地域と共に前進する。越後天然ガスの、みんなを “Win” にするサステナブル経営戦略

電力自由化、都市ガス自由化、そして地方の少子高齢化。もはや抗えない時代の奔流の中で、地域ガス会社の経営基盤の強化のためには、未来志向かつ実現可能な経営戦略を論理立てて練り上げ、それを周囲に伝えて仲間を巻き込んでいくことが大切です。他のエネルギー供給事業者と比べ、地域密着型で、各地方自治体との距離が近い地域ガス会社は、本業となるガスの供給事業に加え、地域共通課題である脱炭素、まちづくり、レジリエンス、ライフライン維持の他、地域固有の課題など、自治体が抱えるさまざまな課題に応えていける機会に恵まれているとも言えます。その結果、地域内外の連携を有効活用しながら地域活性化を進めていく立役者となることが期待されています。

そんな中、近年経済産業省のエネルギー・環境に関する審議会・研究会でも盛んに議論されている「2050年に向けた地方ガス事業者のサステナブルな経営」の概念をいち早く事業やまちづくりに取り入れ、地域と密接に関わりながらサステナビリティ活動に取り組んでいるのが、新潟県新潟市秋葉区に本社を置き、新潟市秋葉区、新潟市江南区、五泉市に都市ガスを供給している越後天然ガス株式会社です。

越後天然ガスのキャラクター、モアモアファミリー。時空を超えてやってきた、火とガスの神の使い。

2018年10月、越後天然ガスは新潟市と「持続可能な低炭素のまちづくりに関する連携協定」を結び、市に低価格で電力を供給する他、再生可能エネルギーの導入などで協力しています。市は購入した電力を、秋葉区内にある市の文化会館や区役所などの公共施設で利用し、越後天然ガスは市に売電した収益を、秋葉区内の里山の整備や街路灯のLED化に当てるなど、この取り組みを通じて秋葉区が掲げる「田園型環境都市の実現」を経済と環境面からサポートする仕組みです。公共施設内ではエネルギーの消費量を分析し、効率的な電力消費につなげる挑戦でもあります。

今回ラウンドテーブルコムでは、株式会社NGK(日本元気化計画)のご協力により、越後天然ガスが実現する「えちてんサスティナブルビジョン 2050」達成のための取り組みについてうかがいました。新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が出ている中でオンライン会議サービスZoomを使ったインタビューに答えていただいたのは、越後天然ガス株式会社代表取締役社長 小出薫さん。エネルギー自由化の荒波を乗りこなし、同社のサステナビリティ経営の陣頭指揮を執る多忙な日々です。

生き残るため、唯一の答えが「サステナブル」

–企業として2050ビジョンを掲げてサステナビリティに全力で走り出すことになった背景にはどのようなことがあったのでしょうか?

2016年4月の電力自由化についで、2017年4月には都市ガスの自由化が始まりましたが、その前の2015年ぐらいから、間違いなくそうなるなと確信していました。その中で当社が生き残るにはどうするのかと考え、100通り以上のシミュレーションをしたのですが、たどり着いた唯一の答えがサステナブルだったのです。最大の課題が少子高齢化でした。地域の人口がどんどん減っているので、地域を活性化しないといけない。今までのように自社だけでなく、行政やいろいろな団体と手を結んでやっていかないと無理だなということがわかり、そこからサステナブル経営に切り替えました。ではどうしたら持続可能な会社や地域を作れるのかというのは、ひたすら自問自答です。地域に人がいなくなったら会社も成り立たない。また、いくら利益を出しても社員どうしが仲良くなかったら会社は長く続きません。ならば縦串と横串をしっかり打ちましょう。というように一つ一つ掘り下げていって実行しています。その中で、会社として環境に優しいエネルギーの供給など、成功の5つの柱をビジョンの中で掲げたという経緯です。

–社長が自ら先頭に立って旗振りをされたのですか?

そうです。自由化になった時に受け身のままでは危険だと思いまして、まず、社長である私が動いたのです。「今はこういう時代だから私はサステナブルをやる」と社内に説明をして実行しました。社長は朝からずっと社長室にいて定時になったら帰るというのではダメです。私は社外の人を仲間にしなければ持続可能なまちづくりはできないと思って、とにかくいろいろな人と会って、話をして、味方になってもらうということをやりました。私が興味を持って会いたいと思う人のところに出かけていって話をすると、今度は向こうから来てくれるようになり、その人たちがまた別の人たちを次々と紹介してくれました。そうしたら社員が「あれ?何をやっているのだろう?」と、興味を持ち始めた。簡単には会えないような人が、話が終わって社長室を出る時は私と一緒に笑顔で出てくるのですから、社員の私を見る目が変わります。そこから徐々に「社長の言っていることは本当かもしれない」となって、社内が変わってきました。

–素晴らしいですね!

「会社にいる社長はダメ」と言いますね。管理職にも当てはまります。できる人ほど、どんどん情報収集して、いろいろな人を味方にして、さらに勉強して、自分のスキル・能力を上げるようなことをしています。会社にいて部下を管理するだけの人は、昔は良かったのかもしれませんが、今の時代では能力が伸びない。

–自由化になるということで周囲の中小ガス会社は漠然とした不安を抱いていた、その中で小出社長は地域で生き残るためにどうしたらいいのか、大手のガス会社に囲まれた状況での差別化を真剣に考えた結果、いき着いた答えが、「地域とともに」「持続可能」といったコンセプトだったのだと思います。

そうですね。持続可能というのを最初はできるだけ大きく、何十年も続く会社にしようというところから考えていたのですが、掘り下げていくと、そうではなく、地域も持続可能にならなければいけない、環境などもしっかりCO2を削減しないと持続可能にはならない。とにかく持続可能というのをいくつもリンクさせて、私たちだけでなく地元の人たちも持続可能に、ということでいろいろな相談にも乗っています。

–なるほど、そうしてできたビジョンが、エネルギーによる地域の環境負荷を減らすことと、住みやすいまちづくりに貢献することだったわけですね!

みんなオープンになって言いたいことが言える社会になると、「新潟っていいな」となると思います。まずは越後天然ガスという会社で実現して、ビジネスパートナーなどに伝え、少しずつ変わっていくように率先してやっています。

電力コスト削減で利益を自治体に寄付、地域の環境整備に還元するプロジェクト

–「5つの柱」のいちばんに掲げている「環境に優しいエネルギーの共有」のところで、新潟市秋葉区公共施設への電力供給について、お話を聞かせてください。

電力事業で得た利益を全部還元するというのは社員が言い出したことです。サステナブルのポイントは地域経済循環で、そのためには大企業に吸い取られている地方の利益をしっかり地方に戻さないといけないと、前からいろいろなところで言ってきましたが、それを社員がしっかり覚えていたのです。実は来月(2021年3月)から東北電力管内の一般家庭に対しても新電力事業を行うのですが、自由化の話が出たぐらいの頃からビジネスビジョンとして考えていました。そのビジネスを成功させるためにどうするかといった時に、他とは違う何かがあった方がいいよね、というところから行政と話していき、それをやるなら前段として秋葉区への電力供給で得た利益は秋葉区に還元しましょうと。行政に対してCO2排出係数を50%に削減した電力を供給するというのが最初にあってから一般家庭に電力供給すると、見る目が全然違う。お客さんが増えれば増えるほどしっかりと税金を落とせるので、という戦略ですね。

–自治体と企業がWin-Winとなるスキームだったわけですね!

まさにそうです。初めに家庭用にいってしまうと、一軒一軒営業しないといけないのです。それはナンセンスだと思ったので、まず大きなものをドンと取っておく。しかもそれが行政である点がポイントで、サステナブルとか地域活性化など当社の取り組みに対してのお客さまの信用度が違ってきます。それで基盤を築いて、ノウハウを固めてから家庭用にいく戦略です。

–実際に利益はどう還元されているのですか?

秋葉区の公共施設に電力供給して得た利益を全部、秋葉区に寄付しています。そのお金は、LED化などの環境対策と里山保全活動に使われています。具体的な使い方は自治体が決めますが、基本的に「田園型環境都市の実現」のために使用されます。

家族をあたたかく見守るエメラル(ママ)

再生エネルギーの鍵となる仕組みづくり、仲間づくりの「0円ソーラー」プロジェクト

–次の柱である「再生エネルギーの導入促進」では、五泉メガソーラーをはじめ太陽光発電所の建設を進めてきましたが、再生エネルギーの中で太陽光にフォーカスされているのでしょうか?

太陽光がいちばん手っ取り早く、コストがかからなくて効率的なのですが、太陽光に絞っているわけではなく、バイオマス、水力、小水力もタイミングが合えばやりたいです。

–再生エネルギーを進める上で今いちばんの壁は何でしょうか?

コストですね。新電力事業は非常に難しいです。電力事業の原価率は90%とも言われ、よほど本業がしっかりしている会社でないと。ですから日本のやり方だと、再生エネルギーをどんどんやるのは相当難しい。新電力で「うちの電力は環境にいい」と言っても、非常に高い。よほど環境に関心の高い人でないと買わない。利益が出ないと潰れるので、そこの仕組みが是正されないと日本ではなかなか難しいのではないかと思っています。

–どういう取り組み方が有効なのでしょうか?

いちばんいいのは法律を変えることだと思いますが。当社がこれから行う事業に、0円ソーラーというのがあります。当社が設置費用を全額負担してお客さんの屋根に太陽光パネルを置いてもらい、その代わり越後天然ガスの電気に切り替えてもらいます。そして10年経ったら、その太陽光パネルはお客さんにあげます。というのを先々週、新潟市と当社を含む5社が提携しました。これで新潟市ではどんどん屋根に太陽光パネルを乗せましょうと。このようにリスクを軽減する仕組みを作らないと難しいと思います。

–仕組みづくりと、仲間づくりでしょうか。

最初は当社だけでした。市がそういうことをやりたくて、当社は一緒にやりましょうということで話を聞いて、リレーションして進めました。行政との付き合い方は、企業が責任を持って主体となり、行政には支援していただくというスタンスです。行政の中のやる気のある人にどんどん話して、その人がうまく上司を動かして、責任は当社が取りますと言って、成功すると「おっ」という感じです。それでどんどん仲が深まって、あれやりましょう、これやりましょう、となります。小さくても成功例を出していくと向こうの態度が変わっていき、さらにパイプが太くなります。Win-Winの関係が築き上げられていくのです。

企業がリーダーシップをとるエネルギーの地産地消「面的推進」プロジェクト

–「分散型エネルギーシステムの推進」では、「面的推進事業」というのはどのようなことをしているのでしょうか?

新潟市秋葉区は区役所を中心にとても多くの公共施設があります。そこに自分たちで熱導管と電線を引いて全部をつなげてしまって、こっちで熱が余ったら別の方にただで共有しましょう、電気が余ったら足りない方へ共有しましょう、というシステムを構築する事業です。IoTなどもつなぎます。送電ロスが最大の課題なので、可能な限り自家発電で、太陽光パネルも置き、あとはガスのコジェネレーションでも電気を作って、なるべく商用電力に頼らないという取り組みです。

–そういったシステムは未来のあたりまえになっていくのでしょうか?

そうなるといいですけれども、簡単ではありません。私たちは、新潟市だけでなく、県や関東経済産業局の他、いろいろなところから情報や支援を得て、「越後天然ガスがやります」と言って主体的にやっています。「行政さん、作ってくださいよ」ではうまくいかず、いつの間にか消えてしまうことが多いです。そこでリーダーシップを発揮できる企業がいるのかというのと、大企業であれば利益がどうなのかというところでなかなか踏み込めない。当社はこの地域を疎かにして他の地域に出ていくことはありませんが、もしこういうことをやりたいという地域があれば、ノウハウは全て教えるつもりです。成功例を作って、他の地域が真似できるような環境を作れれば面白いと思います。自由化になる際、短期的な戦略はあっても、数十年先といった長期的な戦略は実際には戦略を描けていなかった企業が多いと思います。今の時代は短期と長期「両利きの経営」が確立できないと難しいので、ぜひ当社を真似ていただければと思います。

トップが戦略を描ける企業が地域エネルギーのハブとして生き残る

–新潟は天然ガスが豊富で安いので、コジェネレーションには最適な環境ですね。地産地消しながらエネルギーを融通し合う補完関係が充分に成り立ちますね。地域ガス会社が地域エネルギーのハブになっていただきたいと思います。ソーラーシェアリングなどもそうです。地域の会社が他へいくのではなく、地域ごとに活性化しながら余ったものや強みを交換し合う、意欲的な地域のネットワークが理想ですね。そのために今、地域ガス会社としてやるべきことは何でしょうか?

一言で、企業戦略が描けているか、それに尽きます。それができていない企業トップが多いのです。気候変動に対しても勉強と危機感が足りない企業がまだ多い。計算結果が出ているにもかかわらず。越後天然ガスが成功例を見せて真似てもらって、危険な未来を回避する方法がビジネスとつながればいいと思います。トップが勉強して戦略を練らないと、人も来ないし、育たない。今はリモートワークで人財が地方に分散する流れもあるので、トップを含む経営陣の力がより試されています。

電力の購入で地元チームをファンが応援できるプロジェクト

–これからどのようなパートナーシップを組んでいきたいですか?

方向性さえ一致すれば、業種業態を越えて多様な連携をしていきたいです。昨年(2020年)から越後天然ガスはアルビレックス新潟のオフィシャルクラブパートナーにもなっています。越後天然ガスの電力を買っていただくと、一部がアルビレックスの応援資金として使われるという仕組みです。このように、多様な相手と組んでいきますが、共通する考え方は、ビジネスはWin-Winの関係でということです。自分さえよければというのはもっての他ですが、一方的なボランティアでも持続可能ではありません。対等な関係が大切です。

越後は水が美味しい。だから食文化が豊かです。いろいろなまちごとに特色があるのも魅力です。そして、人が控えめで優しい。都会の生活に疲れた人は、越後を訪れればきっと癒されることでしょう。(2021年2月22日 越後天然ガス株式会社代表取締役社長 小出薫)

最後に

地域と共に歩みながら循環型コミュニティづくりに挑戦する越後天然ガス。先を見据えた戦略によって、課題を正確に分析し、他者を巻き込んで課題解決の道を切り開く。その際には、事業としての持続可能性が重要となります。 利益を上げながら環境とコミュニティづくりも推進していく。小出社長のお話をうかがって、今後の越後天然ガスの地域密着型の取り組みが、日本や世界の新しいエネルギー会社の在り方を牽引していくのが楽しみです。(有限会社ラウンドテーブルコム サステナビリティ推進室)

ご協力:越後天然ガス株式会社
ご協力:株式会社NGK(日本元気化計画)
取材・編集:有限会社ラウンドテーブルコム

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