本人は基本的に真面目で勤勉なので、指示や課題に対し、とても一生懸命に取り組むのです。ともすると自分の時間を犠牲にしてでも、うまく行かないことがあれば、それに対する改善を自らしていき、「それは上の人の問題だ」とか、他人ごとではなく自分ごとと捉えて、現場の人たちが解決していく、そういう力が非常に強いです。海外にも、そういう人たちもいますが、日本のようには行かないかなと思います。
先々週、ドイツのフランクフルトに行って、ヨーロッパとアメリカのお客様の、ユーザー会というのに参加してきたのですが、いろいろな国から集まっていただき、アスプローバに対する成果の発表や、アスプローバに対する要望や意見を言ってもらう場がありました。やはりアスプローバの生産スケジューラを、皆さん素晴らしいと言ってくださるのですね。ただ、ここまでの機能は、そんなに要らないよ、みたいな、そういう声を何人かから聞きました。日本は例えば電車が2分遅れたぐらいで謝罪や告知が出たりするような国ですが、ヨーロッパはそうではなくて、そこまで細かな制約や要求はありません。アスプローバの機能は使い切れないと言うのです。欧米の人たちは、自分たちの時間をだいじにして、定時になったらきちんと帰るし、ここからここまでは自分の役割、ここからは他人の仕事、という切り分けが日本よりもきっちりしています。どちらが良い悪いではないですが、日本は、自分たちで何とかしようという習慣の結果、労働時間が長くなってしまったり、仕事に対する独特のプレッシャーみたいなものが出てきてしまうのかもしれません。ヨーロッパの人たちにとって、いちばんだいじなのは、自分自身、自分の時間、周りの人たちとの関係。そういう視点に立った仕事のしかたなので、スケジューラに対する要求も少し違うかなと思います。
ーーアジアの国々では、どうでしょうか?
中国、東南アジア、インドに関しては、それぞれで違う背景があると思います。中国は、世界中から企業が集まって工場を作りました。今は、メイド・イン・チャイナの品質がかなり上がって、人件費も上がっていますが、工場のレベルがすごく高くなっているなと感じます。それに応じて工場の中のシステムも、より高度になってきて、分野によっては日本を追い越すレベルになっていて、10〜15年前とは全然違う状況です。
対して東南アジアは、少し前の中国のように、これからというところだと思います。東南アジアに今、工場がどんどん新設されていますが、工場の中の人のスキルや考え方、社内のインフラなどは、まだこれからというところと思います。生産スケジューラのようなものが必要とされる状況は、もう少し後なのかなと感じています。徐々に、こういうソフトウェアを使うと何とかなるんだねと、今はまだ人手でまかなっているのだけど、将来的にはこういうソフトウェアを使いたいね、という過渡期にあるのかなと。東南アジアは今後すごく成長していく、伸びていく、そういう場になると思います。
私たちのお客様は、タイ、ベトナム、インドネシア、マレーシア、フィリピンなどにいますが、でもそれらの国々はそれぞれ違うのです。東南アジアとひとくくりで見てはダメで、それぞれ宗教も、発展度合いも、国の成り立ちや主義も違うので、一カ国だけ見ても東南アジアを本当に知ることにはなりません。
インドはインドでまた独特で、非常に意欲的だと思います。工場もどんどん設立され、生産量も上がっています。インドの人たちは生産スケジューラを見て、これはいいね、どんどんやろうよと言ってくれることが多いです。意欲的なのですが、では生産スケジューラを使ってみましょうという準備や手順が、あまりうまく進む感じでもなく、まず、いいね、やってみようという、意欲が先行しているようです。だんだん理解と準備が進んできて、インドでもアスプローバの知名度が上がってきて、徐々にユーザーが増えてきている段階です。
ーー工場が日本に戻ってくる、という話もありますが…
私は詳しくはわかりませんが、日本に戻ってきた工場でも、人件費の問題がありますし、さらに高い生産性や効率性を求めて、人を使わないでという方向に持っていくかもしれないですね。例えばドイツがインダストリー4.0という言葉を何年も前に言い始めたのですが、工場自体を改善しよう、オートメーションで、人がいなくてもものが作れる、そういう工場を作ろうというのがあります。ニュースなどでも、例えばユニクロで無人の工場を作るみたいな話があります。でも皆が皆そうはなれなくて、よほど投資ができるところでないと難しいと思います。
難しい問題をよりシンプルに解くこと
ーーアスプローバの経営者として、イノベーティブなアイデアの創出や、イノベーティブ人財の育成について、どのような仕組みづくりや工夫をしていますか?
まず、非常に問題が難しいのですが、難しい問題をよりシンプルに解かなければいけない。当然、ソフトウェアとしても、かなり難度が高く、また、25年の蓄積があり、書き溜めてきたソースコードの量もかなり膨大になっています。C++で書かれていますが、求められるプログラマーのスキルはかなり高くならざるを得ない。データ構造、アルゴリズム、プログラムの読み書きのスピード、ノウハウ、能力、かなり高いものが求められます。どちらかというと、今流行りのプログラミングやソフトウェアのスタイルと違うかもしれませんが、20〜25年かけて一つのプログラムを延々と研究して作り続ける、そういう環境です。それは誰にでもできることではないので、本当に腕に自信があるプログラマーが各国から集まってきています。別に国を選んでいるわけではないのですが、別け隔てなく募集をかけていると、様々な国から来てくれます。基本的にプログラミング能力が高く、プログラミングが大好きでしょうがない人たちであれば、どこにいる人でも採用します。そういう人たちは、すごく優秀で、入社してから日本語を学ぶなども、苦もなくやり遂げてしまうような人たちです。その人たちに対して、特別に教えないといけないことはそれほどなくて、それより、弊社の理念を共有して、チームで仕事をすることを、日々積み重ねていきます。あとは、お客様とより多く接して、お客様がどういうことに困っていて、どういう課題を解決したいのかを、間違いなく理解することが重要です。
ーー海外から来ている人たちと日本の若者の違いはありますか?
一つは、海外から来る人は、まず何よりも日本が好き、日本で働きたいというのが念頭にあります。日本の文化が好きというのがあって、日本のアニメや漫画が好きという人もいるし、そういうサブカルチャーでなく、日本の禅、囲碁、寺などがいいという人もいます。マインドも日本人的な人が多いのです。そういう人たちは、日本に行くこと、日本で働くこと自体に喜びを感じますので、そこでプログラミングの力を発揮できる環境ですよ、というだけで結構満足で、会社の知名度などではあまり判断しません。世界的な大企業でもなく、人数も十数人の会社ですが、日本でプログラミングしていろいろな国から来ている楽しそうな会社で、しかも業績も良いので給料もいいというと、祖国の親御さんなどから「早く帰ってきなさい」ではなく、逆に「もっと日本で働きなさい」と言われるらしい。
日本の人たちは、自分の知っている会社、ふだん目にする企業に、どうしても親近感を覚えるので、うちのように知名度も高くない、十数人の会社に入って仕事をするということに、障害、障壁を感じてしまう人が多いのかなと思います。最終的にうちと、ある大企業との間で悩んで、そっちの大企業に行くというパターンが多いです。知名度、その人の持つ親近感、憧れ、オフィスの華やかさ、そういうところを見ているのかな。それでも、あえてうちがいいと言ってくれる人も、もちろんいます。
実社会の問題を解くアスプローバのプログラミング・コンテスト
アスプローバでは、プログラミング・コンテストを去年の夏から連続して4回開催しています。世間一般の人たちには、生産スケジューラや工場の中の難しい最適化の問題は馴染みがなく、それはプログラミング好きの人でも同じです。でも、プログラミング・コンテストをやると、アルゴリズムやデータ構造などにすごく興味のある、腕に自信のある人が集まってきます。また、これからプログラムを勉強してみたいという人も、最近はプログラミング・コンテストとか、競技プログラミングという世界からプログラムを学んでいくことが多くなっています。私が若い頃とずいぶん違うようです。そういう人たちに、私たち社員が取り組んでいるような課題を、そのままに近い形で解いてもらう。すると、競技プログラミングなどをやっている人たちに、世の中にはこういう問題があるというのを、実際に知ってもらう機会となり、そういうのがわかるアスプローバ社のプログラミング・コンテストっていいよね、と言ってもらえます。そういう実際の問題に対して、自分たちが得意としているアルゴリズムでどういうことができるのか、実際に挑戦してもらう。もしかすると、教科書に載っているような問題を解くよりも、実際に世界中の誰かが困っているような問題を解く、そういう機会に触れることが、けっこう貴重なのかもしれません。
参加している人たちに、基本的には楽しんでもらうことが、いちばんの目的なので、プログラミング・コンテストが終わると一度オフ会を開いて集まっていただいています。コンテストの開催期間は1〜2週間ぐらいですが、そこでやりあった仲間たちと集まり、食事も一緒にしながら、ああだよね、こうだよねと交流を深める。そこには仕事とはまた違った、と言っても、力の入れようは趣味の範疇を越えているのですが、交流、切磋琢磨、新しい発見、そういったことができる、参加者にとっても、私たち社員にとっても、学びの多い場となっています。
ーー小中学生、高校生、大学生など若い世代に伝えたいメッセージをおねがいします。
特に日本などの先進国にいると、飢餓などで苦しむような状況ではないと思います。日本にも貧困問題はあるので一概には言えませんが、わりとモノ的には豊かで、食事とか衣料とか物量としてはかなりあるし、環境としては整っていると思います。すると若い人たちは、目標というか、なんのために勉強や仕事をするのか、モヤッとしてわからなくなってしまうこともあるかと思うのですが、自分が楽しいと思ったことは、どんどんやっていいと思います。他人の目を気にする必要は無いと思うのです。楽しいことを、どんどん突き詰めてください。世の中いろいろなことがやり尽くされてしまっていたり、外国からいろいろなものが来て、自分の力を発揮する場がないみたいな印象が、もしかするとあるのかもしれませんが、そんなことはなくて、とにかく楽しいと思ったことを普通に楽しんでいいのです。社会課題のところでも言いましたが、この豊かさもほんの数十年のできごとなのです。ちょっと前まで戦争が多かったり、その前は産業革命が起きる前の、科学のあまり発達していない段階で、感染病で若いうちに死んでしまう人も多かった。科学が発達していないから、今なら簡単に解決できることが解決できなくて、人が苦しんで、パタリと命が終わってしまう。今は医療も発達して、例えば心理学なども発達している。昔はそこまで心理学が発達していないから、ものの考え方は生まれてから死ぬまでさほど変わったり勉強するようなことも、もしかするとなかったかもしれない。今はかなりいろいろな心理学が研究されていて、何か悪いことがあると、外に原因を探すかわりに、自分の内面に実は課題や反省点があり、性格を変えて善処するなど、そういう「幸せになり方」みたいなのができつつある。そういう意味では、この数十年を生きている私たちというのは、過去の700万年を生きてきた人たちからすると、ものすごく恵まれていると思います。それを忘れがちだと思うのです。今の状況しか目に入らないし、それが当たり前と思ってしまう。でもそれは人類の700万年という歴史から見たら全然当たり前のことではない。そういうのをどこかで思い出して、自覚するといいのではないかと思います。ちょっと前の戦争の時の話を見聞きするのでもいいし、もっと前の話でもいいと思います。そうすると、すごく恵まれた環境にあるのだなというのがわかり、旅行に行くとか、年取ってから孫と遊ぶとか、昔はそういうことができなかった人の方が多いと思いますが、今はできるので、苦しい状況があっても自分次第でより幸せになる要素が多いのではないでしょうか。昔は自分の力ではどうすることもできなかったことが、今は自分次第でできるということが少しずつ増えている。それがわかるといいのではないかなというのが一つ。
仕事とは、「将来のチャンスを掴むための準備」
もう一つ言わせてもらうと、最近読んだ本で、すごくいいなと思ったことがあります。ロス・ブラウンというイギリス人で、F-1で年間チャンピオンをたくさん取ったエンジニアやチーム監督をやった人で、もう高齢で競技からは引退していますが、過去を振り返る本の中で、こんなことを言っていました。若い人は、これから仕事をしますよね。何をしてもいいのですが、では仕事って何か、仕事の幸せって何かというと、「将来来るかもしれないチャンスを掴むための準備だ」と。準備をすることが仕事そのものだったり、仕事の幸せだったりするのだと。どんなチャンスが来るのか予測するのはとても難しいですが、でもチャンスが来た時にもし自分がその準備を何もしていなかったら、そのチャンスを掴めない。だから、将来来るかもしれないチャンスを掴むために、準備をする。そのためには、よりよいビジョンというか、人として正しい行いをして、見聞を広めて、あらゆる可能性を、目の前にあるのだけど目に入らない状況ではなく、ちゃんと関心を持って、自分の楽しいこと、自分だったらこれができるということを、できるだけ見つけて、準備をする。すると何年先、何十年先かわかりませんが、チャンスが来た時にその準備が報われて、自分自身はもちろん、世の中の他の人たちをも幸せにすることができる。それが仕事の幸せなんだ、ということをその本で読んで、最近とても気に入っているので、こういう機会に若い人に伝えたいと思います。
ーーアスプローバをはじめ、テクノロジーで社会課題に挑戦するイノベーティブな企業が集まる、通称「五反田バレー」地区の魅力や、企業と地域の関わりについて、教えて下さい。
弊社は大岡山から始まっています。私はまだ入社していませんが、創業者の高橋が東工大なので大学の近くに社を構えた。大岡山から戸越銀座に移り、会社も少しずつ大きくなり、戸越銀座も手狭になり、お客様に来てもらうのに少し不便なこともあり、ではということで、次は五反田に移ってきました。だんだん都心に近づいてきているのですが、戸越銀座から急に六本木ヒルズなどではなく、恵比寿でもなく、品川でもなく、五反田がいいよね、と。わりと庶民的なところがあるのと、懐にも優しいし、人的にも優しい、交通の便もよくて、私たちに合っているなという気がします。食べ物も美味しいし、活気もあるし。昼間もいいですが、夜お酒を飲むような時に、おしゃれなバーもあれば、ワイワイ楽しめる居酒屋もある。そういう面でも、すごく仕事がしやすい場所かなと。
新しい企業、若い人々との出会いが、新たな発展につながる「五反田バレー」
一般社団法人五反田バレーにも入会しました。私たちは工場の生産スケジューラを作るというかなりニッチなところにいて、いつも同じような方々と仕事をすることが多かったので、それ以外の業種や分野の人たちと触れ合う機会が実はあまりなかったのです。一般社団法人五反田バレーの存在を知って見てみると、会社の規模はさほど大きくないところから大きいところまでたくさんあって、すごく元気のいい若々しい企業が多いのですね。私たち、ベンチャーと言われることが多いのですが、もう創業25年経っている中で、そういった新しい企業、若々しい人たちと触れ合うことによって、また新しい発展があることを期待して入会しました。Slackで来る通知など見て、イベントに参加したりして交流を深めたいと思っています。
アスプローバ株式会社様へ
「次世代レポーター」からの取材感想
「最善の良い計画を秒単位で立てる生産スケジューラによって、工場の無駄な生産とそれに伴う残業を減らすことは、今後益々持続可能な社会づくりに大きく貢献していくと思いました。お話から、最適な計画を立てること、それはつまり“人の幸せ”のために計画を立てることなのだと強く感じられました。「最善の良い計画」と聞くと、効率は良いが人は疲弊してしまうということを私ははじめ想像してしまいました。しかし決してそうではなく、効率的かつ無理のない生産活動を計画することで、人にも環境にも優しいモノづくりが可能になるのだと思いました。
また世界に拠点を持つ企業であるにも関わらず、「若々しい企業が多い五反田バレーに参加することで、新しい発見をこれからも見出していきたい」とおっしゃっており、その謙虚で学ぶことに貪欲な姿が強く印象に残りました。その姿勢は、若い人に期待していることとして「どんどん好きなことをチャレンジして、自分の内面に反省点を見つけてほしい」という趣旨のことをおっしゃったことと重なるように感じました。そんな社長の若い人への期待に応えられるように、私自身これからの学生生活を過ごしていきたいと思いました。」(立正大学大学院臨床心理学専攻修士課程1年 田崎 正和)
聞き手:木村京子(エシカルコンシェルジュ)