企業インタビュー(9) 株式会社マツリカ様

株式会社マツリカ 代表取締役Co-CEO 黒佐 英司 氏

通称「五反田バレー」地区をベースに、STI(科学技術イノベーション)の力でSDGs(2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標)などの社会課題に挑戦する、素敵な企業をご紹介するシリーズ。

第九弾は、「世界を祭り化する。」をミッションに、 クラウド営業支援ツール「Senses」を運営する、株式会社マツリカ様です。

2020年1月14日、東五反田の五反田第三花谷ビル9階にある株式会社マツリカ様におじゃまして、代表取締役Co-CEOの黒佐英司様にお話をうかがいました。

株式会社マツリカ 代表取締役Co-CEO 黒佐 英司 氏

ーー黒佐さんは、一般社団法人 五反田バレーの代表理事でもあるので、そのお話をうかがうのも楽しみです!

営業支援ツールで「仕事自体の価値」、働き方を変える

ーーさっそくですが、黒佐さん、マツリカとは、どんな会社なのでしょうか?

弊社のミッションは「世界を祭り化する」です。「祭り化する」というのが造語なので、まず簡単に説明すると、人が何かに没頭したり熱中したりしている瞬間、スポーツで言うと「ゾーンに入る」、あれのもう少し時間軸が長いイメージです。「世界を祭り化する」というミッションをもとに、営業組織に対してSFAやCRMと呼ばれる営業支援ツールを提供しています。それがミッションからどうつながったのか。「祭り」という言葉がついているので、エンタメ事業やBtoCの事業かと思われがちなのですが、弊社はBtoB、法人向けにフォーカスしています。「人が祭り化する」ということを考えた時に、社会人って圧倒的に仕事に使う時間が長いのですよね。その時間をないがしろにして、それ以外の部分だけを祭り化していくのは難しいだろうなというのがあり、仕事自体の価値を変えていく、働き方を変えていく、というところから、BtoBの営業支援につながりました。営業って属人化しやすかったり、本来はクリエイティブで楽しい仕事のはずなのに、どうしても数字に追われて厳しい、苦しいというイメージがあったりするので、そこを変革していきたいという思いで、この事業をやっています。

株式会社マツリカのミッション「世界を祭り化する」

自由な風土・文化を支えるバリュー

組織に関しては、「マツリカってどんな会社?」と問われた時に、「すごく自由な会社です」と、中の人も外の人も言います。働く場所・時間や、裁量も含めて、非常に自由な風土・文化です。もちろん会社なので、労務管理など法律に関わるところはしっかりしていますが、業務を進める上での管理というのは一切ありません。その自由な風土・文化をどうやって支えているかというと、「Initiative」「Liberty」「Creativity」という3つのバリューを、マツリカではとてもだいじにしています。この3つのバリューだけは、共通の価値観として約束して、各々が責任を持ち、自由な裁量で働いています。

ーー今、世界には、SDGsに掲げられているような様々な課題があります。マツリカが重視するグローバルな課題とは?

事業やミッションに直接つながるのは、「働きがいも経済成長も」ですね。「ジェンダー」とか、「平等」も関係します。働き方を改革しつつ、企業側の価値観も変えないと、制度ばかり先行しても、それらの課題の解決は、なかなか実現しません。そのあたりが、弊社の事業に直接つながる課題だと思います。

営業の現場、より豊かに、より楽しく、やりがいを

ーーそういった社会課題に挑戦するマツリカの取り組みや、課題解決につながる技術についてお聞かせください。

SFA、CRMというのは、営業管理ツールとか、顧客管理システムとか呼ばれるのですが、基本的に会社SFA・CRMというのは、営業管理ツールや、顧客管理システムと呼ばれますが、基本的には会社の顧客データベース、売上、商品などを一括で管理するものです。SFA・CRMの業界は古く、20年以上前からある程度の市場も存在していた中で、弊社はだいぶ後発で入っていきました。「管理」という言葉が示唆するように、基本的には管理者に価値が届くツールなので、少し極端な言い方をすると、実は現場を無視したツールになってしまっていました。現場というのは、いわゆる営業パーソンですね。従来のSFA・CRMでは、営業パーソンが日々どういう行動をしているか、お客様にどんな話をしているか、という記録を情報として残すことで、管理側は組織として何が行われているかを把握できるということなのですが、実際に入力する現場の人からすると、「入力させられている、面倒だ」と感じたり、どう自分たちの役に立つのかというメリットを感じづらい、ということで、結局、運用に乗らない、入力されない、という問題が起きていました。もともと営業は属人化しやすく、個人商店になりがちな職種です。そうなると組織としてサステナブルでないので、知識や情報の蓄積が個人に留まらないように、管理ツールが必要となりますが、それが管理者側の意志だけで成り立ってしまうのではなく、現場にいる個人もちゃんと使いたい、自分たちにメリットがある、と思って使ってもらえることが非常に重要です。そこで、現場の営業パーソンにとっても、自分たちの営業活動をより豊かにするために、より楽しく、やりがいを持って使えるSFA・CRM、というところにフォーカスしているのが、弊社のプロダクトです。

弊社のプロダクトの強みは、主に2つあります。「使いやすい」ところと、「現場にメリットがあり使いたいと思う」ところです。

まず、使いやすさについては、UI、UXに非常に拘りを持って作っています。例えば、他社のツールで3クリック、4クリック必要な動作が、弊社の「Senses」では1クリックで済みますよ、というようなことが、あらゆる機能で実現されています。

次に、現場にメリットがあり使いたいと思う、というところですが、従来のツールには欠けていたその視点を、弊社ではとても大事にしています。現場目線の開発を重要視しており、それがいろいろな機能にあらわれています。例えば、営業の人が活動の先に求めているものは、ほとんどの場合、受注成約です。なので、受注成約に向けて、何かヒントを得られるとか、そこに近づける材料が得られるのならば、喜んでもらえるはず。弊社のプロダクトでは、それを機能化しています。もう少し具体的に言うと、例えばある会社、ある人に提案しに行く時に、どういう提案を持っていったら受注に近づけるか、自分で考えるには限界がありますし、属人的になっている今までの自分の知識・経験だと、必ずしも充分ではなかったりする。なので、過去の事例やデータをAIで解析して、このお客様の、この局面では、こういう提案書を持っていったらいいのではないかというヒントを出してくれる機能があります。そういう機能を使うことで、「あ、こうすればいいんだ」とか、考えが及ばなかったところまで気づきを得られて、営業活動に活かせて、結果的に受注率が上がる、というところにつなげていくのが狙いです。

「何を解析するか」がだいじ

AIについて近年よく言われていますが、マシンラーニング、ディープラーニングなどと、いろいろなAI技術を使うことや、その技術の高さや精度よりも、実は、何を解析するかがだいじです。つまり、重要なのはデータです。そのデータの残し方に、弊社の強みがあります。SFA・CRMが世の中に出始めたのは約20年前ですが、当時は今で言うクラウド・サーバ、AWS、GoogleのGCP、MicrosoftのAzureなどはありませんでした。クラウド・サーバがなく、サーバ代に非常にコストがかかっていたので、そもそも大量のデータを残して解析に使いましょうという発想がありませんでした。だから、その当時に作られたSFAのデータ・テーブルの設計は、すごく浅いものになっています。弊社は後発で、2015年に設立しているので、今の時代、これからの時代に合ったデータ・テーブルの設計ができています。ですから、同じように使ったつもりでも、溜まっていくデータの整理のされ方や、溜まるデータの量などに、圧倒的に差が出てきます。データの溜め方、整理のされ方は、データ解析においては非常に重要ですし、弊社が他社と差別化できるところかと思います。

弊社のプロダクトを使うと、データがあらゆる軸で非常にきれいに整理されます。すべての業種・業界がお客様です。業種も規模も設立年数も幅が広く、使い所によっていろいろですが、例えば、いわゆるスタートアップ企業、ベンチャー企業のようなな若い会社だとすると、最初は数人で始まりますよね。それが10人、20人になって、100人になって、500人になってと、成長していく中で、例えば営業が最初は2人いて月に4件の受注が出ていたとします。それが5倍の10人になると、受注も5倍の20件になるかというと、そうはいきません。生産性は落ちてくるのです。当然オペレーションを含まないといけないとか、いろいろ非効率な部分が出てくるからです。なので、生産性を落とさないように、2人ぐらいの時期で導入してオペレーションを確立したり、新しく3人目、4人目が入って来た時に、このSensesというツールが仕事の土台になっていれば、マンツーマンで手取り足取り教えなくてもSensesを見ると、こうやって進めていけばいいとか、この時にこういう提案書を送ればいいとか、全部蓄積されていて、自動的に教育してくれるようなシステムになっています。そういう意味で言うと、成長しても生産性が落ちない働き方、組織が作れる事例はたくさんあります。

他方では、設立50年以上の伝統ある会社が導入するケースもあります。昨今の働き方改革などで、ペーパーレスや生産性を高めようという意識で、今まで本当に属人的にやっていたものを、デジタルの力を使って何か改革しようという流れが来ている中で、従来の業務に非効率な面は少なくないので、導入した瞬間に効果が出るパターンも大いにあります。例えば、会議の頻度や時間が半分になるとか、報告業務や連絡業務が大幅に短縮されるとか、そういう効果は導入した瞬間に得られます。

劇的に変わる、営業の仕事

ーー未来の営業、どうなるでしょうか?

ある面では、すでに変わっていると思っています。10〜20年前まで、営業の仕事はほぼ情報屋でした。情報を与えることが勝ちでした。ですが、インターネット1.0から2.0の時代になって、誰でも平等に全世界の情報にアクセスできるようになった今、もう営業は情報の出し入れで勝負できなくなりました。昔は、然るべきタイミングで相手が欲しい情報を与えるということが勝ち負けを決めていましたが、今は本質的なソリューション営業が非常に求められています。「これが欲しいです」「ではこういう商品があります」というのは、世の中の情報を見ればわかるから必要ないんです。「これが欲しいです」の裏にある、なぜこれが欲しいのか、本当に欲しいものはこれで合っているのか、というところを掘り下げて、本質的な課題を見つけて、そこに対して提案をするという営業ができなければいけない時代になっています。これからもその流れがどんどん続いていくと思っています。

一方で、営業の数は減ると思います。ある程度の部分がマーケティングという領域でまかなえるようになったためです。昔は営業が情報屋となり、マーケティングの一部を担っていましたが、今はここをデジタルでかなりできるようになったので、営業の数は減るけど、質を上げなければいけない時代にますますなっていきます。

株式会社マツリカ 代表取締役Co-CEO 黒佐 英司 氏

「Liberty」と「Creativity」からイノベーションが生まれる

ーーマツリカの経営者として、イノベーティブなアイデアの創出や、イノベーティブ人財の育成について、どのような仕組みづくりや工夫をしていますか?

イノベーティブってすごく難しいのですが、ある日突然すごいアイデアが浮かんでくることってあまりなくて、ほとんどの場合、自身の知識経験と、その組合せによって生み出されるものです。ただ、アイデアに対する議論が交わしやすいとか、アイデアを出しやすい風土みたいなものを作るところで言うと、弊社には「Liberty」というバリューがあります。自由な発想、自由な環境、自由な方法で、誰に対しても胸を張って正しいと言える行動をしよう、という約束です。各自が責任をもち自由に行動することを大事にしているため、発言をする、アイデアを出す、というところにも、障壁がないようにはできていると思います。また、日々コツコツ積み上げることもだいじですが、「もっとこうしたら速くできるよね」という発想を忘れないことも重要です。常に今の目線ではなく、広い目線で考えて、創造性を発揮して行動しようというのが「Creativity」というバリューです。このLibertyとCreativityで、発言しやすく、かつそのアイデアも、今の目線に留まらずより中長期の目線で考え発信しようという風土が作れていると思います。

人生の本質的な意義

ーー小中学生、高校生、大学生など若い世代に伝えたいメッセージをおねがいします。

日本の新卒採用は特殊で、私個人としては今の一括採用のようなもの自体には意味がないと思っています。学生の時に業界研究、会社研究をして、その会社や業界の本質が見えるかと言うと、そんなことはありません。実際にやってみないとわからないことがたくさんありますし、もはや転職ありきだと思うのです。終身雇用なんてとっくの昔になくなっていますし、それは大企業でも中小企業でも関係なく、会社がいつどうなるかなんてわからないものです。だから、新卒でどこの会社に入るかという選択よりも、人生の本質的な意義を見つけてほしいと思います。自分が「何のために生きているか」「何に喜びを感じるか」など、自分自身の人生の本質的な意義を見つけることがずっと重要だと思います。これが学生の時にできると、もしかしたら就職ではない別の道があるかもしれないですし、起業でも、就職でもNPOなどに行くでも、何でもいいのですが、選択がもっとはっきりすると思うのです。人生の意義が見つかると、何のためにどういう行動をするが紐づいてきます。難しいことですが、学生の時にそれを見つけ、自分を見つめ直して、どうしてその道へ行きたいのかを決めることができれば、とても良いと思います。

株式会社マツリカの受付

「五反田=スタートアップ」

ーーマツリカをはじめ、テクノロジーで社会課題に挑戦するイノベーティブな企業が集まる、通称「五反田バレー」地区の魅力や、企業と地域の関わりについて、教えて下さい。

五反田に限りませんが、スタートアップが集まってくる場所や、コミュニティの存在は必要だと思います。それが五反田になった理由は、もともとは家賃が安かったこと。スタートアップは最初は渋谷などに集まることが多かったのですが、渋谷はどんどん家賃が上がり、入れるところもなくなって、次に山手線で言うと恵比寿になり、恵比寿も結構もう高いし、いっぱいだし、目黒へ行くと、空いているのですが、まあまあ高いのです。五反田に行くとぐっと下がる、ということで山手線をずっと移動してきたようなスタートアップの歴史があるのです。今では五反田も家賃が上がっていて、目黒などとそんなに変わらない。一般社団法人五反田バレーを設立して、スタートアップも増えてきて、上がってしまいました(笑)

もともと自然に集まっていた理由はなくなっているかなと思いますが、今は「五反田=スタートアップ」みたいになりつつあるおかげで、スタートアップが五反田に集まりやすくなっています。一般社団法人 五反田バレーが品川区と協定を結び、地域と一緒にスタートアップを支援していくような枠組みができているというのも、非常に意義のある良いことだと思っています。具体的に何かと言うと、やはり新しいものを始めるには、いろいろなハードルがあります。スタートアップは即ち、イノベーティブな、世の中に新しい価値を提供して課題解決をしていくことなので、いろいろなハードルがあるのですが、例えば採用でたくさん人が必要だとか、あるいはお金が必要だとかいう時に、一社だけでやるには限界があるし、無駄も多いです。集まった組織で、例えば採用イベントなどをすると、「五反田のスタートアップに行こう」ということで、かなり多くの人数を集められたりします。

お金に関しても、銀行とかベンチャーキャピタルとか一社ごとにあたっていくのは大変ですが、まとまっていると、その銀行やVCに合った会社はこれとこれですよ、みたいにピックアップできるので、かなり非効率が解消されたりします。また、シリコンバレーの例でいくと、地域住民の理解がすごく高いのです。これは何かというと、新しいサービスを何か始める時、日本だと法規制などがあって難しいのですが、例えばシリコンバレーなどだと、かなり前から自動運転車の試験運転がいろいろなところで行われていて、法規制もそうですし、地域住民の反対があったら絶対できないですよね。人が移動する時の電動スクーター、BirdやLimeのような、電動走行で好きなように乗って好きなところでポイ捨てしてみたいなものも、やはり日本でやると、法規制だけではなくて、地域住民の反対などすごいと思うのですが、あるエリアに特化して、区の支援もいただきながらだと、地域住民の理解も得やすくなります。新しいサービスなどを展開していく時に試験は絶対に必要なので、そこのハードルを取り除くという意味で、どこかに特化しているというのはすごく重要なのかなと思います。

一般社団法人 五反田バレーのメンバーは、基本的にはスタートアップですが、正会員だけではなく賛助会員もあります。なので、特にスタートアップでないと会員になれないということはありません。本来はスタートアップが世の中の社会課題をより解決しやすくするとか、成長しやすくするとかを目的として作られた団体になります。

品川区との連携を活かして

弊社はBtoB事業なので、地域住民との接点は多くはありませんが、それを必要とする企業はたくさんいますし、品川区との連携を活かして、もっと地域住民と一緒に街を作っていくようなことをやれたら面白いなと思います。例えば、コワーキングオフィスのようなものが、ここ数年で日本に広がり、五反田にも「Innovation Space DEJIMA」などがあります。でも、もう数年前からシリコンバレーなどだと、コワーキングでなくコセリングオフィスみたいなのが流行っています。何かというと、たまたま一緒にコワーキングスペースを借り合って仕事をするだけではなく、お互いにプロダクトを紹介し合う、売り合うようなスペースなのです。お互いの成長のためにお互いのサービスを使ったり、購買したりするんですが、五反田だからこそそれができると思います。最初の数人で始めて、どことも何のつながりもないのではなく、始めた瞬間から試験導入してもらったり、アドバイスやフィードバックをもらったりという土壌が、五反田で作れるといいと思います。

資金流入も、だいぶ増えましたが、まだまだこれからだと思います。これまでのVCには金融畑の人が多く、アントレプレナーシップを持っている人、事業をゼロイチで立ち上げた人が、ほとんどいませんでした。起業家たちが新しくどういう未来を作ろうとしているのか、理解するのはただでさえ難しいのに、経験がないと一層ハードルが高いと思います。アメリカの場合、起業して、売却やIPOをして、その後、投資家側に回るということが、だいぶ前から起きているので、結構エコサイクルができていますが、日本では、ようやく最近、エグジットしてそれなりに富を形成してそのお金でエンジェル投資をするというのが始まってきたので、もう少し増えてエコサイクルができていくと、もっとレベルが上ってくると思っています。

聞き手:木村京子(エシカルコンシェルジュ)